ふたりぼっち朗読会

あいさ

1

 ゆうれのきょうしついろいろおとこえる。

 えだかぜられるおとはしきゅうごえすいそうがくのトランペット、はしゃいでわらちゅうがくせいのきらめきみたいな、ああ、これはちょっとムカつくひょうげんだな。


「おい、いているのか、きくかわ


 いらったきょうのおせっきょう

 おまえせいめられきってて、じゅぎょうほうかいすんぜんのくせに。


「……えー、いてるし、はんせいしてますってば」


 わざわざほうのこらせていちかんわたしえんえんと「おはなし」をするのだから、ごろうなことだ。ありがたいおせっぽうなんて、もうはりさきでついたよりおぼえていない。

 とうふう。すべてがだ。


「ならいいんだが。じゃあ、せんせいこれからかいがあるから」


 きょうがる。おせっきょうわりらしい。

 わたしはずっとひじをついていていて、そのうえなまへんはんせいなんてうわだけのうそだとわかるはずなのに、こいつはした。

 がっこうせんせいなんて、どいつもこいつもたようなもの。こころなかてんすうをまたく。あたまわるすぎるうえしんねんもなくていやになる。

 だから、わたしめられるんだよ。

 きょうがぴしゃんととびらめてていくと、はんたいがわとびらいきおいよくけられた。

 せっきょういていたときからまどしにかいだんれるプリーツスカートがえてた、というよりほんにんとばっちりっていた

のでべつおどろきはしない。


「や、サト」


 ひらひらとサトにる。かのじょたいしてわたしはすべてがおざなりでいい。


「さっきったよね。びっくりしちゃった」


 サトはそういながら、さっきまできょうせっきょうしていたすわる。


「キクちゃん、すっごいかおしてたね。ええと、なんにもいてないかお!」


 ああ、たしかにそんなかおをしていた。よくている。


今日きょうはなんでおこられてたの?」

せんりょうされてたからどかしただけ。だって、3かいどいてってってもどかないし」


 だから、みずたまリボンのポニーテールをってからきずりろした。だれだって、へらへらとわざとらしく「え、こえなーい」と3かいかえされればるだろう。

 それでどれほどしかられたところで、しかってきたあいべつわたしまもりはしない。


「まあ、それより。昨日きのうつづきからだよね」


 かばんなかからぶんぼんす。タイトルはついこのあいだ、アニメしたライトノベルだ。


「うん、そうそう! もうさいほうだし、昨日きのうからたのしみにしてたの」

昨日きのういたし一昨日おとといいたよ、それ」


 しゅうがくりょこうったごとうきんぞくせいしおりって、ページをひらく。えば、すぐに昨日きのうわったしょつけた。


 ゆうれのきょうしついろいろおとこえる。

 にじんだおとのチャイム、カーテンをおどらせるかぜこえ、プリーツスカートのきぬれ、かみうえすべゆびのざらつき。うん、わるくない。

 あたらしいおとくわわる。


 できるだけりんった、わたしこえ


 サトのためにわたしろうどくはじめたのは、たんじゅんにサトがあまりにめなかったからだ。

 サトはべんきょうにがだ。わたしが八十てんれるテストでてんしかれない。ぶんたんじょうねん西せいれきねんごうちがえておぼえていて、かんかけてていせいしたこともある。さきようで、調ちょうじっしゅうのホットケーキはくろがしていた。

