いつの時代にも、フランケンシュタインとマチルダは居る

 今、落ち着いた私達は、部屋で小説など読んでいる。あるいは読んでいるりをしている。床で抱き締め合った私達の体と心は、早くベッドに行きたいと要求してきていて、ちょっと火照ほてりをます必要があった。せっかくの、秋の夜長よながなのだ。少しはムードを大切にするべきだろう。あんまりワイルドすぎる展開はこのましくないと思う。


今更いまさらだけど、二百年以上前に『フランケンシュタイン』を書いた、メアリー・シェリーって凄いわよね……それも二十才の時だし」


 そう言いながら、恋人ちゃんが読んでいるのは『フランケンシュタイン』の文庫本だ。彼女の部屋の本棚から取られた物で、私も本棚から、同じくメアリー・シェリーが書いた『マチルダ』を手に取って読んでいる。こちらはハードカバーで、表紙に綺麗な女性のイラストがあって、これがヒロインのマチルダなのだろうか。


「でも、苦労が多かった作家さんみたいよね。昔の女流作家は皆、そうだったかもだけど。『マチルダ』は『フランケンシュタイン』出版の翌年に書かれたけど、父親の反対で生前は出版できなかったし」


『マチルダ』に付いてネットで調べると、「父と娘の近親相姦を描いた小説」というような記事が出てくる。と言うか、ハードカバーのおびにも、そう書かれている。しかし読めば分かるのだが、実際に書かれているのは、あくまでも精神的プラトニックな感情に付いてなのだ。


「『マチルダ』は話の展開も、メアリーの父親から嫌われたのよ。ヒロインに恋愛感情を持った父親が、自殺しちゃうんだもの。それでヒロインも精神的にむでしょう。もし生前に『マチルダ』を出版したとしても、世間から受け入れられたかは分からないわ」


 恋人ちゃんは『フランケンシュタイン』を高く評価していて、『マチルダ』に付いては、そうでも無いようだ。でも私は、もちろん『フランケンシュタイン』も評価するけれど、むしろ作品としては『マチルダ』の方が好きだった。明るい話では無いけれど、それを言ったら『フランケンシュタイン』だって暗い話なのだし。


「『フランケンシュタイン』も『マチルダ』もさ。書かれているテーマは、似ていると私は思うわ。どちらも、健全な愛を親から与えられなかった子供の話よ。フランケンシュタイン博士から生み出された人造人間も、マチルダも、愛をられなくて孤独な最期を迎える。そういう話でしょ?」


 メアリー・シェリーも、継母ままははと不仲な少女時代を過ごしたそうだ。愛を与えられない子供が健全に育つ事は難しいのだろう。肥料を与えられない野菜がほそるように。ふと私は、ハロウィンに付き物であるジャック・オー・ランタンのカボチャを思い浮かべた。あれだけ大きいカボチャは、さぞ大きな愛を与えられて育ったのだろうと思う。


「世間的にはフランケンシュタインが怪物の名前として知られてるから、それで通すけど。きっと街はハロウィンで、フランケンシュタインのコスプレも出てくるんでしょうね。人造人間も、お菓子はしいのかしら」


 そんな事を恋人ちゃんが言って、そう言えばハロウィンって、そういう行事ぎょうじだったなぁと私は思い出した。日本に居ると、どうしてもハロウィンがコスプレ行事ぎょうじのイメージになってしまう。ちなみに室内に居る今の私達も、実は魔女のケープ姿に着替えているのだった。


「あれも不思議よね。お菓子をあげれば、おけは大人おとなしく帰っていくんだから。ハロウィンのお化けも、可哀想かわいそうな子供達なのかも」


 愛を与えられない人間は皆、可哀想な子供のようなものなのではないか。世間せけんから爪弾つまはじきされるマイノリティーは、まるで彷徨さまよい続けるジャック・オー・ランタンだ。同性カップルである私達は、せめてたがいに愛し合う事で暗い道をもあゆんで行きたい。時にジャック・オー・ランタンが暗闇を照らして、旅人をまよわせず道案内をするように。


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