17 忍のテンパり

 「えーっと……次は何だ、カラスか」


 「あれは半サイボーグで生体偵察機」


 「詳しく」



 見た目から挙動からまんまカラスだったし、そこにメカらしさは一片たりとも感じられなかった。意思を持ってこちらを見ているらしいことと隊長さんの声がしたこと以外は。


 

 「詳しくって言っても、半サイボーグの生体偵察機で粗方説明終わってるんだけど……」



 本当だ。終わってた。

 サイボーグの仕組みとか何やら掘り下げて訊きたい部分もあるけど、単純に構造部分まで茜部が精通しているわけじゃないのかもしれない。



 「訊きたいことが山ほどあるけど茜部に何が訊けてどこまで訊いていいのかわからん」


 「だよね」


 「そもそも何で俺には機密を話していいんだ?」



 忍者のノウハウがあれば別に俺に忍者のアレコレを明かさなくても気取られずに付き合って普通に結婚して老いていくこともできそうな気がするが。

 敢えて組織としてリスクを負って、俺に負わせて、うちの一家を人質に婚約を迫ってまで明かす必要があったのか?



 「………………っふぅ―――――」



 茜部はそれはもうじっくりと天を仰いで、たっぷり息を吐いてから項垂れた。



 「…………犬飼、外して」


 「はっ」



 茜部がぺいっと手を払うと、犬飼――忍者穴場の危険な妙齢店主は軽く頭を下げてバックヤードへと下がっていった。



 「…………それについては、本当にごめん」


 「何ごめん?」


 「何もかも明かさないこともできたんだけど、テンパってて勢いで出た」


 「詳しく」



 茜部、テンパってて国家機密をうっかり出したのか?



 「水原が私のこと好いてくれてるのは知ってたんだけど、いざ面と向かって言われると嬉しすぎた」


 「うん」


 「私はこれで一応それなりの立場があるから、別に明かしてもその後の管理をしくじらなければ問題ないことにはなってる……当初は当面明かさないつもりでいたんだけど」


 「うん」


 「好きだって言ってもらえて、舞い上がって…………魔が差して、全部知った上でそれでも好きでいてほしいって思っちゃった」


 「……」



 ……



 …………






 え、そんな可愛い理由で俺は「結婚か死」なんてぶっとんだ二択に迫られる羽目になったのか?


 二人の仲だから条件反射的に「可愛いから許す」で済ませてしまいそうなところだが、弾みで漏らすにしては漏れた内容が劇物すぎる。加えてこっちは家族の生き死にまで俺の答えに委ねられたわけだ。


 とは言え、今まで見てきた忍者のアレコレから察するに、水原家を抹消するのは容易いだろうと理屈では分かるものの、経過として現実味が無さすぎるので正直それについては立腹よりも困惑の方が強い。



 ただまぁ、重すぎるもらい事故だよなぁ。

 起きたかもしれない未来と今後を想像して俄かに背筋が寒くなる。一個人の抵抗でどうにかなるものじゃない、膨大な組織力と高い技術力による理不尽な暴力が今なお俺の首を抑えている現状は変わらない。



 「本当にごめんなさい」



 俺の絶句に耐え兼ねたのか、茜部は本当に心底申し訳なさそうな顔で深く深く頭を下げた。

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