第2話 【こおりの扉】


やがて、スノットさんが気がついた時には、街の中の歩道の上に立っていました。


『あぁ、雪の街に着いたのですね』


スノットさんは、そう言うと、肩に積もった雪をひと払いし、歩き出しました。

街の大通りに出ると、たくさんのこおり小人たちがとうめいなトンガリぼうしをかぶって歩いていました。


『やぁ、また世話になるよ』


スノットさんが誰となく声をかけると、こおり小人たちみんながいっせいに振り向き、


『素晴らしき雪の街へようこそ、スノットさん!』


と言って、またゾロゾロと忙しそうに歩いて行きました。

スノットさんは、大通りをずんずん歩き続けて、街の中心にある噴水公園の前まで来ました。公園の入口から噴水を眺めると、噴水の先は上空をつらぬいて、はるか宇宙までのびているようでした。


『どうですか、星たちの調子は?命が宿り、空気が生まれそうな星はでましたか?』


『いえいえ、まだまだですよスノットさん。いろんな星たちに、ここから水の栄養を飛ばしてはいますが、まったく反応はないんです』


噴水の中で暮らしている氷シャケはそう言うと、飛びはねながら、噴水をどこまでもさかのぼって、宇宙まで泳いで行ってしまいました。


スノットさんは、公園の入り口まで引き返すと、そのまままっすぐ道路を横切って、古びた氷の建物の中に入って行きました。

見かけはギリシャ神話に登場するパルテノン神殿にそっくりな建物でしたが、ここは雪の街になくてはならない銀行でした。よわい1000年以上たった氷柱や氷壁でできています。


『スノットさんお帰りなさい』


銀行の門前にいるガードマンが気さくに微笑んで、帽子を取りました。


『ゴールドマン君はきているかね』


『ええ、30分ほど前に』


スノットさんはこおりの扉に手をかけて、いきおいよく開けました。

銀行の窓口には行列ができていました。


せんとうは、魚の飛び魚です。

それから、カマキリにホタル、ネコにマントヒヒ、クジラに、コウモリ、クモに馬とロバ、アシカ、アザラシ、キリンにサイ、クマにチョウチョウとマグロにワニ、てんとう虫にカバにトナカイ……


と、雪の街一広い銀行のロビーが、こおり蟻(アリ)のねぐらのようにせまく感じます。



スノットさんは、こおりの扉を抜けて銀行の中に入ると、行列の最後尾に並びました。銀行の中は冷気で満たされ、スノットさんの吐く息も白くなります。順番を待ちながら、スノットさんは周りの動物たちと会話を交わしました。


「おや、スノットさんじゃないか!」と、前に並んでいたホタルが明るい光を放ちながら振り向きました。「久しぶりだね。どうだった、休暇は?」


「ありがとう、ホタルさん。とても充実していたよ。公園やカフェで過ごす時間が、リフレッシュにぴったりだった」とスノットさんは答えました。


「それは良かった。今日は何の用でここに?」とホタルが尋ねました。


「うん、今日はゴールドマン君に会いに来たんだ。彼が新しいプロジェクトを始めると聞いたからね」とスノットさんは言いました。


行列が少しずつ前進し、ついにスノットさんの番が来ました。窓口の向こう側には、金色の髪を持つゴールドマン君が立っていました。


「おお、スノットさん!お久しぶりです」とゴールドマン君は笑顔で迎えました。「さあ、中へどうぞ。」


スノットさんは、ゴールドマン君の案内で奥の部屋に入りました。部屋の中は、氷でできた家具や装飾が美しく配置され、まるで氷の宮殿のようでした。


「さて、スノットさん。今回のプロジェクトですが、あなたの助けが必要です」とゴールドマン君は切り出しました。「新しい星に命を宿らせるために、特別な雪の結晶を作る必要があるのです。」


「特別な雪の結晶?」とスノットさんは興味津々に尋ねました。


「そうです。この結晶は、宇宙のエネルギーを吸収し、それを星に注ぎ込むことができるのです。しかし、その作成には非常に繊細な技術と多くの時間がかかります。あなたの知識と経験がなければ成功しません」とゴールドマン君は説明しました。


スノットさんはしばらく考え込んでから、頷きました。「わかりました。ぜひお手伝いします。雪の結晶化の研究をさらに深めるいい機会にもなりますね。」


ゴールドマン君は喜びの表情を浮かべました。「ありがとう、スノットさん。さあ、さっそく始めましょう。」


その後、スノットさんとゴールドマン君は、銀行の地下にある秘密の研究室に向かいました。そこには、雪の結晶を作成するための最新鋭の装置がずらりと並んでいました。スノットさんはその光景に胸を躍らせながら、新たな挑戦に心を燃やしていました。

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