07 クリフの過去とリリアの想い
「あ、あの……クリフさん」
「ん?」
「どうして……魔術師が……タンカーのあなたを?」
何とか話題を切り出したいリリアは、思い切ってクリフに何故魔術師の男が彼を追放したのかと聞いてみた。
「あの魔術師の男自体が、タンカーを無能職として前々から追放したがってたんだよ」
「どうして?」
「奴のコンセプトは【火力こそ正義】だ。 だが、タンカーは敵を引き付けて戦いやすくする職業だ。 勇者たちは俺をよく労っていたが、奴はそうではなかった。 故に勇者たちと奴は対立していたのさ」
魔術師の男は火力至上主義をモットーとしている。
故に何としても火力の弱いタンカーを追放したがっていたようだ。
だが、勇者たちはタンカーであるクリフの立ち回りを評価していた。
それが、魔術師の男は気にくわなかったようだ。
「じゃあ、あなたがこんな目に遭っている事は……勇者様達は?」
「その通りだ。 奴は勇者たちが出かけたところを狙って、俺の意識を刈り取り、君がいたあの洞穴に転移されたのだろう」
「そんな事が……」
クリフの話を聞いて、リリアは俯いた。
彼がこんな目に遭っているという事に対し、他人事ではないと感じたのだろう?
「リリア?」
「あ、ごめんなさい……。 他人事とは思えなくて……」
「君に何があったんだ?」
「実は……」
リリアは思い切って彼に打ち明けた。
自分が錬金術師である事を理由に婚約破棄をされた事を。
それだけでなく、意識を刈り取られて暴行を受けたことを。
「酷いな……。 錬金術師だという事で婚約破棄とか。 そもそもこの【ノーステリア】では職業の差別は禁止してるのではなかったか?」
「でも、相手はそんな考えの王族を嫌ってた。 聖女と魔術師と剣士だけで十分と……そう言ってた」
「サウスベイと同じ考えか……。 いや、もしかしたら……」
「そう。 父様から聞いた話、あの息子はサウスベイと……繋がってた」
「やはりか……」
リリアの話を聞き、クリフは表情を歪める。
まさか彼女も錬金術師というだけで婚約破棄をされてなお、暴行まで受けていたなどと信じられないことをやってのけた者がいるのだから。
「ありがとう、リリア。 そして、すまない。 君が辛いのに話をさせてしまって」
「いいの……。 クリフさんには知って欲しいから」
「リリア……」
クリフはリリアが辛いのを抑えて話をさせてしまった事をお詫びしたが、彼女はそれでもクリフに話を聞いてほしかったのだ。
「クリフさんは……傷が完全に癒えたら……どうするの?」
「そうだな。 こうなってしまった以上、勇者パーティ^には戻れないだろうし……」
そしてリリアはクリフに今後の事を聞いてみた。
やはり、クリフは勇者パーティーには戻れないだろうと覚悟をしていたようだ。
それを踏まえて、彼はリリアを見据えてこう言った。
「もし、君や君の家族がよければ……、ここに……いや、この町に住まわせて欲しい」
「クリフさん……」
クリフがこの町に住まわせて欲しいと言った事でリリアの心は高揚した。
離れなくて済むと。
一緒にこの町に居られると。
「良かった。 また別れるんじゃないかと……」
「ここを離れたとて……居場所はないからな。 俺の故郷は、サウスベイに滅ぼされたし」
「あ、ごめんなさい……」
彼がこの町にいたいと決めた事に安堵したが、クリフの故郷がサウスベイに壊滅させられたと知って、すぐに謝った。
「いや、構わないさ。 どのみち新たな居場所を確保しないといけなかったからな。 それにリリアの話を聞いて、放って置けなくなったからな」
「うん……」
「だから、リリアの近くに居れるようにこの町に住まわせて欲しいのさ」
「ありがとう……クリフさん……、大好き……」
リリアはクリフに抱きついた。
そんなリリアをクリフは優しく背中を撫でてあげた。
その時、ノックをする音が聞こえた。
「どうぞ」
リリアがクリフに顔を埋めているので、彼が代わりに対応する。
「失礼するよ。 リリアは君に懐いてる感じだね」
「む、父様……」
突如父親のジョセフが現れたので機嫌を悪くしたリリア。
それでもクリフにはかなり懐いている事実は否定はできないようだ。
「さっきの話を聞かせてもらってね。 クリフ君をリリアの部屋の隣の空き部屋に住まわせようと思うんだ」
「いいのですか?」
「構わんよ。 リリアの傍にいてやれる存在が必要だからね。 クリフ君なら適任だと思ってね」
「父様……」
クリフとリリアの話を扉越しに聞いていたようで、クリフの決意を聞いた事でジョセフは空き部屋を用意すると告げた。
リリアがいる部屋の隣の部屋を用意するそうだ。
「ありがとうございます。 お言葉に甘えさせていただきます」
「よし、そうと決まればリリア。 彼に部屋を案内しなさい」
「うん、それで報告の進捗は?」
「後で伝えるさ。 今は彼を部屋に案内することが先だよ」
「分かった。 クリフさん、大丈夫?」
「ああ、もう立てるさ」
「じゃあ、お部屋に……案内するね」
ジョセフが指定したリリアの部屋の隣にある空き部屋へ、リリアが案内することになった。
その際のリリアは、どこか嬉しそうだった。
まるで、婚約破棄された嫌な過去を吹き飛ばすかのように。
看病し始めた当初から募り始めたクリフへの想いは、少しずつ実ろうとしているようだ。
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