カッコ悪い貴方へ
しなの くらげ
前編 柄じゃないくせに
柄じゃないくせに、貴方はフレンチの三つ星レストランを予約した。
自分の食費を減らして、お金を貯めた。会社の飲み会も断って、大好きなゲームもやめて、私に隠れて「初心者でもわかるフレンチマナーの基礎」なんて本も買って勉強までしてた。
フレンチに行く予定もないし、誰と行くんだろう。浮気かも。と思った私は貴方に問い詰めた。
「これ何?私に隠れてこんなの勉強して、他に三つ星レストランに誘いたい女の人がいるの?」と。
貴方はまずそうな顔をしてこういった。
「違うんだ。浮気なんてしていない。でもまだ言えない。」
「言えないなんて、なんで?」
「やましいことは一切ない。これは誓うよ。」
「こんなの見て気にならないわけないよ。教えられないの?」
少し圧をかけた言い方だったかもしれない。でもやましいことがないなら教えて欲しかった。不安になりたくなかったから。
「実は君をディナーに誘おうと思って。今お金を貯めてるところなんだ。サプライズにしたくて、こっそり勉強していたんだ。君に恥をかかせたくなくて。」
と少々言い争いになったが、貴方はレストランに誘おうとしたことを話してくれた。
昔からそうだ。貴方は私のために、背伸びをする。格好つけようとをする。そんなことが少し寂しかった。
いつだったか、貴方はお酒に酔った時に私に言った。
「君は素敵な人だ。高嶺の花なんだ。だから僕は格好つけないと君に似合わないんだ。」と。
嬉しくはなかった。
「空回るくらいなら、背伸びなんてしなくていいよ。」
そう言ったけど、酔ってる貴方には聞こえていなかったのね。
貴方は続けて言った。
「そんな君が、僕を選んでくれたことがとても嬉しかった上に、誇らしい気持ちがあるんだ。幸せにしたいと心から思っているから。」
甘い言葉を言われるのは苦手だし、背伸びをしてることも嫌だったけれど、幸せにしたいと言われたことは素直に嬉しかった。
次の日貴方はプレゼントを買ってきた。
サプライズも、女物の服もよくわかってないくせに。
「どうしたの?これ。」
「昨日、レストランのこと言っちゃったから違う形がいいと思って。あ、でも君が忘れた頃にレストランの招待はする予定だけどね。」
と彼は自慢げに言った。
「嬉しい。ありがとう。早速着てみていい?」
「きっと似合うと思うんだ。」
楽しみと私は部屋を出たが、プレゼントの箱から出てきたのは、あからさまにサイズが小さいワンピース。
期待も大きかった上にショックもそれなりに大きかった。
私の背格好もよく見ていないの?と怒りも湧いてきてしまった。
「これ、相当サイズ小さいんだけど。」
「え、そんなはず、、君はSサイズなはずだ。前に服見た時Sサイズだった。」
「太ったって言いたいの?柄じゃないことしなくていいよ。」
と結局怒ってしまった。
あの時は馬鹿だったなと今になって深く後悔をしている。
私は気づくのがあまりにも遅かった。貴方という存在がどれだけ大きなものか。
私は貴方のことが思った以上に大切だった。
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