第2部 第52話 世界は変貌し続ける。

※ここから、いよいよ第2部『反撃編』に入ります。とはいっても作品的には連続しているので、このまま第51話としました。


【新暦2446年5月1日】※現地時間



 おおよそ3ヵ月後……。

 南エレノア海に、早くも初夏の兆しが見えてきた。


 僕こと三島友輝はいま、久しぶりに連合艦隊総旗艦『大和』に乗っている。


 グンタ国から戻ったのは2月12日。


 新たにグンタ国で建艦された『グレタ型フリゲート』と『ドード型コルベット』各一隻。


 そして艦載型装備の『30センチ20口径単装魔導砲』、『10センチ30口径単装魔導砲』、『魔法連動式対魔獣轟雷砲』を手土産に堂々の凱旋だった。


 なんとグンタ国が新設した『造船工房集団』は、本当に2週間で、750トンのフリゲートと480トンのコルベットを、在来工法だけで建造してしまったのだ。


 2隻の建造に従事した工房は126箇所、親方も同数の126名。

 そして参加した工房員は1586名。


 この人数は、『とりあえず作ってみた』に従事した数。

 なので計画完了時の『造船工房集団』は、総数だとになるらしい。


 グンタ国の人口は、公称で600万人くらい。

 なのに他の工房の生産には支障は出ないっていうんだから、ほんま凄いネー。


 工房魔法を使ってるとはいえ、ほとんど手作業で近代的な鋼鉄船を完成させちゃうんだから、恐るべしはグンタ国の工房魂だ。


 造船工房がやりまくった結果、『兵装工房局』のほうも負けてはならんと、艦載型の兵器3種類を完成させただけでなく、すでに量産を開始している。


 ちなみにグンタ国には『試作』という概念はない。


 なんでもかんでも、最初から量産大前提で作りはじめる。

 途中で失敗したり重大な欠陥が露呈しても、その場で総力を結集し、改良して量産できる状態に持っていってしまう。


 そうでなければ、たった2週間で、オリジナルの魔導砲と特殊雷撃砲を作れるわけがない。


 これは艦船にも言えることだ。


 完成した2隻は、さすがに動力まではコピーできなかったらしい。

 なにせ連合艦隊の缶室と蒸気タービンをコピーするためには、まず特殊合金を製造しなきゃならんから。


 それでも作ろうとはしたらしい。

 でも3日頑張ってもできなかったらしく、そしたら素知らぬ顔で、機関車に使用している蒸気式ピストンエンジンを乗せてきた。


 この方式なら、従来技術を拡大設計するだけで艦船用に使用できる。

 事実、グンタ国の沿岸警備を行なっている鉄張り木造警備艦(120トン)には、すでに蒸気ピストンエンジンが使われている。


 この技術が魔王国の侵攻以前に、リーン諸島へ伝わっていれば……。

 もう少し、まともに対抗できたはずだけど。


 当時は互いに毛嫌いしてた仲だったから。

 国交すら結ばないまま戦争に突入しちゃったんだって。


 結果……。

 リーン側は連合艦隊が来るまで、旧態依然の木造帆船式軍艦しか持っていなかった。


 なので連合艦隊も、こりゃいかんと、ルード島の造船設備を突貫で整備した。

 そして『魔導複写大隊』を編成して、コピー可能な艦を片っぱしからコピーした。


 当初は魔導複写隊のレベルが低かったため、戦時急造小型甲種輸送艦の艦体を流用した、『甲種迫撃砲艦』(625トン)からコピーしはじめた。


 まずは隊員のレベリングを急いだのだ。


 現在では鍛練の甲斐あって、駆逐艦秋月改型を魔改造したエレノア型飛竜母艦(2752トン)とアスラル型軽巡(2885トン)程度までなら、コピーおよび魔改造が可能になっている。


「それで三島。その魔導砲と特殊雷撃砲というやつは、簡単に言うとどんな兵器なのだ?」


 大和の艦橋に上がった途端。

 山本五十六司令長官に捕まった。


 大和はいま、作戦行動中だ。


 グンタ国から戻った途端に『出撃だ』って言われて。

 僕の指揮下にある三島総務隊4名と軍属1名(ミーシャ)ともども、無理矢理に大和へ召集されてしまった。


 これは工藤辰巳先輩(大尉に昇進)も同じで、工藤特務中隊の第1支援小隊/第1隠密小隊/第1護衛小隊、総数34名と軍属1名(セリナさん)も乗艦している。


「えーと。詳しいことは、グンタ国から連れてきたギルド学府院の技術教導員に聞いてください。で……簡単に言えば、魔導砲というのは、火・土・氷・重力・空間のいずれかの魔法を付与した魔法弾を発射するための専用砲です。

 連合艦隊の既存砲みたいに装薬で砲弾を発射する方式ではなく、最初から補助魔法を使って射出・加速するタイプですので、対水上用砲/対空用砲のいずれも極端に口径が短くなっています。

