止められなかった償いと愛
@Aj6328GL
第1話
篠原家の朝はその日の予定の確認から始まる。使用人代表の木戸が今日の予定を使用人たちに指示する。
「留美様の指導係はこれまで葛西が担当しておりましたが、留美様はもう高校生・・・受験もお控えになられていますので、今日から正式な指導員を派遣いたします。お入りください。」
「どうも。厳帥です。」
使用人たちがざわつく
どうみても厳帥は小中学生ほどの年齢を感じさせる。しかし目元の深い隈と真っ白の髪から得体の知れなさが湧き出ているようだ。
「お静かに。旦那様が指名してまで派遣を頼んだ人です。信頼ならないなら旦那様に申し出なさい。」
旦那様の指名と聞いて使用人たちは黙らざるを得なかった。
「では各員仕事を始めましょう。」
使用人たちが各々の持ち場へと部屋から出ていく。
厳帥は依頼主である光洋の部屋へと入っていく。
ノックもせずに扉を開けて入っていく様子を、廊下からうかがうように男が見ていた。
昨晩
「え?先生変わっちゃうの?」
「はい、わたしは教員免許は持っておりますが一科目だけなので・・・受験もありますしきちんとしたプロの方を及びした方がいいですので。」
「そっか・・次の人ってどんな人?」
「・・・・・・・。」
葛西の沈黙に疑問の顔を浮かべる留美
「・・・では、私は木戸から呼ばれていますので・・」
ドアが閉まる。
そして再び開く音に向き直る留美
「あ、お兄・・。どうした?」
難しい顔をした兄はドアによりかかり
「次の指導員・・気を付けた方がいいかもしれない・・・。」
「なんで?」
「・・・・いや、なんでもない。何かあったら報告してくれ。」
なんでもないとは言うものの、頭のいい兄のことだから何か考えがあるのだろうと考えた。
「そう・・」
部屋を出ていった兄
二階の自室に向かっている最中に、父:光洋の部屋から声が聞こえる。ドアの隙間からのぞき込む。どうやら電話のようだ。
「あぁ・・・頼んだよ・・・。・・・一つだけ質問いいか?・・」
「明人様どうかなされましたか?」
使用人の柴田に声をかけられてしまい、中断した。
「・・・いや何でもないよ。」
「そうですか?では・・・よろしいでしょうか」
光洋の部屋に入るらしい
「その荷物は?」
柴田は郵便物らしき段ボールを持っていた。奇妙に小さい段ボールに違和感を覚え
「それは何?」
「これですか?わかりません。旦那様の郵便物はいつも何が届くかわからないので。」
「わからない?」
「はい。立場上一日に何通も届くこともありますので、郵便物に関しては旦那様ご自身にほとんどお任せしています。では・・。」
柴田は入っていった。
現在
厳帥と光洋が話している。
「来てくれてありがとう。これで任せられる。あとは頼んだよ。」
そう言う光洋の顔を見て厳帥は決意を確認する
「君の望みは変わらないのかい?」
「あぁ。」
「ひどい奴だね。わかったよ。そろえればいいんだよね。」
少しの間の後
「手を出したまえ。」
光洋は決意に目を細めて手を差し出した。
厳帥は誰かの黒髪を一本出し
「少し痛いかもしれないが我慢してくれ。」
光洋の腕に縛った
「うっ!!ぐぅ・・・。」
「どんな痛みだったね?」
「腕の芯から全身に電流が流れたような・・・」
「・・・・・そうか。」
「?」
「じゃ、あとは任されたよ。」
光洋は髪に縛られた腕を見る
あざのように表面が変色し、腕が拒絶しているようだった。
ドアをノックする厳帥
「どうぞ。」
中に入る厳帥
「ん?誰??」
「新しい指導員の厳帥。よろしく。」
「え?・・・見た目やばくない?」
困惑する留美
「よく言われるね。」
「え・・・ほんとに?w」
「ふふ。なんでも聞きたいことがあったら言ってくれ。」
「まず男なの?女なの?w」
「どっちだろうねぇ。」
厳帥はからかうように返す。
「何歳?」
「今は確か十一だったかな。」
「・・・・・ふぅん。まぁ天才は変人が多いって聞いたことあるし・・。とりあえず実力知りたいんだけど。」
「つまり?」
「履歴書見せて。どうせ中国とかで飛び級とかでしょ?」
