(15)
「白狼、帰るよ」
「……zzz」
「ねえ、白狼ってば。起きろ! あたしも眠いんだよ!」
「……ううん。あれっ、もう朝? えっ……極夜?」
「南極じゃねえよ。まだがっつり夜だ」
眠気まなこを擦りながら、白狼はあくびをしていた。
「とにかく、おまえら気を付けて帰れよ」
「はーい。先生おやすみなさーい」
あたしらはようやく解放された。
帰り道、あたしたちはなるべく大きな道を通って帰った。大通りは車の数は激減していたけどゼロじゃないし、街灯の数も多くてなんだかホッとする。
「さっき雑木林で取ったものってなんだったの?」
あたしの家と白狼の家の方向に分岐する交差点に迫った時、白狼が思い出したように言った。あたしはポケットにねじ込んでいたハンカチを取り出し、白狼に渡した。街灯の薄明りの下で、白狼はまじまじとハンカチを見ていた。
「汚いハンカチ一枚。捜査とは関係なさそうね」
「決めつけるのはまだ早いよ。明日今日捜査したことを踏まえて、もう一度考えてみよう」
そしてカバンの中からジップロックを取り出して、ハンカチを丁寧にしまった。そんな物まで持ってきていたのか。用意周到すぎるだろう。
「体調が悪いのに、今日はありがとうね」
「僕は四人の現状が知りたかっただけだから、気にしないで。それにしても、馬場先生がクジラ好きだったなんて初めて知ったよ」
「あんたあの時起きてたの?」
白狼は頷いた。こいつ、狸寝入りしてやがったのか。
「ちなみにマッコウクジラは眠る時、個体によって頭を上に向けるか下に向けるかに別れるんだって」
「博識をひけらかす前に、起きてたんならあたしを援護しなさないよ」
「立って眠る明らかにやばい人間を演じた方が、馬場先生も諦めてくれると思ったんだ。それに、僕の声に反応して本当に眠っている四人を起こすのはかわいそうだったから」
そういえばまだポケットでシャトルが眠ったままだ。あたしはシャトルをそっと起こさないように白狼に返した。
「でも、幽霊かと思っていたのが馬場先生でよかったー」
きっと白狼は、見回りをしている馬場先生の気配を感じ取ったのね。あれから平然と捜査をしていたけれど、内心憑りつかれているんじゃないかって冷や冷やしたんだから。
「うーん」
「まだ何か疑問に思うことでもあるの?」
白狼はわずかに首を傾げながら何か考えていたが、やがて眠気が限界にきたのか考えるのをやめて、一人で納得するように頷いた。
「明日も学校だからもう帰りましょう」
「そうだね。恋虎さん。また明日。おやすみ」
「白狼も気をつけてね。おやすみ」
あたしはそうして、一日目の捜査を終えた。空を見ると、いつの間にか切れ切れに浮かんでいた雲が全部流されて、世界を照らすために自家発電しているような半月が空にぽっかり浮かんでいた。
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