上手いビールと美味しい肴と、ときどき彼氏

青空 吹

第1話 出会いの探し方?


「木村さん、これ、入力お願いします」

「はい、わかりました」


営業の風くんから伝票を受け取った。


「おぅ、風。どうだった、先方は」

「課長、今日は話を聞きに行っただけですよ」


 課長に呼ばれ、立ち去る彼の背を、今日も爽やかだなぁ、と思って目で追う。

 営業一人気のイケメン、風 大智くん。

スラリと背が高く肩幅もあって、なかなかに体格がいい。

芸能人ばりの整った顔で、それでいて、笑うと可愛くもあって、社内どこにいても目立つ存在だ。

 私とは同期だけど、仕事以外で話す機会もなく、ただ目の保養に眺めているだけだ。

でも、それで充分堪能させて貰ってる。

 おっと、仕事仕事。

顔を戻し、パソコンの入力画面を開いた。


 ここは工事会社の営業部。

私、木村桜子は、ここの事務員をしている。

大手の子会社だけど、規模はそこそこの中堅会社だから、社風は結構のんびりな感じ。

なので、今日も定時で帰ります。

 各グループに事務員は1人づつ。


「お疲れ様でーす」


 第1グループの永井唯ちゃんと第3グループの樋口香織さんに手を振って更衣室へ。


「サクラちゃん、まだいる?」


私服に着替えていると、唯ちゃんがやってきた。


「うん、いるよ」

「はぁ~、疲れたぁ。ちょっと一服していいかな」

「どうぞー」


 返事と同時に、空気清浄機マックスの風量と、窓を開ける音が聞こえた。


「ふぅー、生き返る~」


 着替え終わって振り向くと、ソファーにのけ反る様にして唯ちゃんがタバコをふかしていた。


「ハハッ、大袈裟。まだ、終わんないの?」

「今日、長谷くんとデートなの。だから、それまでいようかと思って」

「そうなんだ。工事部に戻って来てるんだね。いーじゃん、どこ行くの?」

「エヘヘ、それが今日は、長谷くんの部屋で飲み会なんだぁ」


なるほど、お泊りってことね。


「明日は休みだし、ゆっくり出来るね」

「そうなのー」


 すっごく嬉しそうに話す唯ちゃんにつられて、私も笑顔になった。

 唯ちゃんの彼氏、長谷くんは工事部所属。

だから、あちこちの現場へと出張に出かけることが多くって、ちょと前まで、会える時間が少ないってグズグズ言ってたのに、変わり身、早いんだから。


「彼氏かぁ」


 自分のワンルームのベランダで1人、缶ビール片手にタバコをくわえながら、ポツリと口から零れ出た。

もうかれこれ何年も、彼氏がいない。

指折り数えてみると、7年。

びっくりしたけど、それも仕方ないか、そう思ってベランダに置いてある丸椅子に腰かけた。

 タバコの煙がゆっくりと夜空に揺蕩っていくのを眺めて、ビールを飲んだ。

7年、こんな生活を続けてきたけど、そんなに時間がたった感じがしない。

歳は確実にとっていくのに、気持ちは以前のまま、変化ナシだ。

だからか、今、隣に誰かがいる生活というのを思い描けない。てか、逆に煩わしく思える。

 でも、あの唯ちゃんの笑顔。

なんだかんだ言ってても、彼氏がいるとあんな素敵な笑顔になるんだ、としみじみ思った。

 私の多くない恋愛遍歴は、どれもパッとしないものばかりで、決まって最後は自然消滅が殆どだ。

 それなのに、タイムリミットの如く、あと1ヶ月で30歳の大台がやってくる。


「はぁ〜 」


 ため息が出た。

贅沢じゃないけど、今の生活に不満はない。

かといって、あと10年、20年このままなのかって思ったら、流石に怖い。

『婚活、じゃないか、恋愛活?なんて言うの? とにかく、彼氏探し頑張ってみようかな』

そう、心に決めた。

 でも、だ。

 相手がいないと始まらない訳で、アプリで出会いをと思うけど、どうも、そういうのは性格上、無理だ。

社内でと思って、風くんの顔が浮かんだけど、一瞬でかき消した。

あんな爽やかイケメン、観賞用であって彼氏とかありえない。

大体、私なんてお呼びじゃないだろうし、誰であっても社内じゃ別れた後が気まずくなりそうでイヤだ。

別れる前提みたいで、どうなのって思うけど、その可能性はムシ出来ない。

なら、どこで出会えばいいんだか。

 こういう時の強い味方。

小料理屋『梅野』のアキさんとレイカさんだ。

と、頭に浮かんだのは、ジョッキに注がれた冷えた生ビール。

 缶をゴミ箱に投げ入れ、キャップ帽をかぶり上着を羽織って、家を出た。

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