 例を上げますと、グンタ国で新造されたグレタ型フリゲートに3門搭載されている30センチ単装魔導砲は、最大射程6000メートルを確保しているそうです。

 砲弾に付与する起爆魔法によって、砲弾内に充填した黒色火薬と魔石粉末が起爆します。これにより、黒色火薬の約10倍の破壊力を発揮します。

 魔法を付与するために中級魔法兵1名と初級4名が必要になりますが、この30センチ魔砲弾の威力は、おおよそ既存の35センチ戦艦主砲弾に匹敵するそうです」


「それは凄い! ただ、射程がなあ……」


 たかだか750トンのフリゲートの主砲が、35センチ戦艦主砲弾に匹敵する。

 これが本当なら画期的なことだ。


 でも、射程がたった六キロでは、近代海戦には使えない。

 ちなみに金剛型戦艦の主砲は35・6センチ四五口径だが、射程は最大で35キロもある。


 でも……。

 この世界の海戦や対地攻撃支援になら、充分すぎるほど使える!


「……では次の『特殊雷撃砲』について説明します。正式名称は『魔法連動式対魔獣轟雷砲』と言います。これは砲と名づけられていますが、実際には海中電撃装置……連合艦隊の装備でいえば、近接型爆雷に似た装備といえます。

 両舷/艦首/艦尾に海面接触端末が設置されていて、上部甲板にある轟雷砲操作所にいる雷撃魔導兵5名が発する雷撃魔法を、轟雷砲の雷撃増幅装置で威力を増大させて使用します。

 より大きな威力を必要とする場合は、艦の発電機から蓄電池へ充電した電力を、併用で導入できます」


「ふむ。轟雷砲のほうは、あの突撃魔獣艦に使えそうだな。体当たりでラム戦を仕掛けてくる艦だけに、接近されると対処に苦労する。大和でさえ痛手を食らったのだから、これはまさしく朗報というべきだろう」


 新装備の評価は、けっこう高い。

 やっぱ大和が被害を受けたの、長官も気にしてたのね。


「轟雷砲は既存技術のみで製造されていますので、連合艦隊の大型艦用の砲もすでに製造中です。さすがに今回の出撃には間に合いませんでしたが、近い将来、大和や他の戦艦用の轟雷砲も、


「もう生産中なのか!? まったく、いままでグンタ国を頼らなかったことが悔やまれるな。まあ、最悪の仲だったハイエルフの巫女集団を説得しなければ、そもそもグンタ国との同盟も実現しなかったのだから、これはいまさら嘆いてもしかたがないか」


 現状、魔導砲と轟雷砲を有する艦は、今回初参加となる2隻のみ。

 いずれも連合艦隊ではなく、新設されたリーン艦隊の所属だ。


 しかし……。


 いまの山本長官の反応を見る限り、リーン艦隊から出向という理由をつけて、連合艦隊主隊の護衛に回されそうな感じがする。


 ちなみにリーン艦隊とは、人族連合海軍の主力艦隊として整備中のものだ。


 いまのところ、軽巡『アスラル』を旗艦として、飛竜母艦『エレノア』/『イーグル/ファルコン』、フリゲート『グレタ01』、コルベット『ドート01』、飛竜艇3隻、3隻、松改型駆逐艦3隻、シムシュ改型護衛駆逐艦3隻で構成されている。


 そして今回の出撃にともない、リーン艦隊も一緒に出撃している。


 だからといって、合同作戦を実施する相手の艦隊にいる虎の子艦二隻を、護衛のため出せと言うのは、いくら同盟関係にあるとはいえ、かなり傲慢な態度と言える。


 まあ、それもこれも……。

 それだけ連合艦隊が苦しめられたっていう証拠だけどね。


 僕と長官が長話してたら、さっそく宇垣纏参謀長がやってきた。


「長官。予定ではすでに、クレニア大陸の東方800キロ地点に到達しています。そろそろ作戦予定に基づき、進路を変更する時刻になっていますが……」


 今回の作戦では、クレニア大陸の南半分を占めるローンバルト国の港町『シュレイナ』に、連合艦隊と人族連合軍の陸上部隊を上陸させる予定になっている。


 そもそもの発端が、ワンガルトの首都ラナがあるレン湖の対岸……。

 ローンバルト側の湖岸まで、魔王国陸軍に所属するバイシャールとアイワールの混成隷属部隊が辿りついてしまったことにある。


 魔王国の混成隷属部隊は、レン湖を小舟で渡ると同時に、北岸と南岸を回りこむかたちで首都ラナを包囲するつもりのようだ。


 対する人族連合軍は、北部のグルンベ要塞から南下しつつラナ支援へ動いていたが、最近になってワンガルト中央部から東へ進撃してきた旧ベルガン帝国陸軍部隊の急襲にあい、進撃速度がかなり落ちてきている。


