(3)
「恋ちゃーん、帰りにタピオカ飲んでかなーい?」
放課後、仲のいいグループの友達三人組に声をかけられた。
「ごめん。今日は用事があって。あと、タピオカはちょっと」
「そういえば、恋虎ってタピオカ飲まないよね」
「ええ。西京焼きだったら付き合うわ」
「恋虎ちゃんのチョイス、おじさんみたーい」
そんな会話をした後、あたしは学校を出た。目的はもちろん、白狼に会うためだ。あたしは約束の安富商店という駄菓子屋に向かって急いだ。
大通りとは打って変わって、照明を一段階落としたようにほの暗い路地に、安富商店はひっそりと佇んでいた。路地全体が住宅の背中を向けられているようで、人通りはない。そんな店のベンチに一人の少年が座っていた。白狼だ。
「ちゃんと約束を守ったのね」
「約束じゃなくて、脅迫に近いけど」
白狼が無表情で答えた。本当に、愛想もくそもない。
「昨日のこと、ちゃんと説明してくれない。あと、あの猫もここに出して」
白狼は面倒くさそうにため息を吐くと、学生カバンの中からシャトルを取り出した。
「なんだよ白狼。眠いよー」
シャトルはクレイアニメのような動きで、青い瞳を前足でこすっている。か、かわいい。いや、そうじゃない。
「あんた、授業中はよくもおちょくってくれたわね」
シャトルは私の声に気づいて、眉根を寄せた。
「君が問題に答えられなかったから助けてあげただけじゃん。受けた恩は石に刻まないとー」
「かけた情けは水に流しなさい」
私とシャトルの言い合いに、白狼は興味がなさそうに明後日の方向を見ていた。なんだかとても眠そうだ。
「あんたからも何か言いなさいよ。飼い主として」
すると白狼はシャトルと私を交互に見て首を傾げた。
「君はこの非科学的な現象にもう順応しているの? ええと、小宮……」
「恋虎よ。それより、非科学的な現象って……」
そこで私は我に返った。そもそも、シャトルというこの猫のフィギュアが私にいちゃもんをつけてきたことは二の次だ。重要なのは、何故このフィギュアが生きていて、人間と同等の知性を持っているのかだろう。
「この猫は、本当に生きているの?」
「見ての通りさ」
白狼と話している時、シャトルが「この猫って言うなー!」と怒っていたが無視した。
「全部説明して。なんでこんな現象が起こっているのか」
「面倒だからいやだと言ったら?」
「言うまで付きまとう。私はしつこいのよ」
「誰かにばらすとかはしないんだね」
「当り前じゃない。この猫……シャトルの声はほかの生徒には聞こえていないんでしょう?」
白狼はうなずいた。授業中の反応から見て、この謎の生命体が生きていることはクラスで白狼と私しか知らないことだ。なのに白狼が持っている猫のフィギュアがしゃべったなどと吹聴したら、私の方が変人扱いだ。それに私は、大勢で一人を攻めるような陰湿なことはしない。そんなクズじゃないんだから。
「しつこい女はモテないよ」
「合成樹脂の猫よりはましよ」
「日本のフィギュアはクオリティも高いから外国人にも人気だよ。気に入った作品は生涯コレクターの宝物として重宝されるしね。今の君みたいに、口を開けばどぎつい言葉を放つ小娘なんか、最初だけ可愛がられて後で捨てられるのが関の山だよ。そうなったら君はいわゆる『売れ残り』として一生独り身で生活していく羽目になるんだ。それでも君がフィギュアよりも優っている理由があるなら、ぜひ教えてほしいね。国際人権規約もわからなかった小娘さーん」
「なっ……なんですって!」
私は白狼からシャトルをぶんどった。だがシャトルは顔色変えずに、私を馬鹿にするような余裕な表情で片目を閉じた。
「シャトル。その辺にしといて。はっきり言うのは君の長所だけど、言葉は使い方を間違えると、時として刃物になる」
「名探偵コナンの十五作品目の映画に出ていた名言ね。わかったよ」
そしてシャトルは鼻先を向けて、じっと私を見た。
「言いすぎてごめんね。恋虎」
青い瞳がうるんでいる。うっ……かわいい。
「ま、まあ。私も少し調子に乗っていたわ。ごめん」
シャトルと仲直りしたところで、白狼が本題に入った。
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