第44話 教えてください!
外から戦士たちの
オオオオオ……
ジレンたちが塔を攻め始めたようだ。
「なんだこの声は!?」
「大変です!」
壁の向こうから市民団体の連中が騒ぐのが聞こえてくる。
「敵がせめてきました! 侯爵に雇われた冒険者たちです!」
「なにイ……!!」
「同志が外で戦っていますが相手はプロ。圧され気味です」
「……女王はもういない。我々も加勢に行こう。ここに居ても仕方あるまい」
「くそお!」
こうして見張りの連中が去っていく足音が聞こえてる。
よし、今だ。
「……1階まで急ぐぞ(小声)」
俺はナディア、女王、お付きのメイドの三人を連れて書斎を出た。
廊下へ出ると見張りたちはすっかりいない。
そのまま階段へ行き、4階、3階、2階と降りる。
そして、1階まで来ると、入口の方から激しい戦闘の音が聞こえてくるのだった。
「どうするアルト」
「ダンカン塔の出入口はひとつだけですわ」
「大丈夫。こっちだ」
そう答えてまた駆け出した。
そして例の倉庫まで来ると、女たちへまた腕に掴まるように言う。
壁抜けをすると、塔の裏手へ出た。
ワーワーワー……
空から冒険者たちと市民団体の戦いの声が聞こえてくる。
だがそれは塔の表側のことで、裏側は下見の時と同じく閑散としていた。
「外ですわ!」
「見事だ。アルト」
「うん、脱出成功だけど……とにかく、ここを離れよう」
全員うなずく。
女王はとりあえずガイル侯爵のとこで保護してもらおう。
ガイル侯爵たちは女王を危険に晒すこともやむなしという感じだったけど、しいて亡きものにしたいという風でもなかったからな。
そう思って塔を離れようと思った時だった。
「へえ。壁抜け、か」
誰もいないと思っていた夜闇からふいに声がする。
目を凝らすとそこには男がひとり立っていた。
「誰だ!」
「ククク、さあね。誰だっていいだろ?」
むっ、イケ好かねーヤローだな。
逆立った金髪に、額当て、広いマントが印象的。
なんか見覚えのあるコスチュームだと思ったが、今大事なのはコイツが敵か、敵じゃないかだ。
「邪魔すんのか?」
「さあ、どうするかな。そもそもオマエ、どうして女王を逃がすんだ?」
男は剣を抜いた。
ヤバ、敵か。
「……別に。なりゆきだよ」
俺も剣を抜きながら、ナディアに目で合図する。
彼女はうなずき、女王たちを連れて先にこの場を離れた。
「なりゆき、ねえ……」
「おっと、女たちは追わせないぞ」
俺はナディアたちが去った方を背に負い、男を
「面白い。やるか」
「面白くはねえけど」
そのまま、しばらくお互いに
それでわかったんだけど、コイツは……おそらくスゲー強い。
もちろん塔の中にいた連中とはまるでオーラが違う。
そればかりか、俺の領地経営で上げたステータスや技能を勘定に入れても、相手はそれを上回って来そうな雰囲気だ。
いずれにせよ先に動いた方が不利っぽい。
できれば逃げたいんだが……
「ククク、クククク……」
そんなふうに思っていると、ふいに男は笑い始めた。
「どうした? 怖えんだけど?」
「……ククク、冗談さ。冗談。ここでオマエと戦うつもりはない」
男は剣を鞘に納める。
よくわからんが戦いを避けられたのか?
俺も警戒は保ちながら剣をしまう。
「これ、行っていいの?」
「いいよ。オマエの顔を見に来ただけだから」
俺のつまらねー顔なんざ見てどうしようと言うのだろう?
疑問に思ったが、今は先に行ったナディアたちを追わなくちゃ。
「じゃあ、マジで行くからな?」
「ああ。行け」
俺は後ずさりをして男から視線を離さずジリジリと距離を取っていく。
油断して去りぎわに攻撃されたらヤバイしね。
やがて、20メートルほど離れると、男から目を切って走りだした。
が、その時。
「また会おう、転生者よ」
去りぎわにそう声をかけられて思わず立ち止まる。
ハッと振り返るが、しかし男の姿はもうない。
辺りには暗闇だけが残っていた。
「あ……そうだ」
思い出した。
あれは、あの男の恰好は……
SSSジョブ『勇者』のコスチュームだ。
◇
勇者はTOLの最上級SSSジョブである。
ゲームはおおよそ領地全体の力を上げ、集団戦を繰り広げるのが醍醐味なのだが……
時に『個の力』が戦況やパワーバランスを大きく変えるという要素もあったのだ。
それが勇者などのSSSジョブ。
そのパワーは万の軍勢をもしのぎ、あらゆる即死系魔法や技能は無効化される。
例えば、俺の技能『身躱し』なんかもあの勇者には通じなかったワケだ。
そう考えるとマジヤバかった……
だが、それよりおそろしいのは、ヤツが俺のことを『転生者』と呼んだことだ。
ひょっとして、アイツも転生者なのだろうか?
