僕達の革命

 もう一度やり直せないかな。

 呟くように言った彼女の声は湿っていた。その声と対照的に、少し逸らした瞳はからからに乾いて虚空を見つめていた。



 彼女は脆い人だった。

 その腕にいく筋もの切り傷があることを僕は知っている。彼女は泣かない。代わりに、彼女の心が揺れる度に傷跡が増えた。見るに堪えない、赤い涙。

 彼女はいつも独りでいた。いや、正確には僕と二人。僕達は互いをよすがとしていた。彼女には僕しかいなかったし、僕には彼女しかいなかった。二人だけの世界で僕達は生きていた。


 共依存。


 それはひどく心地よく、ひどく息苦しい関係だった。酸素の少ない水槽に放り込まれたような感覚。水槽の中で溺れる僕達。僕は彼女から必要とされることでようやく自分を維持していたのだ。彼女を利用していたと言ってもいい。このままではいけない、このままではいけないと思いながらずるずると関係は続いていた。それを心のどこかで彼女のせいにしていた。彼女は僕がいないと生きていけないからだと。彼女が僕にしがみついているのだと。ずっと言い訳をして関係性に甘んじて生きてきたのだ。


 僕は醜い。



 長い沈黙の後、鉛のように重い口を動かして、ようやく「ごめん」とだけ言った。かすれた声が二人の間に響く。

 彼女はちらとこちらへ目線をやり、また逸らした。そうしてゆっくりと息を着く。長く続いた関係性の終わり。僕達の世界の革命。彼女は今度はしっかりと僕を見た。仕方なさそうに微笑んだ彼女の瞳から、ほろりと一筋の涙がこぼれ落ちた。

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