 現在のところ首都ラナは、生き残ったワンガルト国の獣人部隊が必死になって守っている。


 一時は国土のすべてを制圧されたというのに、首都ラナだけは、全戦力を結集して堪え忍んでいたのだ。


 だから連合艦隊がフレメン半島のシャトランを制圧して、反攻の足がかりを決めたのも、早急にローンバルト国部隊を追いだして、首都ラナを解放しなければならなかったからである。


「おお、もうそんな時間か。それでは艦隊総司令部に作戦開始を打電してくれ」


「作戦予定では、無線封止を継続するとありますが……」


 今のところ魔王国側に、連合艦隊の無線通信が傍受されているという情報はない。

 かえって人族連合の、魔法を使った遠距離念話のほうが探知されているらしい。


 しかし油断は禁物と、出撃前の作戦会議では、できるだけレーダーと無線は使用しないで目的地まで移動することが決まっていた。


「うーん、儂としては大丈夫だと思うんだが……仕方がないか」


 今回の連絡は緊急ではないため、山本もしぶしぶ同意する。


 通信が使えない場合は、距離があれば水偵を出して通信筒を落とす方法がある。

 しかし今回の場合、ルード島にある艦隊総司令部への連絡なので、水偵の航続距離外となり、伝達することができない。


 とどのつまり、総司令部への連絡は諦めるしかなかった。


「三島中尉。リーン艦隊のほうの言語による混乱は、許容範囲内になっているか?」


 いきなり宇垣参謀長に質問された。


 リーン艦隊には、人族連合の雑多な人種が乗りこんでいる。

 今回はさらに、グンタ国のドワーフ技術者や教員まで来ているから、どうしても言語の混乱が起きてしまう。


 そのことを宇垣参謀長は気にしているらしい。


 ドキドキしながら答える。


「は、はい! 今回初参加となるのは元アイワール兵が乗る飛竜隊と飛獣隊のみですので、彼らには翻訳リング以外に、連合艦隊から魔導翻訳兵を各艦に派遣してあります。

 彼ら魔導翻訳兵は、自分ほど完璧には翻訳できませんが、それでも翻訳リングの言語辞書が自動登録するあいだくらいなら、充分に意志疎通できる環境を作ってくれるはずです」


 最近、連合艦隊で、僕の完璧翻訳スキルを生かす場面がない。

 だからこれ幸いとアピールしてみた。


して、総務隊という名の護衛分隊もつき従うようになったのだから、そろそろ翻訳以外の任務につかせても良いと思っているのだが……なにか希望はあるか?」


 いや、参謀長殿。

 ついこの前、グンタ国に使節団長として行かせたくせに。


 もう新たな任務を押しつけるつもりですかー?


「いえ、いまは作戦中ですので、新任務は作戦が終了してからでいいです!」


「そうは言うが……貴官はもともと参謀部付き士官として採用されたのだから、連合艦隊参謀部での仕事なら、作戦行動中でも腐るほどあるのだか?」


「それでも、です! いまは分隊とはいえ部下を持つ身。部下をぞろぞろ引き連れて艦内を移動するだけで、皆さんの邪魔になってしまいます。なので今は、これまで通り完全翻訳が必要な場面のみ参加させて頂きます!」


 海戦ならまだしも、今回は上陸作戦を伴ってる。


 上陸作戦中の艦隊は支援行動で手一杯になり、艦隊としては非常に危険な状況になるんだ。


 そんなごちゃごちゃした場面で、戦闘素人の僕の出番なんてない。


「そうか……それは残念だ」


 いきなり長官が口を挟んだ。


「貴官には、新装備の魔導砲の発射を試してもらいたかったのだが……。貴官の固有スキル『』があれば、数少ない魔導砲を有効に使えると思ったのだがな」


「いや……自分の百発百中は、戦艦主砲で試したら通用せず、もっぱら三五ミリ機関砲までとなっています。その後、射撃を行なう場面に遭遇していないので、スキルレベルも上がってませんから、とても30センチも砲径のある魔導砲なんて使えません!」


「貴官のスキルの有効無効は、あくまで既存銃砲に関してだろう? もしかすると仕組みがまるで違う魔導砲なら適用するかもしれんぞ?」


「あうう……」


「三島、つべこべ言わずやってみろ。なんなら参謀長命令を出してもいいぞ?」


 僕が表むき、いまだに参謀部所属なのをいいことに。

 宇垣参謀長、酷い事を言いはじめた。


「……わかりました。了解しましたッ! でもホント、試すだけですからね?」


 そう言って、嘆願する目つきで長官を見る。


「ああ、それで良い。でもって試した結果、スキルが有効と判れば、当面は当該艦に詰めるように。そして大和以下の主力艦を守ってくれ」


 これは命令かしら……。

 聞き直すのが怖くて、黙って肯く僕だった。


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