だとするとけっこう怖い。
勇者が転生者となるとこの世界のパワーバランスが急激に変わったりしそうだし。
その結果、ゲームでは起こらなかったようなことが起きたりして……
「アルト。おい、アルト!」
「……へ?」
気づくと、フィアンセの女騎士が俺の肩をゆすっていた。
「どうしたのだ。ボーっとして。そろそろニーナ様がいらっしゃるぞ」
ナディアにそう言われて気づくと、ここは奪還した城の
あっ、そうか。
女王が今回の功労者たちを呼んで褒美を与える儀式的なモノに呼ばれていたのだった。
シャンデリアにご馳走、着飾った貴族たちが思い思いに談笑している。
「悪い悪い。ちょっと考え事をしていてな」
「うむ。疲れているのだろう。もう少しの辛抱だぞ」
ナディアはそう言ってやさしく俺の手を握ってくれた。
なんつーか、がんばって助けた甲斐があるな。
城には、俺の他にもガイル侯爵、エルドワール公爵、そしてルビス公爵令嬢など、軍議のおエラ方の面子がそろっていた。
「いやあ、このたびの勲一等はガイル侯爵に間違いありませんな」
「ガハハハハ! ワシはただただ憂国の念でもって夢中にやったまでのことですぞ」
ガイル侯爵たちのそんな話声が聞こえてくる。
一方……
「私はルビス公爵令嬢が勲一等かと思いますがねえ」
「たしかに、この度の同時攻撃作戦を立案したのは令嬢ですからな」
その場でガイル侯爵以上に注目を集めていたのは、ルビス公爵令嬢であった。
美しい銀髪のポニーテールに高校の制服のようなブレザー。
委員長のごとくスっと伸びた背筋。
そのあでやかさだけでも目を引くが、あの塔と城の同時攻撃の策を編み出したのが彼女であることはみな知っているらしく、その智謀を褒めたたえる声がしきりに聞こえてくるのだった。
やれやれ、あの子もこれから大変だろうな。
「……アルト辺境爵」
その時、ふいに声をかけられ、振り向くとそこには話題の銀髪ポニーテールが立っていた。
ルビス公爵令嬢である。
「あ、どうも。ルビス姫」
「……聞きました」
令嬢はそうとだけ言ってジっとこちらを
続きの言葉があるのだろうと思って待っていたが、いつまでたってもその若い瞳が
「ええと……なにを?」
「あなたが女王様を奪還したという話です」
「ああ。聞いたんですか」
実際、最終的に女王様をガイル邸へ送り届けたのはナディアだったので、俺が救出に当たったことを知る者はわずかだ。
壁抜けを使ったこともあってあまり目立ちたくなかったから、俺としては好都合だったけど。
しかし、優秀な彼女は情報収集能力にも長けているらしい。
どこで聞いたかは知らんけど、聞いたんだね。
「それが何か?」
「そ、その……私はダンカン塔から女王様を救出することは不可能だと考えていました。だからこそ強行突破を提案したのです。しかし、あなたは救出を成功させた。つまり……私の考えに抜け落ちがあったことになります!」
雪のような頬を紅潮させて、一言一言にじり寄ってくる。
「あれからずっと……あなたがどうやって救出を成功させたのかばかりを考えているのです」
「あ、あの、落ち着いて」
「教えてください! 一体どのようにして女王様を救出されたのですか!?」
とうとう唇が数センチのところまで接近し、彼女の前髪がハラハラと俺の
「女王陛下のおなーりー! おなーりー!」
兵がそのように繰り返すので、令嬢も含めてその場のすべてがひざまずいた。
やがて、奥の通路からドレスの少女がやってくる。
スレン王国の女王、ニーナ・スレン・ムーンブルクだ。
「みなさま。面をお上げくださいまし」
こうして見るとやはり王たる威風が感じられて恐れ入る。
まだ17の少女なのにエライもんだ。
「
少女王のお言葉に、エライ貴族のおっさんたちが「ははー!」と恐縮する。
「……それではこのたびの事変鎮圧において勲功を授与してまいります。大臣」
「はっ、それでは勲一等から順に発表いたします。このたびの勲一等は……」
女王の足下に控える大臣が紙を読み上げる。
この時ばかりはみんなざわつく。
ガイル侯爵か? それともルビス公爵令嬢か……
「……勲一等は、辺境爵アルト・ダダリ・ドワイド殿」
……? え、俺?
場には『しーん……』という気まずい静けさがうまれた。
あまりに予想外の名、というかほとんどのおエラ方には『誰だよ?』って感じっぽい。
「お、お言葉ですが、女王様……」
と、静寂を破ったのはライオネの領主。
つーか、あのオッサンいたんだな。
「ダダリの領主が一体何をしたというのですか?」
「ご存じありませんの? アルト様は自らの身の危険をかえりみず、幽閉された
ざわ、ざわざわ……
再びざわめく
「なんだあの青二才は? 顔も知らんぞ」
「ワシは知ってる。御前試合でライオネのお嬢さんにボコボコにされていた情けないヤツだ」
「トルティの息子か。あんな弱小貴族が女王様を救出しただと……!?」
なんてこった。
ウマい具合に目立たずにいれたものが公になってしまった。
「こ、コホン。続けまするぞ」
大臣が続ける。
「えー……勲一等の辺境爵アルト・ダダリ・ドワイド殿には【子爵】の
こうして勲功の発表が続くが、
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