 それでも、わたしかたんだしょうせつはなしいて、みたいとった。そして、ずいぶんしょうちんしたようで、めなかったとかたった。

 それがきっかけだった。


 ライトノベル、ほんどうぶんがく


 ゆうれのきょうしつわたしはサトのためにものがたりかせた。

 いきぎもはっせいもめちゃくちゃなろうどくを、サトはたのしそうにいていた。

 だから、というわけではない。

 わたしはノートにシャーペンでいたしょうせつをサトにかせはじめた。さいしょいちげつにノートはんぶんつぎつきはノートいちさつぶん、そのつぎさつぶん

 わたしあたまからとされたことかずかずは、すべてサトのためだけにきょうされた。

 そして、つかれたあい宿しゅくだいをやりながら、こうかんのぎりぎりまで、わたしたちはろうどくかいつづける。

 いえにもかえりたくなかった。きっとサトも、どこにもしょがなかった。


 ものがたりを、ものがたりを。


 わたしたちはここにいるために、どうしようもなくものがたりひつようだった。

 けれど、やがてくらくなるそらてられて、わたしとサトはいえく。

 ほうけるみたいに? ほうなんてやすっぽいことじゃない。もっとせつじつむごい。


「じゃあ、ごくちろよ」


 りふのようにった、おまりのおわかれのごじょうだん

 サトもくすくすわらって、る。


「キクちゃんも、ごくおう!」

「ぜーったい、ちてやらないから! ひとちてろ!」


 はしゃいでわらう、わたしとサトのこえ

 そして、ひとあるしたわたしまとわりつくよるはひんやりとしていて、こころすこんだ。


 わたしたちはふたともほんとうははおやというものにてられた。

 わたしははしょくあたえられず、ものごころつくまえははからはなされ、サトのはははコンビニにくとってったきりもどってこなかった。

 わたしあずけられ、サトのちちさいこんした。

 わたしははおやがいないことはがっこうじゅうだれでもっていた。

 さんかんのたびにしかないことをがったどうきゅうせいにけろりとせつめいしてしまったうえに、きょうはっぴょうに「おばあちゃんありがとう」をしでわせるようなことをかえしていたためだ。

 だから、げらげらわらいながらうでられ「おかあさんはいついにてくれるの?」とわれるのはしばしばあることだった。「きくかわさんはおかあさんがいないから、あそんじゃいけないっておかあさんにわれた」となかはずれにされるのも、いやがらせにたいこうしてつくえばしたら、わたしだけがのこらされてせっきょうされるのもよくあることだった。


 わたしいやおうなくっていたし、サトもっていた。しつだからだ。ちょっとちがうな、しつだとばれつづけたからだ。だから、ものめずらしくて、つつきたくなる。

 ふれあいひろのモルモットみたいに、だれかたおしえないからボールペンのしんされたり、みみれるぐらいってみたくなる。それでモルモットがみついたら、それはきっとモルモットがわるい。

 かいてきだらけだ。そうしていなければすぐにきずつけられる。らくえんへびみたいにずるがしこくてどくがあれば、なおかった。

 てきえるいっぽうで、大人おとなたちはひどくおろかでなにえてなくて、どこにもかたはいなかった。


 サトやわたしみたいなタイプはそうじておなにおいがする。

 うそつきのにおい、うっくつにおい、いたみのにおい。うれい、あきらめ、まどい、さびしさ。どれもていて、でもちがって、じりっている。

 もっとふさわしい、うつくしいことがどこかにあるはずだ。ひねせ。

 かなしみとぶにはそうかんりない。くるしみとべるほどわかりやすくもない。いかりはごとたいするはんのうぎなくて、にくしみはまりすぎてえカスだ。

 わいそうは1ばんちがう。それはこうふくひと使つかことだ。もっとめていて、けれどぜつぼうほどかわいてもいない。


 そう、げんぱんのグリムどうみたいな、うすぐらもり湿しめったにおい。


 うすぐらもり湿しめったにおいなんていだことなんてないけど、きっとそんなにおい。

 ひょうめんじょうしつさじゃない。げんちがうとか、はだいろちがうとか、おやがいないとかそんなかんたんせつめいできるものじゃない。

 ぶんではどうしようもないことにむしばまれて、しゃにそれがばつだとののしられるようながして、そして、わたしたちはそうてきがいしゃになれなかった。あるいは、だれかがめたこうふくにもこうにもてはまらなかった。


 ひそやかにおぼれていた。もしくは、あめられつづけている。綿わたつつまれてちっそくしていて、ひとりこうざらしでてていく。

 いのちづなはなく、かさはなく、がるつえみちしるべもない。

 そのことになんてなく。わたしたちはたんじゅんにどこにもけなかった。

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