第63話 露天風呂


 そーいえば俺本体がオークとかと戦っている間。


 領地に残していた『分身』で新しい風呂を作ってみたよ。


 この世界……つーかウチにも一応風呂はあったんだけれど、いちいち水をたくさん汲んでフーフーと薪で沸かすものだから大変で毎日は入れなかったんだ。


 だから毎日手軽に沸かせる風呂が欲しいって思ってたんだよね。


 そのための湯沸かしエネルギーは魔石でよいはず。


 オークを攻略すれば魔石が採れるようになるとわかっていたので、先んじてがわだけ作っておいたのだ。


 風呂の場所は俺んちの横のちょっとした空き地スペースにしたよ。



【家周辺図】

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v□□〇〇□□□川□□

vv□〇〇□□□川□□

 v□◎◎▽□□川□□

 v□◎◎▲□□川□□

 v□墓□□□□川□□

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□=ダダリ領

◎=旧館

〇=新館

▲=神木

V=堀

▽=新風呂(New!)



 旧館と新館から渡り廊下で繋いだり、手前に脱衣所を作ったり、柱を建て、屋根をいたりする。


 景色の良い場所なので、さしあたって壁は作らず露天風呂にしておいた。


 冬は寒いだろうから壁も作るかもしれんけどねー。


 肝心の浴槽だけど、考えている方法ならば大量の湯を注げるので、家族全員がいっぺんに入れるくらい大きなものにしたい。


 木こりにひのきを伐って来てもらい、木工に大きな桝形ますがたの浴槽を作らせる。


 これらを高床に固定。


 周りにタイルっぽく石畳を敷き詰めるとソレっぽくなってきた。


 水源についてはこれまで井戸水を使っていたものの、これを機に川の上流から館へ水路を通す工事に取りかかる。


 ジョブ『焼き物師』に土管を作ってもらって水を引き、館への方へ向かうのと、風呂場に来るので配管して、栓を抜くと流れ出るようにした。


 で、そうこうしていると本体の方がオークを攻略。


 魔王や勇者との邂逅にビビりつつも、戦後、マギル族の集落周辺で『魔石』が採れるようになったワケだ。


 採れた魔石は攻略済みダンジョンを渡ってダダリへと運ばれてくる。


「領主様からのお届けでーす……って、アレ!? なんでこっちにも領主様が??」


 魔石を運ばせたヤツを分身で驚かせてしまったけど、ともかく魔石が手に入った。


≪新素材:魔石≫


 これにより、ジョブ『魔道具師』が解放される。


 たしか魔道具師に進化できるのはレベル16以上の魔道士だったな。


 まん中の弟のヨルが魔道士レベル16なので『魔道具師』に進化させておこう。


 魔道具師が魔石によって作り出せる魔道具は“魔法研究所系施設”の施設レベルによって決まる。


 今、領内には『魔法研究所(中)』があるので、2つの魔道具が作成可能だ。


・MPリング……戦闘などで消費した魔力を回復させるリング

・火炎の石板……火炎の呪文が掘り込まれた魔石の石板


 ここで使うのは火炎の石板である。


 つまり、水を伝ってきた土管に火炎の石板を設置し、あたたまった湯を浴槽へ注ぐってワケ。


「兄ちゃん、できた! 火炎の石板だ!」


「おお! よくやった」


 と、ヨルの頭をなでてやる。


「さっそく風呂沸かしてみようぜ」


「うん!」


 そう言って土管から水を引き、火炎の石板を設置する。


 ゴーゴーゴー!!


 よーし、あたためられたお湯が浴槽へと流れていったぞ。


 水位はみるみる上がっていく。


 うん、ちょうどイイ温度じゃねーかな。


「ええー、ちょっと熱くない……?」


「うむ。私もそう思うぞ」


 ところがリリアとナディアは熱く感じるらしい。


 根が日本男子やまとおのこの俺にとっちゃあこんくらいがちょうどイイんだが、女子供にはちょいと刺激が強い温度なのかもしれんね。


 俺の子を腹に宿しているノンナは「うーん、よくわかんないかなー」と首をかしげているが、母体をいたわる意味でもちょっと水で薄めておこう。


 冷水は枝分かれして石板を通っていない土管の栓を抜くと出て来る。


 ジョポポポポ……


 どんくらいかなーっと思ったけど、まあ一番年少のラム(11)が大丈夫というところまで薄めてやればいいだろう。


「うん、これくらいならヘーキだよー!」


 というワケで完成。


 さっそく家族みんなで入ってみようということになった。


「わーい!」


「うふふ、毎日お風呂に入れるなんて素敵ね!」


 リリアがふんどしを勢いよくとほどくと16才の若い尻がぷりんと弾けた。


 俺も服を脱ぎ、家族がぞろぞろと湯へ入っていく。


 ……ざぷーん!!


