第3話 杜子春
『杜子春』は芥川龍之介の書いた小説であり、また同時に中国古典文学の中の一つでもある。
というより芥川龍之介は中国の『杜子春』を丸ごと引き写したため、発表当時には盗作と騒がれたのである。これに対して芥川氏は大幅に改筆してあるので二次創作であり、盗作ではないと言い張った。
実際に読んでみればわかる。結末を除けばほぼ話の筋は同じで、盗作の汚名を着るに十分な所以である。もっとも作品名をそのままにしてあるのを見れば、彼にとっては一種の挑戦だったのだろう。
さて、杜子春の粗筋はこうである。
ある所に放蕩息子の杜子春という男がいて、親から受け継いだ財産をすべて使い尽くしてしまった。
将来に絶望した杜子春は街で一人の老人に会う。彼に同情した老人は街の外のある場所に立ち、この時刻に落ちる自分の影の頭の部分を掘れと勧める。
やってみるとそこからは財宝が出てきて、再び金持ちになった杜子春は放蕩の限りを尽くす。そしてまたもや無一文になる。
懲りない男だねえ。
再び老人に会った杜子春は今度は影の腰の位置を掘るように言われ、またもや大金持ちになる。
そしてまたもや使い尽くす。
理解できないでもないが、人間ってバカだねえ。
またもや老人に会った杜子春は今度は宝を掘ろうとはしなかった。あなたは仙人でしょう、宝を頂く代わりに私を弟子にしてくださいと頼む。
仙人に弟子入りした杜子春は試練を受けさせられる。これから恐ろしいことが起きるが何があっても声を出してはならぬと。その後に杜子春は地獄の鬼につかまり地獄を引き回されるが、耐えに耐える。しかし最後に自分の父母が目の前に引き出されて鞭打たれたとき、思わず声を発してしまう。
そのとき術は破れて、杜子春は下界へと送り返されてしまう。
これが日本版杜子春のあらましである。
中国版は少し違う。
まず仙人に弟子入りする前に、三回目の宝を掘り、その財宝を使って恩には恩で返し、仇には仇で返している。そうして初めて俗世を忘れて仙界入りできるとする。
そして地獄に連れて行かれて目の前で父母が責めさいなまれても、杜子春は耐えるのである。その後に杜子春は生れ変わらされ、今度は女に生まれる。だがそれでも杜子春は一言も発しない。やがて夫を娶り子供を産むがそれでも喋らない。声を出さない妻にいらついた夫が子供を取り上げ、目の前で床に叩きつけて殺したときに初めて、女杜子春は声を上げるのである。
日本版に比べて、中国版の方が杜子春の性質が陰湿で、しかも子が親に見せる愛情よりも親が子に見せる愛情の方が強いとしているのが、大変に興味深い。
おまけに仙界に入る前にきちんと報復をしている。この部分、実に中国人らしい。というより償わない相手を許す日本人気質が間違っているのだが。
文豪の芥川龍之介がやった行為はいったい何だったのだろうか?
そう、精密に構築された懐石料理をぶつ切にして、ただ一品の刺身を作って見せたのだ。
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