6 恐竜博士
「タチ悪い政治家を成敗するっていうなら、もっと標的になるべき人が国政に何人もいると思うけど、公務員だからそういうわけにもいかないのか?」
告白翌日の帰り道、また何となく二人きりになったので、某市議会議員の話の流れからふと気になったことを訊ねてみた。
「水原、その歳で国政にまでちゃんと興味を持ってるのは立派だよね」
先生みたいなことを言いながら茜部は軽~く微笑んだ。
「私は標的を決める立場にないけど、今までの例を見た感じ、結局はバランスかな」
「バランスねぇ……」
「まず、政治家と公務員は体系的に別にそこまで深く繋がりはないから、公務員だからやってないってわけじゃなくて……長くなりそうだけど今日はこの話を詳しく聞きたい?」
「……いや、今日はいい」
市政も国政も気にはなるけど、まずは自分とその将来に関わることについて。
学生ってほら、自立を目指す過渡にあるから。
「茜部は生徒として学校に通ってるのか、忍者の任務的な何かで学校に潜入してるのかどっちなんだ?」
「生徒8:任務2くらいかな。任務って言っても私のは簡単な諜報の部類だし、学校は標的というか拠点ってだけだし、正直あんまし気を張ってするようなこともない」
「「諜報」は俺に明かしてもいいのか?」
「二択のどちらかに転ぶなら問題ないよ」
重いんだよなぁ……
思ったよりも忍者ウェイトが低くて肩透かしな気分だが、確かに平和な街の普遍的な一学校で忍者とやらが潜入して暗躍するような裏があっても怖い話だ。
「別に、知られてないだけで忍はそこらじゅうにいるし、そんな末端を逐一働かせなくても今の日本は比較的平和だしね」
「なるほど」
「きびきび働きたい人たちは紛争地帯とかの前線に行ってるよ」
忍者の暗躍は日本人の妄想的なロマンの代表格だが、それが現実にあるとは……
「ま、大雑把だけど裏方で治安維持にゆるく貢献してると思ってくれれば」
「そうする」
事ここに至ってはだがあまり知りすぎるのも、知ろうとしすぎるのも何となくヤバそうなので。
「高校卒業したらどうするんだ?」
結婚前提の交際を̪肢に挙げるくらいだから茜部の将来設計については気になる。
「キャンパスライフを楽しみたいよね」
「え、普通に?」
「普通に。もう進学先は決まってるから、水原も不満がなければそこに合わせて来てもらう手筈になってる」
おっと新情報だ。もう俺の人生のレールは敷かれているのか?
「結婚に応じてくれるなら、一応配偶者向けの地方公務員枠はこちらで用意することになってる。他に目指したい職があるならある程度は融通利くらしいけど」
さらっとテーマが「結婚」になっていないか?……公務員が既定路線なら安定を考えれば普通に悪くない気もするが。
ていうか公務員とは言っていたが、そういう捻じ込みができるくらいには組織的な影響力があるんだな……さすがは国営諜報機関?なのか?
「恐竜博士になりたいならそっち方面の伝手も用意できるって」
「俺の保育園時代の夢をよく知ってるよな」
そうは言いつつ、恐竜へのロマンはこの歳になっても大事に抱えているので正直興味はある。
「恐竜関連は、国内なら福井あたりに転属になるかな」
「福井か……茜部的には福井ってアリ?」
「さらっと私の意見訊いてくれるところ好きだわ~~……あっ」
「ん?」
「蕎麦が美味しい。のどかでいいけど、車が必須かな」
「……まぁ、追々考えようかな」
一瞬、茜部のガワに女子みの強い何かが憑依した気がするが、顔がいつも通りなので気のせいと思うことにしよう。
……で、いいんだよな?顔はいつも通りだけど何かそういう圧を感じるわ。やっぱりまだ抹消されたくないしな。
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