第25話 復讐を 終えたけれども 休めない
リオアハン教国 古代ブラギタ遺跡 マラクス
復讐を達成したあと、オレは教国に戻ってきていた。
いろいろと考えることはあったけどな。
それでもゴブリンとして暗雲の森では暮らしていけねえんだわ。
だってさ、もう今さら調味料なしの食事には戻れない。
それだけの話だ。
食い意地が張っていると笑わば笑え。
メシって大事なもんだぜ。
なんせ毎日食うもんだからな。
ここに帰ってきたとき、聖女やら騎士団長やらが歓迎してくれた。
地味に嬉しかったんだよね。
オレを敵に回したくない一心で、命がけになる交渉をもちかけてきたくらいだ。
打算がないわけじゃないだろう。
それでもさ、やっぱり居場所があるって大事だ。
宴会で酒を飲んで、聖女の愚痴につきあって、騎士団長たちと模擬戦をする。
それがオレの日常だと言えるのかもしれない。
というか復讐を達成したら、することねえしな。
達成したからといって満足感があるわけでもない。
ただの自己満足だ。
そんな日常を送っていたある日のことだ。
緊急の用件があるとして騎士団長が昼寝中のオレのところにやってきた。
「で? なんかあったの?」
オレの言葉に神妙な表情をした騎士団長が頷く。
「実はタタヌ王国の辺境領にて強力な
と言うかオレって名前をなのったっけ?
よく覚えてないな。
そもそも
どういうことだ?
「さっぱりわからん」
首を傾げながら言うと、騎士団長が苦笑した。
「タタヌ王国内にとどまっている分には良いのですが、どうやら北上しているそうでして」
「で、オレに出張って欲しいってこと?」
「申し訳ありませんが、そのとおりです」
騎士団長が頭を下げる。
「べつにいいけど、オレと関係あるかは知らんよ」
「もちろんです」
そんなこんながあってオレは急遽、タタヌ王国を目指して空を飛ぶことになった。
タタヌ王国辺境領北部 マラクス
遺跡からひとっ飛びして、何度か顔を合わせている黒神官と合流する。
黒神官によると
あと
ダグレグって誰と聞くと、辺境領の冒険者ギルド副長らしい。
なんでも狼獣人とは現役時代からのコンビだったって話だ。
そんなことを言われても知らんがなである。
あのときの戦いで記憶に残っているのは狼獣人と大蜥蜴男、あとはエロフくらいか。
有象無象の連中とバカがいたような気もする。
覚えてないからよくわからん。
とにかく強力な
話を聞いてもよくわからんので、そいつのところまでさらに飛ぶ。
お、いるいる。
と言うか
でも革の軽鎧をつけていて冒険者って感じはする。
武器は持ってないけど。
その足取りはしっかりしたものだ。
あれって
ただの死体って感じじゃない。
なんか意思を感じさせるような目力がある。
どうにも変な感じだな、と思いつつ
「マラグズ……」
目の焦点はあっていない。
でも確かにオレの名前を呼んでいる。
んん? と首を傾げていると
「マラグズっ! ころず!」
前傾姿勢で獣のように駆け寄ってくる。
なかなかのスピードだ。
少なくともあの狼の獣人よりは速い。
伸びた爪を振り回すようにして攻撃してくる。
獣じみた動きだ。
大きく横に裂けた口からは鋭く伸びた犬歯も見える。
ダラダラと涎をたらし、目も異常に血走っていた。
四つん這いの姿勢で近づいてきたから蹴り飛ばそうとすると、急制動をかけてかわしやがった。
「うがあああ!」
吼えて、飛びかかってくる
ニンゲンのものじゃないんだな。
いや
なんつうか身体の使い方がおかしい。
関節とかどうなってんの?
半歩退いてかわす。
うお!
爪がニョキニョキって伸びてんだけど。
気持ち悪いな。
顔にかすったけど、傷はついてない。
がら空きの腹にゴブリンパンチを食らわすと、腕が突き抜けた。
それでも
そういやこいつもアンデッドなんだな。
だったら神判の力を使うしかないのか。
いやでもこいつって
ってことは神判の力を食らってるはずなんだけど。
「うぼあああああ」
腹を貫かれてもおかまいなしだな。
噛みつこうとしてやがる。
犬歯をガチガチと噛み鳴らしてやる気ありすぎだろ。
「キモいな」
嫌だぞ。
あんなのに噛まれたら、なんか病気をうつされそうだ。
空いている方の手で
腹がちぎれて酷いことになったけど、元気いっぱいだな。
「おろろろろろろ」
もはや何を言っているのかもわからん。
ただ血走った目をらんらんと輝かせている。
やだ、ガンギマリじゃないですか。
「いやもういいよ」
こんな
なのでさっさと決着をつけたい。
神判の力をみなぎらせて全身に纏う。
「死ねっ」
縮地からの前蹴りで腹から下を吹き飛ばす。
そして上半身だけになった
生き別れになった
なんちゃらの獄炎とかいってた、アレだ。
「マラグズ……」
それでもまだオレの名前を呼んでいる。
ふぅ、と大きく息を吐いた。
「マンマンちゃん、いるんだろ?」
オレは灰になりゆく
”ふはははは”と明るい笑い声が聞こえる。
【よくわかったな】
「こう見えてもゴブリンの間じゃ天才児って呼ばれてたんだぜ」
【それ、自慢にならんだろう】
「細けえこたあいいんだよ。で、なんの用?」
【お前、なんかおかしくねえか?】
「なにが?」
【オレぁ怨嗟を喰われたはずだろ? なんで正気を保ってやがる?】
「さっきの
【なんのためにお前を種族進化させたと思ってんだ】
「残念だったな、マンマンちゃん。オレは祝福持ちだ」
ビシッとかましてやった。
なんだかマンマンちゃんが呆れているような気がする。
【お前の祝福って言語理解と再生じゃないのかよ?】
「知らん!」
バカめ。
そんなこと言うわけなかろうが。
【真面目に聞いたこっちがバカだったな】
”はぁ”とマンマンちゃんがため息をついている。
「で? どうすんだ?」
【さて、どうしたもんかねぇ】
と言いつつ、マンマンちゃんがオレの前に姿を見せた。
身長はオレと同じくらい。
黒いヒト型の身体に赤い目。
たぶんだけどオレの姿とそっくりだ。
違いはオレにない立派な角があることと、背中の羽がコウモリみたいなこと。
マンマンちゃんを見て、オレは静かに神判の力を高めていく。
どうせ戦うことになるんだろう。
そんな予感があったからだ。
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