第64話 大和の危機
「左舷より敵突撃艦2隻、突入してきます!」
緊急を示す肉声による報告。
それが大和艦橋内に響き渡った。
これまで狙われていなかった大和が、ついに敵の目標になった。
さしもの連合艦隊司令部にも緊張が走る。
「艦長、アレを使え」
「はっ!」
そのような異常事態というのに。
山本五十六は落ち着いた声で命令を下す。
命じられた大和艦長も、当然といった顔で返答している。
『左舷。転1式速射砲、撃てッ!』
艦長の選択念話命令が下された途端。
――ズドドドドッ!
大和の左舷にある『転1式40口径一二・七センチ連装速射砲』が猛然と火を吹いた。
転1式40口径一二・七センチ連装速射砲。
それは40口径一二・七センチ連装高角砲を魔改造した、対水上/対地専用砲だ。
頭に『転1式』とついているのは、『時空転移後の1年度に制式採用した』という意味である。
もともと6基あった一二・七センチ連装高角砲(対空砲)を、上空ではなく水平に射撃できるように改造したもので、片舷2基(両舷4基)設置されている。
たんに射角を変えただけでなく、魔法付与で射撃速度が速射砲並みになり、同じく木造および海棲魔獣専用に調整した爆裂榴弾にも、爆発力増大の処理が施されている。
残念だが、この砲が今回の作戦に間に合ったのは大和のみだ。
他の艦の高角砲は以前と同じまま……。
リーンネリア世界では、対空砲の需要は限られている。
むろん魔竜撃退は最優先事項だが、三島の担当している魔導砲が実戦配備のメドがたったため、ようやく大和から高角砲の魔改造が始まったのだ。
――ドガッ!
「ぎゅーうぅいぃーー!!」
命中炸裂音とは別に、生き物の悲鳴が聞こえる。
大和に向かってきていたグロバス級突撃艦2隻のうちの1隻。
その艦首にいる海棲魔獣グロバスに速射砲の砲弾が命中したのだ。
命中したのは、敵艦の左舷側にいる1匹のグロバス。
衝角を吹き飛ばされ、さらには頭部にめり込んだ榴弾によって頭全体が爆散している。
推進力を兼ねている魔獣の片方が瞬殺されたため、突撃艦は急激に右側へ進路を変えていく。
生きているほうの魔獣が懸命に進路を戻そうとしている。
だが、突入速度での片舷推力消失は、強大な抵抗を生む。
さしもの魔獣も、猛烈な右舷へ曲がろうとする力には抗えないようだ。
もう片方の突撃艦は、艦首部分に砲弾が命中。
砲弾が艦内に侵入し、内部で爆裂した。
突撃艦の外側には鋼鉄板が張られている。
しかし内部は純然たる木造船。
爆発威力を増大させた砲弾により、内部からの爆発で文字通り轟沈した。
皮肉なのは、艦本体が爆散した結果。
海棲魔獣は固定具を破壊された結果、完全に自由になった。
調教士も吹き飛んだせいで、勝手気ままに泳ぎ去って行く。
「右舷中央、カジキに似た巨大魚類が接近中!」
三島たちの奮戦により、遊撃特攻群のカジート攻撃は、大和も知るところとなった。
時空転移以前は交戦中の情報伝達が混乱しまくって、まともな状況判断はできなかった。
だが、今はできる。
すべては『選択念話通信』を実用化できた結果だ。
これは個人同士から艦隊同士の念話連絡まで、レベルさえ上がれば、自由自在に選択して意志の伝達が可能になる。
そのため三島が対処した撃退方法も、ほぼ瞬時にして全艦が知るところとなったのである。
「宇垣。三島の真似をするぞ。用意は出来ているな?」
山本長官、トンでもないことを言いだした。
たかが中尉の発案を、遥か上位にある司令長官が真似をする。
本来なら司令部の威厳が損なわれると、参謀部が目くじらたてて反対する場面だ。
それなのに……。
「接舷戦闘要員に迫撃砲を持たせて、両舷に配置してあります。いつでも撃てます」
打てば響くように、宇垣参謀長が返答する。
参謀長までやる気満々である。
「では撃て!」
本来は艦長が命じなければならない、大和への攻撃命令。
だが『最大級の緊急事態』ということで、長官が命令を下す。
それを宇垣が念話で、右舷にいる接舷戦闘隊に命令を伝える。
ものの1分もたたずに。
右舷前方50メートル付近に、迫撃砲弾の爆発による水柱が列をなした。
