第18話 ゴブリンと ビッチ清楚は おともだち


リオアハン教国 古代ブラギタ遺跡 マラクス


 聖女が酒に悪酔いして退場した後、オレは総教主と話を詰めた。

 そしてあの場所では詰め切れない話や、時間がかかる問題があったことから、リオアハン教国の港町の郊外にいる。

 都合のいいことに港町の西に少しいったところに山があり、そこに古代遺跡があるのだ。

 古代なんちゃらとか言っていたが覚えてない。

 ただ聖女が十年ほど前に、高位のアンデッドを封印した場所らしい。

 

 そこに調査名目で聖女と騎士団長が派遣され、その一団の中にオレはいる。

 と言っても大っぴらに顔を見せるわけにはいかないから、オレだけ遺跡の中にある隠し部屋でのんびりしているのだ。

 事情を知っているのは一部の者たちだけで、ちゃんと食料や酒を提供してくれる。


 そう。

 オレは古代遺跡の中でニートをしているわけだ。

 いや食っちゃ寝して生活するのは最高だね。

 いろんな意味で癒やされてしまうよ。

 

 ちなみに酒癖の悪い聖女だが、今では飲み友達になってしまった。

 聖女としての役割に色々とストレスを抱えているらしい。

 とは言え、聖女になれたからこそ今の暮らしがあるわけでその点は感謝しているみたいだ。

 聖女じゃなかったら、今でも虫を食べていたかもしれないと愚痴ってたからな。

 あの清楚系ビッチにも複雑な過去があるらしい。

 

 でもね、ただのんびりしているわけでもないんだよ。

 この遺跡にきた名目はアンデッドの封印を点検しにきたってもの。

 オレとしてもそのアンデッドにお目にかかってみたい。


 あと神判の力が効くか検証したいんだよね。

 魔物にも効果があるのかってこと。

 悪魔であるマンマンちゃんにも効いたからさ、効果があるのかと思うんだけど知っておきたい。

 

