彗星のようなひと

 インターネットという広い宇宙の中でその小説を見つけたのは本当に偶然で、僕はその幸運に感謝したものだった。


 心情を丁寧に描写したその話は、その時確かに僕の心を打った。その日の内に作者の他の小説も全て読んだ。どれも流れるようにうつくしい文体で、人物の心の変遷が丁寧に綴られていた。しかし、こんなにもうつくしい話を書いているのにも関わらず、どれもほとんど読まれていないようだった。閲覧数はどれも一桁。検索しても、作者の話題はおろか作品の感想など無いに等しい。いや、正直に言うと、全く無かった。僕は目を疑った。探し方が悪いのかとも思った。しかしやはり、どれほど探しても見つけることはできなかった。

 これ程の描写ができる作者が無名であることに違和感と憤りすら覚えた。僕はそのサイトをブックマークして、仕事から帰ると毎日チェックするようになった。時には拙いながらも感想を送った。新作が出ようものなら興奮して寝付けなかった。作品は何度読んでも飽きることなく、僕の心はその度に強く動いた。


 それから数年して、作者はアマチュア文芸界では名の知れた人になった。多くの人がこの作者の小説を読み、僕と同じように胸を打たれ、感想を共有し合うようになった。

 「まるで真昼に見える大彗星だ」と誰かが言っているのを、僕は少し眩しく、少し淋しい気持ちで見ていた。そして、大彗星となった今でも、僕はやっぱり心を動かされ、大彗星とインターネットの宇宙を見上げてしまうのだ。

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