『艦長に緊急! こちら右舷接舷戦闘隊長。五匹ほどの巨大魚類を撃ち漏らしました。巨大魚類は右舷バルジに衝突し、現在も突き刺さったまま舷側にぶら下がっています。まだ生きていますが……どうしますか?』
念話は艦長宛だったが、艦橋にいる全員に届いた。
どうやら慌てすぎて、相手の特定に失敗したらしい。
「ただちに銃撃で殲滅せよ。できれば魚体を切断して水中抵抗を無くせ」
たかが10メートル程度のカジート5匹が命中したくらいでは、大和はびくともしない。
バルジに穴が開いたものの、もともと水密区画になっているため、ほとんどダメージはない。
それでも魚体がぶら下がったままでは、若干の推進抵抗になる。
それを嫌った艦長が、無慈悲な『削り落とし』命令を出したのである。
「魚類のほうは、戦艦だと無視しても良さそうだな。となれば用心すべきは海棲魔獣のみだ。すでに被害を受けた戦艦は補修するしかないが、まだ健全な艦は、機関砲や機銃で対処するしかないが……ともかく、やれる方法で撃退して欲しい」
すでに全艦が念話で撃退方法を知っている。
ただし高角砲を魔改造した砲は大和にしか存在しない。
となると他の戦艦が魔獣を撃退するには、両舷にある機関砲や機銃を使わねばならない。
そのため山本は、通常の会話で宇垣に告げたのだ。
実のところ、遊撃特攻群のカジート攻撃は、連合艦隊にとって最大の弱点に成りかねなかった。
海棲魔獣ではなく、カジートが最大の懸念……。
なぜなら、海中を驀進するカジートを防ぐ方法は、爆雷攻撃と甲板からの射撃のみに限られていたからだ。
魔獣は居場所が敵艦の艦首と判っているため、事前に狙いをつけての砲撃や銃撃でも対処できる。
だがカジート相手で特に問題になるのは、主砲や速射砲が使えないことなのだ。
突入してくるカジートの速度は、高速魚雷に匹敵する。
悠長に大口径砲で狙いを付けて射っても当たるわけがない。
となれば役に立ちそうなのは迫撃砲と機関砲、大口径機銃くらい……。
しかし夜戦における水中突進物は、発見が極めて困難。
魚雷は雷跡で辛うじて判断できるが、純然たる魚のカジートは航跡を残さない。
となると探照灯で海面を照らし、一瞬だけ見えるカジート本体を見つけて射撃するしかない。
つまり、極めて発見率が低く、狙って射つのも瞬間的なものとなるわけだ。
これで命中させられたら、ほとんど奇跡に近い。
それを三島は、特殊スキルで可能にしたのだ。
どれだけ艦隊司令部が感謝しているか判るというものだった。
ただし……。
大和で対応した接舷戦闘隊は、右舷だけで100名を越える。
なのに5匹も取りこぼしたのは、三島のような特殊スキルの持主がいないためだ。
戦闘隊員の中には『砲弾誘導』スキルを持つ者もいたが、それは単独誘導のみのため、その者が目視した迫撃砲弾のみが命中した。
それだけ夜間の水中を泳ぐ魚類に、命中もしくは至近爆発させるのは至難の技なのだ。
こう説明すれば、三島のスキルがどれだけ物凄いものかわかるだろう。
これに比べれば、レーダーや目視で突入を確認できる突撃艦(海棲魔獣)は、そのぶん攻撃しやすい標的と言える。
さすがに戦艦主砲は近過ぎて使えない。
だからこそ小口径砲をもつ駆逐艦などは、必死になって迎撃している。
それこそ機関砲や機銃は、絶え間なく猛烈な弾幕を張っている。
まさに双方とも、死中に活を求めるような戦いだった。
そんな死闘が続いている最中……。
唐突に大和艦橋に悲鳴のような報告が上がった。
「ぜ、前方、至近200……敵大型突撃艦!!」
艦橋内から前方の監視をしていた担当兵が。
双眼鏡を投げ捨てるようにしながら叫んでいた。
「むう!?」
急いで艦橋前方を見た山本。
だが、まだ探照灯が間に合っていないらしく、敵艦の姿を目視することはできない。
「回避不能! 全員、衝撃に備えよ!!」
敵まで200メートルと聞いた大和艦長。
これから回頭命令を出しても間にあわないと悟ったらしい。
そこで衝突覚悟の命令を下した。
「長官、ここに」
宇垣が山本に対し、近くにあった羅針儀を指し示す。
どうやら、ここに掴まるよう促しているらしい。
山本は素直に従った。
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