「履歴書がないんだよね。問題解くのでいいかい?」
「・・・じゃあこの問題解いてみて。私が目指してる大学の一番難しかった過去問。」
出してきたのは英語の問題
「・・・」
「これわからないと任せられないなぁ~。」
「アとオだね。」
「・・・答え覚えてるでしょ。」
「じゃあこれは?」
「イ・・あ、・・オだね。」
「(一瞬間違えればだましやすいと思ってるのかほんとに実力なのかわからない・・。でも今の問題の解説見るとイと間違いやすいみたい・・・解いてないとすると解説まで覚えてるかもしれないってことになる・・。となるとやっぱり実力?)」
「別の学校の問題出す。」
手前にレールの棚がついた本棚の奥の棚から引っ張り出してきた。
「これは?」
今度は古典の問題
「ア・・だね。」
面白そうに答えながら留美の顔を見る厳帥
「え・・・冗談でしょ?」
「・・・私の代わりに受けて?」w
冗談交じりの認めた言葉に厳帥は初めて笑みをみせた。
「ふふ。まぁ頼りたい時があったらいつでも。」
「じゃあ帰ったらね。」
「生徒としてではないが私も学校に行く許可は得ている。用があるときすぐ行けるように図書室で本でも読んでいるよ。」
「ふぅん・・・・。じゃあ教室でお弁当一緒に食べようよ。勉強もしたいし。」
「わかったよ。」
階堂女子高校―大手進学校の一つだが、その実態は進学校というより御令嬢学校に近い。勉学については、優秀な家柄の元で育った生徒が大半を占めるため、一般的な進学校のように暇さえあれば勉強というような傾向はない。一方生活面では家柄などの原因により癖のある生徒が多い。
使用人の葛西が運転する車の中
「今日は放課後残られるのですか?」
「今日は麗奈ちゃんと用事あるから迎えは19:00くらいかな。いつもありがと。」
「わかりました。予定が変われば連絡いただけると嬉しいです。」
「わかった。」
ぼんやりと外を眺める留美はパタパタという音が気になり、横の厳帥を見るとパソコンを使っていた。
「何してるの?」
「仕事、かな。」
留美が画面をのぞき込む。画面は真っ白だった。
「何も映ってないよ?」
「許可した人しか見れないからね。」
留美は厳帥をただの指導員とは思っていない。光洋は昔から仕事ばかりであまりかまってもらえていなかった。誕生日などのお祝いは大きなものであってもいつも品だけのものだった。ところが、今回の厳帥は光洋自身が留美のために指名して雇った人物だという。明らかに怪しいことを兄の明人だけでなく留美も感づいていた。
「・・そういえばLINE交換してないじゃん。」
「今したぞ。」
「え?」
スマホを見ると追加された通知が来ていた。
トークで「どうやったの?」と送ると「マジック」と送ってきた。
厳帥の面白い返事に笑ってしまう。
「なにそれ。」w
疑念は消えないものの、優しいゆえにこれから仲良くしていきたいなと思いながら、車内を吹き抜ける風とともに心地よさを感じた留美であった。
校門につく。
「葛西くん。」
「はい。」
「そうだね・・・17:30ぐらいにここに迎えに来てくれ。」
「わかりました。」
「一緒に帰らないの?」
「今日は用事があってね。明日は一緒に帰ろう。」
「うん。」
4限の授業が終わった留美たちはお弁当を食べる準備をしていた。
「はぁ~疲れたぁ~。英語の授業疲れるよねぇ~。」
麗奈が疲労をうったえる。
「ほんとそれ。ただの英会話でいいじゃん。なんであんな短時間で長文和訳させられなくちゃいけないの?」
穂香が愚痴を言う。
「私は簡単だったけど?」w
留美が自信気に言う。
「優等生だなぁ~留美は~・・。」
「私も指導員雇おうかなぁ・・。」
「そういえば葛西さんだっけ?勉強教えてもらってるんでしょ?」
「あ~もう別の人になっちゃったんだよね。」
「どんな感じ~?」
「今多分図書室にいるよ?」
「まじ?今呼べる?」
「うん。」
数分後
「あ、来た。」
「えぇ~見た目やばいけどなんか・・かわいいね~。よしよし~。」
撫でられた厳帥が微妙な顔をする。
