第1話 科学する心

 百五十年前、日本は明治維新を迎えた。そのとき科学技術の輸入に当たって参考にしたのは当時最先端を進んでいたドイツだった。

 そういった訳で日本の教科書はドイツの教科書を翻訳して作られたという経緯がある。このとき、一部に誤訳があった。


 ブラウン運動の項目である。


「水に花粉を浮かべ、これを顕微鏡で観察すると花粉が水分子に押されて振動するのが観察できる」

 正しい翻訳はこうである。

「水に花粉の『砕片』を浮かべ」

 花粉の大きさでは水分子に押されても観察できるほど動かない。花粉を砕いてもっと小さな破片にして初めて観察できるのである。

 花粉そのものでブラウン運動を観察できるほど小さいのは、良く知られている二万種の花粉の中でもわずかに二種類しかないのだ。

 だが、百五十年の間、教科書のこの間違った記述には誰も気づかなかった。

 教科書は間違ったことを言わないとの思い込みだけで、間違った知識が一億人の日本人に百五十年の間教えられてきたのだ。

 そして誰も気づかなかった。

 十年前にある小学校の教師がこれを子供たちに実験して見せた。そして間違いに気づくということが起こるまでは。


 まるで人類は科学の申し子のように思っている人間は多いが、実際の話、大多数の人々に取って科学とは本に書かれていることをそのまま鵜呑みにしているだけに過ぎないと断言できる。

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