第42話 スピード勝負
そのまま軍議は散会となった。
うーん。
おエラ方に協力してもらえれば一番話は早かったのだけれど……
まあ、案の定そうはいかなかったな。
というワケで、次善の策へ移行だ。
そう。
命令を出す側に協力してもらえないなら、実際に現場で戦う者たち……つまり冒険者たちと直接話をつければいい。
で、そう思って外に出たのだが、先ほどあれだけいた冒険者が庭からキレイさっぱりいなくなっていた。
ヘンだな。
作戦は夜10時と言っていたからまだ時間はありそうなものだが?
領事館の人っぽいのに尋ねてみる。
「冒険者の皆様には訓練所の方へ待機していただいております」
「そっかぁ。領地のモンスター退治で世話になった冒険者がいるから声をかけておきたいんだけど……」
そんな適当なことを言って案内してもらうと、野球の屋内練習場のようなところに半裸の男たちが汗の霧を放ってひしめきあっていた。
ムキムキの筋肉。
手の甲までびっしりと生えた体毛。
惜しげもなく放出された男らしさの渦の中で、ひとり白パンティにお尻をぷりっとさせた女冒険者の姿が見える。
「ねえ、おじさん」
「ああ?」
「あのおねえちゃんを呼んで来てほしいんだけど」
俺は入口の近くで座っていたスキンヘッドの冒険者に1万Gの王立銀行券を手渡しながら頼んだ。
「……ちょっと待ってろ」
スキンヘッドはカネを受けとるとのっそりと立ち、少し歩くとこう怒鳴った。
「ネーニャ! あの坊主が呼んでるぜ!」
あ、目立ちたくないから静かに呼んでほしかったんだけど……
まあいいか。
俺は入口から手を振ってみる。
すると女冒険者は口元を抑えて目を丸くし、談笑していた周りの男たちへ断りを入れると、いそいそとこちらに走って来た。
「ボク!? 会いに来てくれたの?」
女は俺の手をやさしく握って、白パンティの股間をもじもじとさせている。
「うん。ちょっと頼みがあってさ」
「頼み?」
「この冒険者たちの中で今回のリーダーになりそうなヤツを教えてほしいんだ」
「それなら断然ジレンね。この中では一番顔も広いし、実力もあるわ」
おお、そういう確定リーダーみたいなヤツがいてくれるのはありがたい。
「で、そいつは今どこにいるの?」
「そこよ。彼がジレンだわ」
女冒険者が指をさしたのは、さっきのスキンヘッドだった。
「あんたがジレンか」
「なんだ坊主。今度はどいつを呼んでくればいいんだ?」
スキンヘッドは細い目でこちらを睨む。
「いや、今度はあんたに話があるんだ。ええと、ここだけの話だけど……」
俺は弱小ながら貴族であり軍議に参加していたこと、ガイル侯爵たちは今夜冒険者たちに城とダンカン塔を同時攻略させようとしていることを教えてやった。
機密漏洩といえばそうだが、どうせすぐに命令されることなので問題ないだろう。
「なんてこった……」
ジレンはツルツルのスキンヘッドを抱えた。
「それじゃあ、ガイル侯爵は女王様を見捨てたってことなのか?」
「そこまでハッキリは言ってなかったけどな……」
ところで、これは
冒険者ってのは自由な流れ者の分、逆に王家などの正統な権威へ強く敬意を持つ者が多いんだと。
つまり、ここに集まっている連中の多くはガイル侯爵の人望というより、モチベ的に『女王様のため』という義侠心に駆られて来ているワケだ。
「だが、人質が危険すぎるのは確かだよ。俺はダンカン塔一斉攻撃の前に女王とその側近を救出しておきたいと考えている」
「そんなことができるのか?」
「あんたらがちょっとばかり協力してくれたらな」
俺がジレンに頼みたいことはひとつ。
冒険者たちによる塔攻撃のタイミングを俺の合図に合わせてほしいということ。
ダンカン塔の上層階から旗を落とすので、それが合図だ。
「というワケで協力してくれたらきっと女王を救出してみせる。頼む。協力してくれ」
「よし、わかった……と言いたいところだが、問題は坊主、お前の言うことを信用していいかどうかってとこだな」
たしかに、向こうからすりゃそれはあるだろう。
「それにオレたちの今回のクライアントはガイル侯爵だ。侯爵の命令に逆らえばクエスト失敗。ここに全員が違約金を支払わなければならなくなる」
「そ、そっか……」
困ったな。冒険者たちの協力もムリかあ。
「……だから20分だ」
「え?」
「ガイル侯爵の攻撃命令時刻から20分まで待つ。それなら現場判断のタイミングということでゴマカシがきくだろう」
おお! やった!
「……だが、20分経って合図がない場合は侯爵の命令に従いダンカン塔への攻撃を開始するぞ」
「わ、わかった」
俺はジレンに重ねてよろしく頼んでから、領事館を去った。
◇
それから、王都市中で少し買い物をすると、いったん宿に帰ってちょっぴり仮眠を取る。
ガイル侯爵の命令は夜10時。
ジレンの攻撃タイミングのズラしは20分以内なので、俺の行動開始も夜10時に近くなければ意味がない。
目を覚ますと夕方になっていたのでメシを食い、腹ごなしにストレッチなどしながら時間を過ごしつつ、9時にまた宿を出た。
こればかりは遅刻するわけにはいかないからね。
9時20分、ダンカン塔の裏側に到着。
あいかわらずこちら側に見張りはいない。
石の目印をしてあるところから”壁抜け”をして塔内部の倉庫へ侵入。
9時30分、一階層の『階段』近くに到達。
近くの壁にひそみつつ、9時38分に見張りの交代があった。
が、まだ時間が早いので、次の見張りローテーションまで待つことにする。
そして、9時58分。
「おう。ローテーションだ」
「やれやれ、休憩は遠いな」
よし、今だ。
代わった見張りが一人になったのを見て、俺は壁から出る。
「な……ッ!!」
壁からニョキっと出て来た俺を見る見張りの顔は、まるでオバケを見たかのように真っ青だった。
まあ、そりゃ怖いよね。
その上ふんだりけったりで悪いが、彼には気絶してもらう。
水月に拳をめり込ませると、「うっ……」と呻いて動かなくなった。
ゴーン、ゴーン……!
そこで遠く時計塔から10時の鐘の音が聞こえてくる。
タイムリミットはいずれにせよ20分。
ナディアたちを見つけるまでスピード勝負だな。
俺は階段を駆け上がり、ダンカン塔の2階層へ向かった。
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