第2話 四神降臨!! (1)
どうしてこうなった。こんなはずじゃなかったのに……。
「おい恋虎。そこの解答逆だぞ。鉄鋼業がピッツバーグで、自動車工業がデトロイトだろ。取れる問題で凡ミスしてんじゃねえよタコ」
「ああっ?」
テスト中、あたしは小声で目の前であたしを罵倒する樹脂製のトナカイをにらみつけた。
「おやおや。恋虎嬢とタゴサク殿が何やらもめておりますぞ」
「恋虎は短気だからねー。カマシオとゴンベエも気をつけた方がいいよー」
「……」
斜め前の白狼の机からも、あたしを馬鹿にするような会話が聞こえる。あたしは握っている鉛筆をぶち折らないように怒りを飲み込んだ。
「恋虎、朝から顔色悪いよね。腐った豚肉でも食べたのかなー?」
「確かに血色が悪いでござるなぁ。どぶ川の蛙でも煮て食したんでしょうか」
「……」
あいつら。言いたいこと言いやがって。確かにあたしは今朝から体調が悪い。それは昨日の晩に見た夢のせいだ。思い出しただけでも吐き気がしてくる。
「それにしても、皆の者必死に写経をしておりますな」
「写経じゃないよ。これはテストっていうの。人間の能力を図る上で大事なイベントなんだよー」
「左様でござるか。某はこんな紙切れ一つで何が図れるのか理解に苦しみまする。のう、ゴンベエ殿」
「……」
「いやはや、ゴンベエ殿は本当にしゃべりませんなぁ」
「おしゃべりよりいいよー。白狼やゴンベエみたいに寡黙な方がクールで魅力があると私は思うよ。恋虎にも二人の爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよねー」
「はっはっは。確かに某も、口の悪い御前は苦手でござる」
「さっきからうっせえんだよ! 猫と魚ぁっ!」
ついに我慢できなくなったあたしは、小テスト中にも関わらず大声を張り上げた。教室内のほとんどの人間が驚愕した表情であたしを見ている。またやってしまった。
「小宮、寝るなら静かに寝ろ。次寝言を言ったら退席させるからな」
「すみません……」
クラスメイトに笑われながらあたしは先生に謝罪した。恥ずかしさで顔が燃えるように熱い。
「うるさいのは恋虎の方だぞ。あと二問、さっさと解け濡れティッシュ」
「誰が濡れティッシュだ。斬新な文句のチョイスしてんじゃねえよ鹿野郎」
声帯を震わせないように、あたしは口の悪いトナカイに注意した。
そのままぎろりと白狼の席をにらむと、猫と魚と鳥があたしの方を見ていた。猫と魚は取り乱したあたしをあざけるように笑っており、鳥は巨大な嘴をこちらに向けたまま微動だにしない。
――白狼ぉぉぉ。
殺意に満ちたあたしの強烈な視線に気づいたのか、白狼の肩が震えた。
「白狼。このテストが終わったら早く帰ったほうがよさそうだよー。恋虎が何か怒ってる」
「思春期はホルモンがアンバランスになりますから、そりゃあ怒りっぽくもなりますわなぁ」
「今の時代、女の子にそんなこと言ったらセクハラで訴えられるかもよー」
「おやおや。これまた失敬。では某、腹を切って償い、刺身を恋虎嬢に進呈しよう。もっとも、恋虎嬢が刺身の食品サンプルが食べられればの話ですが」
「……」
あの三匹、マジで許さない。白狼のやつ、後で覚えておけ!
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