すんなり受け入れている麗奈に驚いた留美だが「まぁ麗奈は色物を好む傾向あるからなぁ・・」と考えた。
「留美のところもこんなかんじの指導員なんだ・・。」
「え?さっき雇おうかなぁって言ってなかった?」
「いや、私の弟が指導員雇ってて・・こんな感じの人なんだよね・・・。親も公認だし弟が結構慕ってるから私はいいんだけどさ。」
「その指導員の名前はなんていうのかな?」
「え、たしか嗣船だったかな。」
「知り合い?」
「あぁ。」
「よしよ~しよしよ~し。」
「いいかげんやめてほしいんだが・・・君物好き過ぎないか?」
「へへ~。」
「ていうか男なの?女なの?」
「女だね。」
「女なの?」
「ちょっとっ!私の時答えてくれなかったのに!」
「おもしろ~~www」
「癖者感すごいね・・。w」
「わたしの知り合いの中ではまともな方だよ。」
午後の授業も終えた留美たちは放課後ファミレスに寄って勉強会(女子会)をして帰ろうという話をしていた。
「あ、そういえば厳帥さんって来るの?」
「あ・・いや来ないって。ほかに用事があるみたい。」
「ほかの子教えてるのかな?」
「う~ん違うと思う。そもそも教員なのか怪しい感じなんだよね実は・・。」
「なにそれおもしろそ~。」
「お父さんが雇ったみたいっていうのもあるし・・・教えるの私が初めてみたいなんだよね・・・。」
「確かにそれは怪しいね・・。」
「留美パパ堅物だからね~。訳アリのにおいがプンプンするぜ~。」
一方別れた厳帥はある場所に向かった。
「久しぶり、厳帥。」
女性のあいさつに黙って相席する厳帥。
「変装上手なのね。黒髪で新鮮。」
黒髪ロングの厳帥
「・・・一応言っておくと、光洋は君の動向について、邪魔しないのであれば特に言及しないようだぞ。」
「だと思った。結局私のことは見てないのよ。留美さえよければ。」
「確認するが、これの意図はなんなのかね?」
「未練を絶ちに来た。もう何も浮かばなくて。」
その女性がドリンクバーのカプチーノを飲む。
厳帥がため息をつき
「妹と話もせず眺めるだけで未練を絶てるのかい?」
妹とは留美のことを指す。この女性は留美の姉で、名を叶(かなえ)という。
叶は数年ぶりに留美の様子を確認するために来ていた。
飲んだカップをテーブルに置き、スプーンでかき混ぜる。いい香りが漂う。
叶は目を細めてカップを見つめる。
「・・・妹と話したら、それこそ未練になっちゃう。未練をできるだけ小さくしたいのよ。話すのが怖いという気持ちの正当化かもしれないけど。」
「話せなくてもせめて見ることだけは・・と君が思うように、彼女も君に会って話したいと思うがね。」
「わかってるわよ・・・。怖いだけだって。だからあなたを呼んだの。」
しばしの沈黙の後
「この件知ってるのは父と彼とあなたを除いたら私だけ?」
「今はね。」
店のドアのベルが鳴る。女子たちの会話が聞こえてくる。
「あの中の誰だかわかるかね。」
「わかるわよ・・。ほんとそっくり。」
厳帥との沈黙の中サングラス越しに留美を見る叶。
「元気ね・・・。信じられない・・。」
無言の厳帥
「生かしてあげる術はないのかしら・・・。」
「君以上に光洋はそう思っているだろうね。」
「あなたにはできないの?」
「・・・・。」
厳帥は口元に手を添えて目を細める。話すかどうかにはそれなりの判断がいるようだ。
「明日の夜なら空いてるから私の家来て。」
厳帥は気まずそうに視線をそらす。
厳帥と叶との関係は数年前からのものである。
叶は光洋とあまりいい関係を築けておらず、別居をしていた。叶が光洋の仕事を継がない意志が理由だった。別居をし始めたのは留美が小学生の頃である。今は俳優の仕事をして生活している。
ある日、光洋の妻である蓮花が原因不明の病で急死する。それから留美が同じような症状で倒れて入院する。光洋はその病を遺伝性があると悟った。だがその後症状が出なかったため退院する。安心した光洋だったが・・・
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