(5)

「まとめると、友達がほしいという欲望と、長年読んできたオカルティな知識が融合して、超常的な力が宿ったってところね」


「理解が早くて何よりだよ」


 説明が終わったところで、シャトルが起きた。きょろきょろと周りを見て、まだこんなところにいるのかと言いたげな不満そうな顔をしている。


「白狼。早くうちに帰ろうよ。おなかすいたよ」


「そうだね」


 一人と一匹(?)は、早々に話を切り上げ帰り支度をしている。今この猫、おなかすいたって言わなかったか。


「相談なんだけど」


 帰ろうとする白狼をあたしは引き留めた。


「何?」


「その子……シャトルがほしい」


「はぁっ!?」


 びっくりしたのは、シャトルだった。白狼は相変わらずの無表情で私のことを見ている。感情が全く読めない。


「あんただけずるいよ。あたしだって、そういう可愛いの好きなんだから」


「そりゃあ、私は恋虎よりかは可愛くて聡明で眉目秀麗だけどさー」


「あんたはちょっと黙ってなさい」


 シャトルを一括した後、あたしは再び交渉に入る。シャトルのことを見てから、この不思議な現象に興味を持っている自分がいる。


 この子がどうやって食事をするのか。本来の猫のように家の中を走り回ったり爪を研いだりするのか。ぬいぐるみや人形がしゃべって動くなんて、女子なら一度は強く願ったことがあるはずだ。


 あたしだって例外じゃない。おちゃらけている風に見えても、中身は純度100%の乙女なんだから。


「悪いけど、それはできないよ」


 白狼が答えた。その白狼の手のひらの上で、シャトルが鼻先を彼に向ける。


「さっきも言ったけど、僕には友達がいない。だから友達を作ったんだ。そんな僕から君は、唯一の友達を奪うっていうの?」


「また作ればいいじゃない。あんたにはそれができるんでしょう」


 すると白狼の目つきがわずかに細められた。


「生きとし生けるもの、命はいつだって唯一無二だよ。同じ命は絶対に存在しないし生まれない。家族や友達が死んでしまった時に人が悲しむのは、そんな命の尊さを本能的に理解しているからだ。工場で大量生産できる製品と一緒にしないでくれ。シャトルは僕にとって、オンリーワンの友達なんだ」


 ぐうの音もでない反論だ。確かにどんな命でも、唯一無二で変えは存在しない。冷静に考えてみると、あたしだって自分の家族や友達を誰かに「よこせ!」なんて言われたら全力で反対する。


私にはまだ、シャトルを命ある一個体の生き物だという認識がなかった。そんな自分の浅はかさに気づき、私は泣きそうになった。


「……うう。ごめんなさい。あたし、白狼にもシャトルにもひどいこと言ったよね……」


「ちょっと、恋虎?」


 あたしはその場で泣いてしまった。感情的になったあたしを、シャトルが心配している。


「大丈夫? もしかして便秘?」


 前言撤回。このくそ猫。あたしがこんなに感極まっているのに、そんな笑えないジョークを。便秘なのはあってるけど。


 一通り涙を出し終えると、あたしは目元をごしごし拭った。その間白狼は、蝉の孵化の瞬間でも観察するようにじっと私のことを見ているだけだった。


「ハンカチくらいわたしなさいよ」


「衛生上よくないから貸さないよ。君が病気にでもなったら困るから」


「新手のツンデレか!」


 ずずっと鼻水を吸って、あたしは泣き腫らした目でシャトルを見た。うう。こんな毒舌どら猫でも、やっぱりほしい。でも、白狼から大切な存在を奪うなんて考えられないしなぁ。


「わかった。シャトルはあきらめる。じゃあ、あたしにも友達を作ってよ」


「君に?」


 白狼が面倒くさそうに言った。


「いいねそれ。私も仲間がほしかったからちょうどいいよー」


 珍しくシャトルがあたしの意見に賛成してくれた。唯一の友達に背中を押された白狼は、明らかに困っている。


「ね? お願い! あたしたち、友達じゃない!?」


「僕と君が、友達?」


 白狼は皿に均等に置いたはずの冷凍から揚げが一個だけ冷たいのは何故なのか? と言わんばかりの疑問そうな顔をしていた。


「僕と君が、友達?」


「なんで繰り返すのよ」


「だって、理解できないから」


 本当に白狼は理解できていないようだった。こんな簡単なこと、理解できていないことの方が理解できない。

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