私の彼はやさしい呪術師
白糸夜中
第1話 友達は呪術師!? (1)
放課後、忘れ物を取りに走っていると、あたしの教室である二年一組の廊下側の窓から強烈な光が廊下に差し込んでいた。
部活動のほとんどが終了し、校内は茜色に染め上げられていたが、その光は夕日によるものではないことは一目瞭然だ。雷の閃光のような白くて激しい光。何か実験をしているのだろうか。
ドアを開けた時、教室内は光で白一色に染まっていた。
「まぶしい!」
思わず目を覆って叫んだ時、光の中に気配を感じた。強烈な光なのに、外部の人間は一切気づいていない。放課後は必ず開けて帰るはずのカーテンがすべて閉まっているからだ。
光は徐々に収縮し、やがて教室の真ん中にシルエットが見えた。詰襟の学生服で、収縮する光の中にぽっかりとその姿が浮かび上がってくる。やがて光は嘘のように溶け消えた。
眩んだ目が徐々に慣れていき、席に座っているのが男の子だとわかる。名前は確か、
「大崎くん?」
彼は無表情であたしのことを一瞥した後、顔を伏せた。あんなまばゆい光の中にいたというのに、まったく眩しそうにしていない。
「今の光、何?」
彼は答えなかった。ずっとうつむいており、長い前髪が顔を隠し表情が読み取れない。
「ねえ、答えてよ」
無視されたことに苛立ったあたしが詰め寄る。彼は一向にその場を動こうとしない。次第にイライラが募り、机をぶん殴ってやろうと思っていた時、
「見られちゃったね、白狼」
あたしと同じか、少し年上のお姉さんのような声が聞こえた。ちなみに白狼とは大崎の下の名前である。
周りを見渡すが、教室にはあたしと白狼の二人しかいない。それに声は、正面から聞こえたような気がする。今のが彼の声? そんな馬鹿な。
するとその時、白狼が観念するようにため息を吐き、何かを包み込んだ両手を机の上に置いた。そして手をゆっくりと開くと、何かの置物がてのひらに乗っていた。
「猫?」
シャープな体躯をしており、顔と耳が黒色で、体は白系に近い色だ。シャム猫という種類だろう。青い目をしており、手のひら大の置物なのに耳の中の毛やビー玉のような瞳がかなり精巧に作られている。置物というより、フィギュアという方が近い。
「あんまりじろじろ見ないでよ」
「は?」
目と耳を疑った。この猫、しゃべらなかった?
説明を求めるように白狼を見ると、彼は前髪の隙間から気怠そうな瞳であたしを見た。
「この子は、生きているんだ」
少し低い声で白狼が言った。彼ってこんな声だったんだ。いやいやそうじゃない。今何かぶっとんだことを言わなかったか?
「生きてるって何?」
「捉えようによっては随分と哲学的な質問だね」
「ごまかさないで」
白狼は眉一つ動かさず、猫をそっと机の上に置いた。
「シャトル。好きな言葉は?」
シャトルと呼ばれた猫は、あろうことか机の天板の上で伸びをした後に、あたしを見上げて言った。
「笑う時は世界と一緒、泣く時はお前ひとり」
「君を十五年も監禁した覚えはないぞ」
この猫がしゃべっている現象も、白狼のツッコミも意味不明。あたしは起きているのに夢を見ているのか。
「おい、早く帰れ。もうとっくに下校時刻すぎてるぞ」
生徒指導の馬場先生が、あたしたちを注意した。白狼は無言で立ち上がると、シャトルをポケットに入れて教室を出て行った。混乱した頭のまま、あたしも彼の後を追おうとした時、馬場先生に引き留められた。
「小宮、お前まだ髪染めてないのか?」
「だから、これ地毛だって言ってるじゃないですか」
「そんなキャラメルマキアートみたいな地毛があってたまるか」
あたしの茶髪が地毛なのは本当だ。なのに昔からいつも教師たちは、あたしのことをやんちゃしている痛い子だと色眼鏡で見ている。本当にうんざりだ。
「高校の進路に響くぞ。地毛だとしても、そんなに明るくては」
「じゃあ先生は、アメリカ人のパツ金留学生にも同じことを言うんですか? 日本では中学高校では黒髪であることが学生の基本様式だと」
馬場先生はバツが悪そうに頭をかきながら、「とにかく、早く帰れよ」とあたしが質問したことには答えず見回りに行った。
我に返ってすぐに白狼の後を追ったが、彼はすでに校内からいなくなっていた。
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