 ただ神判の力をブッパしちゃうと、ここにいる教国のニンゲンが死ぬからさ。

 その辺をどうしようかと思って特訓したんだ。

 夜中にこそこそ遺跡を出て、お空の上まで飛んでいってさ。

 神判の力を制御できないかやってみたんだよね。


 参考にしたのは前世で読んでいた漫画だ。

 垂れ流すんじゃなくてとどめるってやつ。

 なんとなくできそうな気がしてたんだけど、思ったより早く習得できちゃった。

 この技の威力を試してみたいってのもある。


 そんな訳でアンデッドの件を聖女に相談してみたんだよ。

 聖女は倒せるなら倒して欲しいらしいんだよね。

 封印できているけど、それがいつまで保てるのかわからないって理由で。

 一応の名目で封印の点検をするって聞いてたけど、実際には定期的に訪れているそうだ。

 で、アンデッドの件なんだけど勝手なことはできないから、騎士団長と総教主に相談してみるって言ってた。


 ちなみに聖女は騎士団長と結婚してるそうだ。

 ニヤニヤしながら惚気るから、その日の酒は非常に不味かった。


 今のところ総教主からの返事待ちってことでのんびりしてる。

 やっぱり組織ってのは色々と面倒臭いもんだと思う。

 オレの性には合わないんだ。

 前世ではその辺で色々と苦労した。

 明らかに社会不適合者だったわけだからな。


 そんなオレが今生ではゴブリンに生まれて、社会って軛から解き放たれたわけだ。

 ただまぁニンゲンと関わりを持つのなら、ある程度の配慮ってもんがいる。

 配慮をするのはいいが、どこで線を引くのか。

 ニンゲンってのはつい調子にのっちゃうもんだからな。

 それはオレ自身がいちばんよくわかっている。

 なんたって前世で殺されたのは、それが理由だからな。


 ボケッと物思いに耽っていると、遺跡の中にある隠し部屋の扉が開いた。

 聖女とお付きの女が顔を見せる。


「おう、ミーちゃん。なんかあった?」


 飲み友達になってしまったオレたちは、かなり砕けた感じで話している。


「総教主様からの連絡が届いたから伝えにきたのよ、マーくん」


 ミーちゃん、マーくん。

 後ろで控えているお付きの女は無表情を装ってるけど、内面では顰めっ面って感じだ。


「で、どうだった?」


「総教主様も倒せるなら倒して欲しいって。でもあの食屍鬼グールを作る力は大丈夫なの?」


「オレはやればできる子だって言われてきたからな、問題ない」


 胡乱な目つきで聖女がオレを見る。

 そしてひとつ大きな息をはいた。


「本当はね、こんなこと言っちゃダメなのもわかってるの。けどマーくんのことが心配だから言うわ」


 ”勝てるの?”と真面目な声で問われる。


「もちろん」


 自信満々で答えた。

 これは前世からあるオレのちょっとした特技によるものだ。

 荒んだ生活をしていた前世のオレは、自分と対する相手の強さってのがなんとなくわかるんだよね。

 これは何度も経験をしてきたことで得た第六感みたいなもんだ。

 最初は外れることもあったけど、死ぬちょっと前からは百発百中だった。


 その感覚はゴブリンに転成しても引き継いでいた。

 種族進化した今でもそれは変わっていない。

 あの狼の獣人を基準にすると、大蜥蜴の偉そうなヤツはちょっと弱い。

 で騎士団長はちょっと強いくらいだ。


 騎士団長かも話を聞いたけど、恐らくこの大陸のトップ連中の強さがその程度なんだと思う。

 肝心のアンデッドは遺跡の奥から漏れてくる気配があって、だいたい騎士団長よりは強い。

 封印されているってことを差し引きしても、オレよりは確実に弱いんだ。

 そんだけ種族進化による恩恵はデカい。

 

「まったく、その自信はどこからくるのかしら? マーくんが強いのは理解しているつもりだけど死なないでよ」


 ふっと鼻で笑ってやる。


「そういう言葉は旦那にかけてやりな。オレに惚れたら火傷じゃすまないぜ」


「バカ……」


 聖女の唇が近づいて……はこなかった。


「か、勘違いしないでよね、ミーちゃんのことなんて、す、好きじゃないんだから!」


 ぷっと聖女が吹き出してから、あははと腹を抱えて快活な笑い声をあげた。


「なによそれ、なんでそんな台詞が出てくるのよ」


「まぁ心配すんなって。オレにはオレの目的があってやることだからな。そんなことより酒飲もうぜ、ミーちゃん」


 大げさに肩を落とすようなジェスチャーをしてミーちゃんは言った。


「マーくんって控えめに言って最高ね!」


 清楚系ビッチでも涙は似合わねぇぜ。

 こういうときこそ楽しく、それがオレの信条だ。


リオアハン教国 古代ブラギタ遺跡奥地 マラクス


 聖女からアンデッド討伐のゴーサインが出てから三日後。

 オレは聖女と騎士団長の三人で遺跡の奥地へと足を伸ばした。

 二人は緊張を隠せていない。

 そんなにビビらなくても大丈夫なのに。


 洞窟の中を降りていくと、地下に都市があるんだ。

 石造りの都市で、オレとしては前世の記憶がよみがえってくる。

 ぽ、ポンパンだったけ? イタリアかどっかにある火山の噴火で滅んだ都市。

 見たことはないけど、あんな感じだ。

 建物もしっかり残ってるし、無人なのが不思議なくらいにきれいだと思う。

 だからこそ余計に不気味なんだけどな。


 その遺跡の中を進んでいくと聖堂があるんだけど、そこから気配が漏れている。

 聖堂の入り口は重々しい扉で封印されているんだけど、それを聖女がサクッと解除してくれた。

 

 うむ。

 扉の封印が解けたことで、より濃密な気配があふれてくる。

 聖女は平気そうだけど、騎士団長の表情が少しだけ硬くなった。


「それじゃ後は手はずどおりにやるわよ」


 聖女の言葉に大きく頷いた。


「やっておしまいなさい、ミーちゃん!」


 そして十年ぶりにアンデッドの封印が解かれたのである。

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