第20話 ゴブリンが 騎士団長とも 模擬戦だ

リオアハン教国 古代ブラギタ遺跡 マラクス


 聖堂を出ると中二病的な名前の黒神官服がいた。


「終わった。聖堂の中に武具があるけど好きにしていいぜ。あと、これはもらっておく」


 武具っていってもあのアンデッドサイズだからな。

 ひょっとするとオレがもらった剣みたいにサイズが変わるかもしれんけどね。

 どちらにしろ鎧なんて要らないし、あのバカでかい大剣も不要だ。


「よろしいのですか?」


「オレには使えないしな、あんたらが必要なら好きにしたらいい。そんなことより後は任せていいんだよな。やれって言われてもできんけどな」


「我らにお任せくださいませ。不死の騎士王を討伐していただき、ありがとうございました」


 ヒラヒラと手を振って去っていく。

 野暮なことは言わないもんだ。

 ゴブリンはクールに去るぜ。


 と格好をつけたのはいいものの腹が減ってきたんだ。

 そんなわけで鼻をスンスンさせて匂いを嗅ぐ。

 遺跡の入り口のところに聖女たちがいるみたいだ。


 翼をはたかめかせて飛ぶ。

 やっぱ空を飛べるって便利だな。


「マーくん!」


 聖女と騎士団長のいるところに降りる。


「おう、勝ったぜ!」


 ビシッと親指を立ててやる。

 さすがにジェスチャーまではわからんようだ。

 聖女に騎士団長がポカンって表情になっている。


「ミーちゃん、腹減った。食い物と酒おくれ」


「話は食べてからってことでいい?」


「おう。つっても話すことなんてあんまねえよ?」


 どっかりと地面に腰をおろす。


「マラクス殿、食事の用意はすぐにさせよう。その間に少しだけよろしいか?」


 騎士団長の目がオレの持っていた剣にいく。

 ”おう”と応えると騎士団長も腰をおろした。


「その剣は不死の騎士王が持っていたものだろうか?」


「くれるって言うからもらってきた。あと聖堂の中にも残ってるぜ。鎧とかバカでかい大剣とか」


「我らが戦ったときは不死の騎士王と同じくらいの大きさの大剣しか使っていなかった……その剣だとずいぶんと小ぶりに見える」


「コレな。不思議な剣なんだよ。あのアンデッドが持ってたときは二メートルくらいあったよ。で、オレが持ったら縮んだよ」


 ”ほう”と騎士団長が頷いた。


「恐らくは魔剣と呼ばれるものだろう。マラクス殿、その剣に合う鞘も用意させていただきたく」


「よろしくな。あ、そうそう。さっき話した聖堂の武具は、騎士団長たちの好きにしていいよ」


「よろしいのか? アレも魔法効果のある武具だと思うのだが」


「要らん要らん。どう見たってオレの身体には合わんからな、好きにしたらいい」


「御厚意かたじけなく頂戴する」


 騎士団長が頭を下げたタイミングで、聖女が酒を持ってきた。

 さすがにグラスとまではいかなかったようで、木製の杯を三つ用意している。


「マーくん、シドニー、祝杯よ!」


 聖女が手づから酒を注いでまわった。

 ちゃっかり自分の分も用意しているのが聖女たる所以だろう。


「料理は後からくるわ! さぁ今日は飲むわよ!」


 杯の縁を重ねてから、グッとあおる。

 質の低いワインだけど、美味いんだコレが。

 ゴブリンだと絶対に楽しめないもんだからな。

 