「なかなか良い湯だ。心地よいぞ」


 女騎士のナディアがゆるりと手前に湯を寄せると、波紋はもんがF乳の喫水線きっすいせんに衝突し、その弾力を持って新たな波紋を生み出す。


 右乳房と左乳房の柔丘がそれぞれ起こす波紋が互いに干渉しあうのか、二重スリット実験のように毎回異なる波を起こしてはこちらに向かってくるのがちょっぴりスケベだ。


 ナディアの隣にはおふくろがいて、弟のヨルとラムがいる。


 ヨル(14)は女性の裸がちょっと気になるのか、気づかれないように俺の嫁たちの方をチラっと見てはモジモジしているが、ラムはまだ全然興味がないらしくおふくろに甘えるばかりだった。


 そーいや、おふくろ自身もまだ三十代前半だし、再婚してまだ二、三人は産めるようにも見える。


 オヤジと結婚する前は近隣の中小貴族からいくつも求婚されるほどモテにモテていた(本人談)らしいし、今だって再婚しようと思えばできるんだろうけれど、本人にそんな気が一切ないんだよね。


 まあ、ラムのこととか考えるとちょっとホッするけど。


「楽しー! 広ーい!」


「こら、リリア。風呂で泳ぐんじゃねーよ」


 俺はリリアにそう叱ってから、隣のノンナの肩を抱き寄せた。


「だいじょうぶか? ノンナ?」


「うん、ヘーキだよー」


 ノンナはほんわかした笑顔で答えた。


 いつもは三つ編みにしている金髪がほどかれて湯面につかぬように頭頂部へまとめられており、幾筋か産毛の枝垂しだれるうなじが15という年齢以上に大人っぽく見せる。


 それでも湯から出た肩はやけに華奢きゃしゃで、なんだか愛おしさがつのった。


「長風呂はいけないらしいからな。のぼせないように気をつけろよ?」


「うふふ、ありがとねー、アルト」


「ちょっと、最近ノンナのこと贔屓ひいきしてない?」


 と、ジト目のリリア。


「は? そんなことねーだろ?」


「いいや。そんなことあるぞ」


 そこでナディアが口をはさむ。


「目を見ればわかる。やはり子を宿したからだろう」


 あー、それはそうかも。


「ぐぬぬぬ、ねたましいが……ちょうどよくお互い裸だ。アルト! いざ、ここで私もはらませてみせよ!」


 と、仁王のように立ち上がる裸の女騎士。


「ちょっと待ってよ! 私が先に赤ちゃん作るんだもん!」


 と言って逆から抱き着いてくるリリア。


 やれやれ。


 そうは言っても今ここにいる俺は分身だから子を作る能力はないかもしれねえんだよなー。


 というのも、ノンナが妊娠した時から計算するとまだ本体が領地にいた時のものらしいんだよ。


 その後に二人が妊娠していないことを見ると、分身にはそーゆう行為はできても女を妊娠させることはできないのかもしれないんだワ。


 分身だと子供ができないって……前世なら『最高の避妊だ』と考えたはずだけど、今世では感覚が違うしね。


 子孫を増やすために、たまには本体も領地に帰らねーと。


「なあ。よせよ、おふくろ達もいるんだから」


 俺はそう言ってリリアとナディアの二人をなだめるが、当のおふくろは『うっひょー』って感じの期待のまなざしでコーフンしているものだからマジ力が抜ける。


 悪イけど、母親の目の前で嫁とチュッチュする息子なんざいねーんだワ。


「ったく、しょうがねえなあ……」


 ため息をつく俺。


 そんな露天風呂でドタバタやっている我ら一族を、夕日を背景にした『神木』が幻想的に見下ろしていた。


 茂った葉がざわめきあかねいろの木漏れ日を送って、さざなみを黄金こがねに変ずる水面に親しい家族の影法師が映る様をぼんやり眺めていると、決して目にしたことのないけれど精霊のような幻想ファンタジーを信じてみてもよい気がしてくる。


 そう。


 この異世界、女を愛し、子を宿すに値するだけの価値があるのだ。



 ◇



 さて、それはそんな風呂上りの、まだ髪も乾かぬ折のことだった。


「領主様! 使者がまいりました」


 防壁の見張りが館にそう報告に来る。


 使者? こんな時間に?


「どこからのヤツ?」


「どうやらガゼット領の者のようです」


 ガゼット領?


 侵攻を撃退したのはずいぶん前の話だぞ。


 今さら何の用だろうか。


「まあ、とにかく連れて来てくれ」


「はっ!」


 そう命じると、俺は急いで髪を乾かし始めた。



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