(6)

「つまり、そのハンカチを僕が持っていれば無実が証明できるってこと?」


「そういうこと。ちなみにあなたは紛失していない?」


 武士沢くんは腕を組んで、難しそうな顔をして唸った。


「捨ててはいないと思うけど、ちょっと探してみないと分からないな。何せ、卒業してからアルバムもハンカチも一度も見ていないから」


「一度も? 懐かしんで見返したりしなかったの?」


「僕は六年の十二月にこの町に引っ越してきたから、特に思い入れがないんだよ。修学旅行も社会科見学も運動会も、合唱コンクールも、どの写真にも僕は写っていないからね」


「イベントの写真はなくても、さすがに何枚かは撮ったでしょう?」


「あるだろうけど、記憶にないな。剣道をしている時間以外は、ほとんど図書室で過ごしていたからね。図書室は休みの日も公開していたから、友達のいなかった僕にはうってつけの逃げ場所だったんだよ」


 せっかくの休みまで図書室を利用するなんて、あたしには考えられないな。ていうかあたし、捜査という名目で容疑者達の地雷踏みまくりじゃない?


「でも、一応探してみるよ。大会も近いから少し時間がかかるかもしれないけど」


「かまわないわ。見つかったら連絡して」


 武士沢くんは頷いた。それにしても、容疑者全員が無罪証明をできないなんて、これでまた事件は振り出しに戻ってしまった。


 まあ、武士沢くんがハンカチを持ってきてくれた時点で、美藤さんが唯一の容疑者になるんだけど、彼女も嘘を言っているように見えなかったし、捜査も難航しちゃったわ。これからどうしよう。


「あのさ。ちょっと気になることがあるんだけど」


「気になること?」


 あたしが今後の捜査について絶望しながら答えると、武士沢くんはしきりに周りを気にしながら声を潜めた。


「これは僕の想像なんだけど、犯人は恋愛成就の儀式をやってたんじゃないかな」


「恋愛成就の儀式? 何それ」


「うん。これは、僕が転校してきた時に知ったことなんだけど――」


 それから武士沢は、その恋愛成就の儀式の詳細について話してくれた。捜査が行き詰って完全にやる気を失っていたあたしは目を見開き、その儀式のことを事細かにメモ帳に書き記した。


「――以上が、儀式の内容だよ。もしも犯人がこの儀式をしていたのだとしたら、事件の見方が変わってくるんじゃないかな」


「確かに……。これは警察も知らない情報だと思うわ。だとしたら確認してみる必要があるわね」


 その時、武道場の表側から武士沢くんを呼ぶ男子生徒の声が聞こえた。その声に反応した彼は急いで戻ろうとする。


「それと……」


「何か言い忘れたことでも?」


 武士沢くんは何かを言うのを迷っていたが、すぐに頭を振って「なんでもない」と言って武道場に戻って行った。全然なんでもなさそうじゃなかったけど、彼は何を言おうとしたんだろう。でも今はとにかく、儀式のことをまとめなくちゃ。

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