サンタクロースの星わたり
夢ノ命
第1話 【ソリの秘密と色が生きている星】
~ゆき やっほう! と叫べ 笑え 心から
ソリ やっほう! と鳴らせ 揺らせ 胸のベルを
渡りゆこう 時をとめて
らせんの銀河 めぐる日も
飛び越え ゆこう 星のひかり
揺らせ 夢を 探せ 胸に秘めた想い
星わたり 星わたり 止まらずにゆけ
星わたり 星わたり み空の果て~
世界中のサンタクロースが集まったその日、
星わたりのレースが行われました。
いっせいにたくさんのサンタクロースたちが、
ソリと共に夜空に舞い上がり、
何重にも折り重なる鈴の音を発しながら、
流れ星のように散っていきました。
星わたりのレースは、決められた時間内に渡った星の数を競うレース、
どんな飛び方をして、星ぼしをわたってゆくのかは自由でした。
「なんてスピードなんだ!」
周囲を流れ星のような速さで、トナカイたちをあやつり移動していくサンタクロースたち。勇気の目に映るのは、ソリが通った跡に残る光のラインだけでした。
勇気もたずなに力をこめ、ソリのスピードを上げて、
他のサンタクロースたちの後を追おうとしたけれど、無駄でした。
力の差は、歴然としていました。
「かなわない!」
勇気は、肩の力を落としました。
「そう気を落とさないでください」
勇気の前を走っているトナカイが、勇気をなぐさめました。
「腐りたくもなるよ。もうちょっと、レースらしいレースが、してみたかった!」
「サンタクロースのソリには、秘密があるんです」
「秘密って、どんな?」
勇気は、興味津々に、トナカイにたずねました。
「想像力を使うんです。勇気さんの想像力でソリとトナカイを包んでしまうんです。そうすると、何十倍、何百倍の速さで、ソリを動かせるようになります」
なるほど、勇気はうなずきながら、目を閉じ、想像しました。
たくさんのサンタクロースたちに交じって、星々の間をわたってゆく自分の姿を。
勇気が目を開けてみると、ものすごいスピードで駆け抜けるトナカイの姿が見えました。そして真横には、赤くて丸い眼鏡をかけたサンタクロースのおじいさんの姿がありました。小太りながら、自信満々なその姿は、ふと、雪だるまを連想させました。
「ほっほっほっ。お前さんはどこの国のサンタクロースかね?」
「日本です!」
「ほおっ。日本のサンタクロースは、めずらしい。新人さんかね」
「ええっ。もうすぐ2年になります」
「なるほど。まだなりたてのほやほやじゃな。
サンタクロースは、喜びの尽きない仕事じゃ。
配ったプレゼントの分だけ面白さが増してゆく。
これからが本番じゃな。まあ、がんばりなさい」
そう言うと、赤眼鏡のサンタクロースのおじいさんは、
スピードを上げて、星をまたいで、去っていきました。
それから勇気は、いくつもの星をわたっていきました。
その中には、こんぺいとうの形をした、地面をなめると甘い星や、
雪の結晶のような六角形の透明な星もありました。
生き物のいる星や無人の星、霧のような蒸気に隠れて見えない星や
まばゆいばかりの光の中にあって、見ることができない星もありました。
猛獣がばっこする星や異星人が豊かな文明を築いて、暮らしている星もありました。
植物が進化して、人のように話せる星や無数に散らばる隕石同士がくっついたり離れたりして、星の形をとどめない星もありました。
勇気は、そんな珍しいものばかりを目の当たりにして、たびたび目を丸くして、星々の様子をため息交じりに眺めたりしましたが、ほかの国のサンタクロースたちは慣れたもので、勇気の方をポンとたたいては「お先に!」と言って、風のように去っていくのでした。
レースも中盤ともなると、サンタクロースたちは気に入った星でソリから降りて、食事の時間をたっぷりと楽しむのでした。
あるサンタクロースは、七面鳥を暖炉の火で、油がしたたり落ちるほど焼いて、30羽もぺろりと平らげていました。
またあるサンタクロースは、深い森に分け入って、たくさんの木の実を集め、
それで上等の木の実酒を作って、飲んでいました。
またあるサンタクロースは、星の空気をかたまりにして、釣り針にさしてビロード色の池に垂らしていました。すると山のように魚たちが食いついてきて、
星の表面が魚たちであふれかえりました。サンタクロースは、不思議な機械を使って、その魚たちを缶詰にしたり、お刺身にして平らげていました。
勇気はそんな様子をソリの上から眺めながらも、自分が降りる星を探しました。なかなか見つからずにあきらめかけた時、はるか向こうに七色に光る星を見つけました。勇気はその星へソリを向けました。
星の風貌は、一言でいうなら鮮やかでした。
ペンキで塗られたように不自然な色彩がこの星全体をくまなく覆っていました。たとえるなら、何千個というペンキの缶を同時にひっくり返したような模様でした。
勇気はソリを止めて、この星に降り立つと、持ってきた握り飯を食べようとしました。
すると、どこからともなく、声が聞こえてきました。
「そんないいものを一人で食べるなんてずるい!」
勇気は、あたりを見回してみましたが、誰かがいる気配は感じませんでした。
「ここ、ここ、ピンクに注目!」
ふと、足元をみると、大きな的くらいの大きさのピンク色の地面がしゃべっているようでした。
「そうなんだ、この星では色が生きている。色が住む星なんだ」
勇気はまたしても目を丸くせずにはいられませんでした。
色が住む星なんて、聞いたことがありません。
「うそじゃありませんって。私はピンク、ピンク色。この色になってから半年ほどです。この星の色たちは、半年たつと別の色に入れ替わるんです。私は前は紫でした。今は生粋のピンクですけどね。それは別として、良さそうな食べ物、持っていますね。ぜひそれを私に分けてください」
勇気は、足元に広がるピンク色の模様の上に、手に持った握り飯を置きました。
「やれやれ、こんなものでいいなら、いくらでも分けてあげるよ」
いつの間にか、浸透するように、握り飯はピンク色の中に溶け込んでいきました。
「あーあっ。うまい! こんなうまいものを食べたのは久しぶりだ。すごく気分がいい。よし、なにかお礼をしなくちゃね。そうだ、あれをあげよう!」
勇気の足元のピンク色の模様から、無数の帯状のものが伸びてきて、勇気の体に巻きつきました。その帯が何重にも巻かれると、こつぜんと消えてしまいました。
「今のはなんだったの?」
「君の魂に分けてあげたんだ。僕が持っているたっぷりの愛のエネルギーを。柔らかくてあたたかい。それでいて、ほのぼのしてて、良く和ませてくれるし、幸せな気分にしてくれる。そんなエネルギーをたっぷりとあげたんだよ。サンタクロースには必要だからね」
勇気はうなずきながらお礼を言うと、もう一つの握り飯をソリの上で食べはじめました。不思議なことに自分で握った握り飯に、感じたことがないほどの愛情の力を感じました。
<続く>
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