 かぁ。

 空きっ腹にアルコールが染みるぜ。


「ねぇマーくん、実はけっこう余裕で勝ってきちゃった?」


「いやオレ言ったよね、負ける気がしないって」


 まぁ実際にはオレの中二心を満載した貫く灰燼ペネトレイトアッシュが効かなかったときは焦ったけどね。

 でも結果オーライだ。

 たぶん素でやりあう分ではオレに負けはなかった。

 これまで戦った中ではいちばん強かったけどね。

 どうも攻め方が単調なんだよな。

 大剣使いってそんなもんなのか。


「たしかに言ってたわね。でも不死の騎士王って本当に強かったんだもん。ね、シドニー?」


 聖女の言葉に騎士団長が酒で口湿らせてから話す。


「そうだな。正直なところ武の腕前だけを見ても私は負けていた。数で圧したしたようなものだ」


「ほんとうに危なかったもんね。ガラオリラ様たちが加勢してくれなかったら負けてたかも」


「確かにな……」


 騎士団長が小さく俯いてから顔をあげた。

 その視線がオレに突き刺さる。


「マラクス殿……一度手合わせをお願いしたいのだが」


「いやだよ、面倒臭い。っていうかオレ手加減できねぇから。ミーちゃんに恨まれたくねえし」


 オレとしては珍しく遠回しに言ったつもりだ。

 騎士団長は弱くないよ。

 けどオレにとっちゃ雑魚だ。

 その気になったら一撃で終わっちまう。


 手加減できないってのは本当だけどな。

 っつうか手加減の仕方を知らねえのよ。

 オレってば。

 親爺にそうやって教え込まれたからな。

 いつだって殺意満開の攻撃しかできない。


「私では相手にならないとはわかっているんだ。だが……」


 なおも食い下がる騎士団長。

 その表情をみると戦ってみたいんだろうなってわかる。

 けどさ、それをやったら面倒なことになるだろ。

 だからオレは無造作に脇に置いていた剣を振るった。

 騎士団長の喉元に切っ先をつきつけてやる。


「な? 今のに反応できないんじゃやってもムダだよ」


 うちの流派は武芸百般を地でいくからな。

 無手の次に得意なのが刀術なんだよ。

 

 たらりと額から汗が流れる騎士団長は落胆したようだ。

 自分の弱さってものを突きつけられた感じなんだろう。

 やれやれ、これだからデキるヤツは困る。

 前世のオレなんて、何度そんな経験をしたか。


「もう! シドニーも無茶を言わないの! 総教主様からも言われてるでしょ、絶対にマーくんと戦っちゃダメって」


「いや、それはそうなんだが」


 ふぅと大きく息を吐く騎士団長がいた。

 良い意味で聖女が毒を抜いてくれたらしい


「すまない、マラクス殿。先ほどの言葉は忘れて欲しい」


 素直に頭を下げるのを見て、オレは肩をポンポンと剣の腹で叩いてやる。

 そういうとこだぞ。

 敵になる相手の目の前で目線を切ってどうすんだ。

 この分だといくら強くなったとしても、オレの相手にはならないだろう。


「いいよ、武人とやらの血が騒いだんだろう? 忘れてやるから騎士団長も忘れろ」


 オレが言い終わるのかを待っていたかのようなタイミングで料理が運ばれてきた。

 野営中の料理だから豪華なものじゃない。

 濃いめのスープに肉やら野菜やらが入ったものとパンだ。

 あと干し肉と果物もついてきた。


 やっぱニンゲンのメシは美味い。

 

 その日は宴会になった。

 で宴もたけなわになって、古代都市の広場で寝転がっていると騎士団長がやってきたんだ。


「マラクス殿、私は……」


 まぁそうなる気はしてた。

 宴会の最中もどっか気がそぞろだったしな。

 その気持ちはわからんでもない。

 だから、頭をボリボリと掻きながら言った。


「しゃあねえな、死んでも恨むなよ」


 騎士団長が剣を抜いた。

 片手剣と小ぶりのカイト・シールド。

 

 間合いを詰めてくると思ったら魔法を唱える。

 それは身体能力を強化するものらしい。

 準備している間はお情けで待ってやる。

 律儀にヒーローが変身する間は動かない怪人みたいなもんだ。


「いきます!」


 うん。速いんだけど真っ直ぐにくる。

 そこから剣を打ち下ろすか、シールドバッシュにくるか。

 様子を見ていると騎士団長は跳んだ。


 格闘ゲームで言うめくりみたいな動きをするのかと思ったんだけど、そうじゃなかった。

 オレの頭上から剣を振り下ろしてくる。

 最初から大技を使うなよ。

 そんなの決まるわけがないだろうに。


「いえぁっ!」


 気合い一閃の剣を余裕でかわして、着地の瞬間を狙って前蹴りをしてみた。

 さすがに盾で防いだんだが、ダメージはでかかったみたいだ。

 後方に後退ったものの、騎士団長の盾を持っていた左手がだらんと下がっている。

 だって鎧通しを使ったからね。


「くっ」


 その瞬間にヌルッとした動きで間合いを詰めていく。

 このまま正面からでも押し切れるけど、それはしない。

 歩法を使っての移動を敢えて見せてやる。

 背後に回って、騎士団長の首に手刀を添えた。


「はい、終わり」


 オレの言葉で騎士団長は力が抜けたようだ。

 膝をついて”まいりました”と宣言した。


「じゃあオレは寝るから。今度は邪魔すんなよ。あとミーちゃんに手を治してもらえよな、そんで盛大に怒られるがいいさ」


 そう残してオレは広場で横になった。


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