第26話「夕食」
「お兄ちゃん、野菜は多めと少なめはどっちがいいですか?」
「具材はゴロゴロは言っている方が好きかな」
そう答えるとトントンと野菜を切る音がキッチンに響く。雲雀に任せて俺が部屋に引きこもるというのもなんだか申し訳ない気がして居るだけでなんの役にもたたないが一応キッチンでイスに座っている。
「お肉はもちろんたっぷりですよね?」
「ああアブラニクヤサイマシマシで頼む」
「油がカレーにあるわけないでしょうが……」
そんなジョークを言いながら料理ができるのを待っている。ジュウジュウと肉の焼ける音が聞こえてくる。牛肉特有の香ばしい匂いだ。スパイスの香りと相まって非常に美味しいことが予想出来る。
「いい匂いだな」
「む……私の方が良い匂いがしますよ? 嗅ぎますか?」
「なんでお前は匂いでカレーと張り合ってんだよ! 嗅ぐわけねえだろ、変態か!?」
「私は完璧な人間なので身体から花の香りが漂っていますよ?」
「身体改造でもされたかな?」
人間の汗が花の香りなわけねえだろ! そんなこと異性関係に超疎い俺だって嗅がなくても分かるよ! 見え見えの嘘をつくんじゃねえよ! あと変な性癖の扉を開けようとするな。
「私はお兄ちゃんの望む姿になれるんですよ、能力や特性も含めて私はお兄ちゃんに会わせられるんです!」
「自然の摂理をねじ曲げるんじゃない!」
お前はポ○モンか何かなのか? 都合良く進化できるのか? 進化途中に進化キャンセルをしてやりたい。
「冗談ですよ。水も入れましたし煮込んでいる間お話ししましょうか」
「始めからそうしろ。無理のありすぎる会話の導入をするんじゃない」
冗談にしたって目がマジなのであるいは……と思わせるところがあるのが俺の妹の怖いところだ。
「どうだ、高校生活にも慣れたか?」
「お兄ちゃん大好きキャラが早くも定着しつつありますね」
「ああ……俺のせいで妹の友達が離れていく……」
俺はまったく悪くないのだが何故か罪悪感を覚えずにはいられない。早速妹の高校生活に嫌な雲が見えてきた。俺のせいで妹までぼっちの陰キャになりそうとか酷い話だな……
「冗談ですよ、お兄ちゃんが好きというのは知られていますが、ちゃんと加減はしてますよ。話をする友達くらいはいますって」
「ならいい」
本当によかった。妹の高校生活が破綻するのが俺のせいだとしたらとても耐えられない。俺の責任はそんなに無い方が良いに決まっている。雲雀のコミュ力なら大丈夫だとは思うが不安を感じてしまうのがコイツから信念を感じられる理由だ。
「お兄ちゃん、カレーはちゃんと食べてくれますよね?」
「ああ、もちろんじゃないか」
何を当たり前のことを。
「良かった……お兄ちゃんに料理を食べて貰うのは緊張しますね」
「俺はどこぞの食通みたいなことは言わないから安心しろ。大抵のものは美味しく食べられるぞ」
「ほう……では私を美味しく頂いてもらっても?」
「くだらない冗談はやめろ」
まったく、しょうがないやつだな。そうやった質の悪い冗談を言っていると友達を無くすぞ? 俺はそんなことをしなくても友達はできなかったがな……
「ねえお兄ちゃん、私はお兄ちゃんの妹ですよね?」
「そうだな、当たり前だろ」
「だったら私はお兄ちゃんの友達だったり恋人だったりもしませんか? 妹だからと言って妹以外の関係性を持ってはいけないと言うことはないと思うのですが」
くだらないことを一々考える奴だどうやったらそんなことを思いつくのやら。
「でも妹以外になりたくもないんだろう? 俺がお前と友達だからといって『妹じゃない』なんて言ったら絶対不満を持つだろう?」
「当然じゃないですか! お兄ちゃんの妹は私のアイデンティティですよ!」
何をアイデンティティにしているんだよコイツは……俺がいなくなったら崩壊するようなものを基準にするんじゃないっての。
「おっと、そろそろカレールーを入れてもよさそうですね」
そう言って席を立ち、雲雀がカレールーをパキパキ割って鍋に入れるといい香りが漂い始める。
「やっぱりカレーはいい匂いがするな」
「さすがに私もカレーの香りは出せませんよ?」
「なんでお前の体臭の話になっているんだよ! 身体からカレーの匂いがしたらヤベーやつだろうが……」
自由に体臭を変えられるってもはや人類として進化した種なんじゃないだろうか?
「さて、あとは煮込むだけですよー! お兄ちゃんは期待をしておいてくださいねー!」
「ああ、雲雀の料理はいつだって美味しいからな」
俺がそう言うとガチャガチャと鍋をかき混ぜながら顔を赤くした。
「ま、まあ事実ですからね! お兄ちゃんにも私の料理の腕が知れ渡っているというのは良いことです! 今日のカレーであまりの美味しさに驚かないでくださいよ!」
ピー!
炊飯器が炊き上がりを通知した。俺はカレー皿を二枚出してご飯をよそう。俺は多めにしておいた。
「雲雀もご飯多めでいいか?」
「私は普通でお願いしまーす」
雲雀のさらには普通の量をよそってカレー鍋の横に置いた。
「うん、いい匂いがしてる。美味しそうだ」
「でしょう! 私の力作ですからね!」
自信満々の雲雀だが、それに見合った料理を作るので俺も信頼している。料理の腕は素晴らしい物がある。
カレーを二皿のご飯にかけてダイニングテーブルに並べた。俺はスプーンを二個出して並べた。
「じゃあお兄ちゃん! 食べましょうか!」
「ああ、そうだな」
席についていい香りをしているカレーを食べる。ピリリとした刺激と肉の旨みがあふれている。
「美味い!」
「でしょう? もう少し凝った褒め方をしてもいいんですよ?」
「料理に美味い以上の褒め言葉があるか? 飾り付けた言葉より一言の『美味い』で十分なんだよ」
「ふふふ……お兄ちゃんは子供っぽいですねえ」
そうして美味しく夕食を食べ、妹の料理の腕の高さを再認識したのだった。
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