EP4.母に驚かれる少女
【
ついおやつを摘みたくなる時間帯。
あまり
それから洗面所に行き、手洗い、うがい。そのついでにお
この作業をする度に思うけど、人と会う為に身だしなみを整えるのは面倒よね。
まあ、化粧落としを軽く
その上に専業主婦なのだから、
「………?」
と、なんでもないことをぼんやりと考えていたら、壁の向こう側から足音が
最初は小さく、けれど段々大きくなってきているから、恐らく階段の下り。
急いでいるのか、少し
誰なのだろうかと思っていると、直に背後の引き戸が勢いよく開く。
タオルで軽く顔を拭きながら振り返ると、そこには
「……零?珍しいわね。どうしたの?」
年齢以上にかなり大人びている子で、向上心が高く、いつも勉強と運動ばかりしている子。
今日は中間試験の最終日と聞いていたから、早く帰ってくる事は知っていたけど……
けど、普段帰ってからは夜遅くまで部屋に
「あまり、集中できなくてさ……」
やけにげっそりしている様子で、あまり生気の感じない声で告げる零。
体調を崩したのかと思って顔色を伺うも、特に変わったところは無いみたい。
寧ろ、慌てて階段を降りてきてたみたいなのに、息一つ切れた様子もないくらいだった。
相変わらずの体力ね。これで入試て次席だったのだから、我が息子ながらあまりのハイスペックさにいつも驚かされる。
「なにかあったの?」
「……ああ。姉さんと
「
尋ねてみると、娘と、昔からお世話になっている子……郎亜の名前が出てきた。
流理はともかく、郎亜の名前が零から出てくるのは少し意外に思った。
前述の通り、零は普段帰ってきたら夜遅く部屋で勉強している。
その為、郎亜と……どころか流理とも最近はあまり話していなかった、はず……
──あら?最近話してない……ってことは。
私は零に近づき、背丈を合わせるように少し屈むと、あまり遠くの方に響かぬよう小声で尋ねた。
「……零。今、家には誰がいるの?」
「……ん?ええと。姉さんと、郎亜だ。先程帰ってきた」
私につられて同じく小声になりながら、頬をほんのりと赤くして頷く零。
「郎亜、ウチにかなり馴染んでる様子だったが……」
ああ、やっぱり。予想通りだった。
零は家の中で、郎亜とはあまり会っていないから……恐らく会って、何かあったのね。
「当然だと思うわ。なにせ、ほとんど毎日来てるわけだし」
「……なるほど、やはり、か」
神妙な顔になって、口元を右手で
『やはり』……?
……あ。そういえば、零は耳が異常に良かったことを思い出す。
この家は別に防音加工が
それにしてもいつも思うことだけど、この子って仕草も口調も、やっぱり年齢に対して不相応よね。
別にいいのだけど、誰に似たのかしら……いえ、十中八九主人だわ。間違いない。
「……なあ、母さん」
「なに?」
再び顔を赤くする零。
何考えているのかは何となく分かるけど、
ちゃんと思春期をしているみたいで安心する。
「何か変なこと考えてないか?」
「……そんなことないわよ」
変に
「それで、どうかしたの?」
「ああ……郎亜には否定されたんだが、あの二人は本当に付き合ってないのか?」
「……無いわね。そう聞いてる」
「……あれでか」
零の気持ちは分かる。
というか、完全に同感だった。
いつも見て思うんだけど、あの距離感で付き合ってないのはちょっと納得できない。
夫婦である私と主人でさえ、若い頃はあそこまでベタベタはしてなかった……はず。
そのはず……。
──まあ、そんなことは良い。
「一応、流理は郎亜の事が好きよ」
「……だろうな。それはなんとなくわかる」
「あら、分かるのね」
初心なこの子ですら見抜ける程にあからさまなのかしら、あの子。
「また変なこと考えてないか?」
「最初から考えてないわよ」
反応が早くない?というか『また』って、さっき
我が子ながら、少し恐ろしくなってきた。
「……まあ、僕の目の前で郎亜にバックハグしていたし、それくらいは
………。
………………。
「バックハグ!?」
「う、うん?」
バックハグ。
文字通り、後ろから抱きつくこと。
基本、相当親密でないとできない
私は
それを、流理が?
……ちょっと待って。
「……零」
「な、なんだ。怖いぞ、母さん」
「今日の晩御飯、遅れずに来なさい」
「え?なぜ?」
「いいから」
「あ、はい」
あとで詳しく、訊かせて貰うわ……
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