躓き 2
うさぎ赤瞳
折り重なる理由
第1話 いかづち
雲の知らせにより、親子水入らずで、山下公園にやって来た。どんよりとした宇宙から
楓花は宇宙を見上げたままで、
『天使か悪魔か? この眼で見届けてみせるわよ』と云わんばかりに、目を凝らして見詰めていた。
となりに居並ぶ、うさぎは
『いきり立つと、真実に辿り着けないですよ』と、想いを定め、気を引き締めている。言葉にしないことで、想いを募らせ見守っていた。
流れ星に注意を殺がれている
楓花が近づいて確認する限り、パチンコ玉程度の大きさであった。楓花が恐る恐る手を伸ばすと、突き刺す刺激で、お手玉のように、それを投げ上げた。
重力圏を知らない物質が藻搔くように動き回り、人間の概念を覆していた。それが地球上に起こっただけのことで、自由の模範解答は、地球上に存在しないことを知ら示めていた
楓花がもしも偶然に出逢っていたなら、キモっ! と、
たまたまその場に居合わせた群衆にしても、興味を持つほどのことではないのだろう? 薄闇に彷徨うカップルの内心は、違う妄想に取り憑かれている
そんな群衆を
「ねぇ」と、楓花が疑問を口走った。
「なんですか」
うさぎは応え、楓花の疑問を聴き流す算段ではないようだ。
「これって新元素だよね」
「分析しないと解りませんがね」
「御告げでは、
「開けてびっくり玉手箱、と云いますからね」
「玉手箱? なんでそれを先に云わないのよ」
「贈り主は、感性母さんでしょうからね」
「感性様? なの」
「たぶん? なんですがね」
「他に当てがないから、なんでしょっ」
「人に期待している節がありますからこれが、想いの丈なんでしょうね」
「人間は裏切り続けているのに? 懲りてないのかなぁ」
「幼い生命体であることは、真実ですよ」
「そういう問題じゃ! ないはず? なんだけど」
「割り切るしかないんですよ」
「? で、この後はどうすれば良いのよぉ?」
「持ち帰りましょう」
うさぎは言うと、ハンカチを取り出して、両端を取り、袋のネズミのように包み込み何度も結んだ。布目から入り込む地球上の元素と合成させないために、隔離したようだ。挙げ句の果ては、コンビニ袋に入れる周到さ? であった。そそくさと、なにもなかったかのように
帰宅したふたりは、当たり前の日常に戻ることに努めていたが、地球外生物には、そんな概念や観念を持ち合わせていない様子で、人眼が気になるのだろう。チラチラと窺っているのか、
楓花はそれで集中力を削がれ、うさぎにその説明を促すが、初見の行動を説明できる訳もなく、疑問は解決することもなく愚痴っぽくなり、嫌みも
「さっきは上手く誤魔化したけど、玉手箱? って、なんなのよ」
楓花は疑問をそのままにして措けないでいたようだ。
「
うさぎは云って、ソファーに腰を降ろし、楓花を隣へ導いた。
楓花はそれに応じ座ったが、刹那に唇を尖らせて
「現実逃避ができないだけ。思考回路が、
「?」
うさぎは、楓花の甘えにほくそ笑んでから
「
「んん? 夢物語なんでしょっ。おとぎ話? ってものは」
「空想と現実の境界線が、曖昧になっていますね」
「それこそが、人それぞれ? でしょっ」
「私の口癖は
「夢は夢でしかないもの。それを『御告げ』に想うなんて、お他人様は普通、しない? でしょうからね・・・」
楓花が言葉を濁し気味に放った。
「私の観る夢は、御告げばかりです。信じるかどうかが、それぞれの感性に導かれていますからね」
「あっ!?」
心にない、と云わんばかりに、楓花があげた
うさぎは
「答えはひとつではありませんし。楓花が答えとしたものにも、先が存在するはず? ですからね」
「答えの先、だよねっ。解ってはいるんだけど、ついつい先走っちゃうんだぁ」
「そうやって、人が未熟であることを教えてくれています」
「無くて七癖、って言うもんね」
「それは、賢者でも最低七つある、と
「これからは、先を想像するようにする? わよ」
「努力は必ず結果に現れますからね」
うさぎは云って、楓花に笑みを向けた。
心の中では、
『継続は力なり、なんですからね』と、拈華微笑を送っていた。楓花はまだ、人間の思惑を見抜くだけの経験が備わっていなく、言葉に隠された
「楓花が想い浮かべた
「あたしの概念が作り出したもの、っていうのは
「勘違いしないで下さい」
「勘違い? って、なんでよ」
「観るのは自由ですが、思い込みを自由とは言っていませんからね」
「なんで思い込みと断言するのよ」
「手にした大きさで、
「パチンコ玉程度の大きさなんだから、新元素も2・3粒?
「? 塵や埃から鉱物になるまでに何年かかる? と思っているんですか」
「?・・・」
楓花は、言い返そうと想った言葉を、呑まざるをえなかった。
うさぎはそれで
「少なく見積もっても、数百年の経過が見込まれます。鉱物が、人のように成長すると思っていませんか?」
「パチンコ玉程度の大きさに、数千・数万の新元素が入っている? と言うの」
「桁が全然違います」
「? もっと上だろうから、億ってことなの」
「もっと上です」
「兆?・・・」
うさぎは
「天文学的数字ってことなの?」
「一日ひとつの元素を取り込んだとしても、365Χ数百万年? 以上という計算になりますからね」
「それって? 層で削られる前の話しでしょっ」
「だから思い込んだ? のですか」
「どうしてそれを知ってるのよ」
「
「53億年の集大成が、地球の歴史? って、云ったわよね」
「その三倍以上の歴史が、宇宙にはあります」
「だとしても、それを知ってどうなる? のよ」
「だから、幼い生命体なんですよ」
「?、もしかして次は、宇宙の始まりを勉強するつもり? なの」
「御告げの解読を進めるためには、必須になる条件だけは、学んで措いて欲しいですからね」
楓花が
口をついた愚痴は
「人間、死ぬまで勉強? ってことなんだね」であった。
独り言にも聴こえるが、うさぎが、楓花の理解しよう、という姿勢に喜んでいた。自分の為にすることが、親孝行にもなる? と判ったことで、楓花の価値観が微妙に是正され、それで、良しとしよう、としたのである。考えを改めたことに対し、顰め笑いを繕うしか、楓花にはできることがなかった。
若さの特権は、豊富と想える時間があるから、やり直すことが許されているはずで、失敗から学ぶ経験値を増やせるからである。それを可能性と捕らえるから、欲や悪意が付け入る隙が生まれるのであった。
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