(19)魔法使いのやり方

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 シャドと共にルーカスの元に新たに来た宮廷魔道士は、四十代女性のファルと二十代男性のルッカの二人だ。

 宮廷魔道士については全員把握しているルーカスはすぐに二人の名前に思い当ったが、きちんとシャドが紹介してくるまでは余計な真似はせずにいた。

 紹介もされていないのにいきなり名前を呼ぶのは、社交的には悪いマナーの一つとされているためだ。

 社交について学ぶ前のルーカスであれば間違いなく名前を呼んでいたはずなので、勉強の成果が発揮されることとなったのはここだけの話。

 とにかくいきなり三人の宮廷魔道士と対面することになったルーカスは、これから何が行われるのかと内心バクバクだった。

 シャドもそうだが、魔法の指南を記した魔導書の中にも出て来るような人たちばかりである。

 ルーカスの今の気分としては、画面の中で講義をしていたプロ中のプロがいきなり目の前に現れたといったところだろうか。

 アイドルと直接会えた時とはまた違った感覚に、ルーカスもどう対応していいのかわからずに戸惑っていた。……前世でも今世でもアイドルに会ったことなどないのだが。

 

 そんな中で言われた『お詫び』という言葉に、ルーカスは意味が分からずにいた。

 普通に考えればシャドが横入りをしたことに対して二人に謝意を示しているということになるのだが、どうにもシャドの言葉には別の意味があるようにも感じられた。

 それがただのルーカスの気のせいならそれでいいのだが、どうもそれ以外にも意味がありそうだったので色々な意味で混乱することとなった。

 そもそも三人揃って以前からルーカスのことを知っていたような態度をとっていることも意味がわからない。

 

「――そう慌てる必要などない。そなたからすれば、突然押しかけられたようなものであろう。そういう意味での『お詫び』だよ」

「そういうことでしたか。それでしたら全く気にしておりませんので、詫びていただく必要などございません」

「うむ。そなたならそう言うであろうな。だが中央の学生としては失格であるぞ。ここは素直に受け入れるのが正解だな」

「す、すみません」


 思わず謝ってしまったルーカスだったが、シャドとのやり取りを見ていた他の二人も笑みを浮かべているので本気で怒っているわけではない。

 どちらかといえば、どう見ても緊張しているルーカスを笑いでほぐそうとして、敢えて『マナーを教える』という方法をとったのだ。

 すっかりマナーのことなど吹き飛んでいたルーカスとしては、シャドの気づかいに感謝すると同時にこれが正式な社交の場だったらと冷や汗をかく羽目になった。

 今は軽く笑われているだけで済んでいるが、一つのミスで足元を掬われかねない社交の場ではあまり良いことではない。

 もっともそんなミスの一つやそこらで足元を見て来るような輩とは付き合わないという態度をとれるのが、今のルーカスの立場だったりするのだが。

 いくら強気の態度をとれる立場にいるとはいえ、ルーカスとしてはお世話になっている周囲の人たちのためにもむやみやたらに強権を振りかざすつもりはない。

 

「長、今はそんなことよりも話を聞こうじゃないかい。折角こうして時間が出来たんだ」

「そうですよ。色々聞きたいことはあるのに、時間はあまり無いんですから」

「そう急かすな。それからルーカス殿。この二人にはあの論文にも目を通してもらっていますからな。当然だが問題はないと言っていたぞ」

「あれで問題があると言われる方が問題だと私は思うがね。陛下からも言われているだろうが、何かを言われるとすれば政治的な問題だろうさ。魔法の議論に政治を持ち込むなと言いたいところだけれど……難しいだろうさね」

「本当に。ただただ純粋に魔法の発展のためになるなら良いのですが。今はそれはいいでしょう。それよりもルーカス殿は着眼点が素晴らしいですね」

「それはここに来るまでの間に私も話した。言われて見れば誰にでも気付けるようなことだが、だからこそきちんと文書化するのは難しいとな」


 シャドが補足するように付け足すと、先に話していたファルとルッカがそうだろうと言いたげに頷いていた。

 ルーカスとしては、そっちよりもやはりここでも政治的な話題が出て来るのかと多少うんざりしていた。

 リチャード国王含めて全員に言われるということは、必ず嫌味にならない程度の口撃はされるのだろうと改めて覚悟をし直した。

 数日後には初めての公的な社交界が待っているので、そこであれやこれやといわれることになるかも知れない。

 もっとも今回出す論文は内容が控えめなものであるだけに、そこまで急激に話が広がるとも思えない――とそんなことをルーカスは考えていた。

 

「アレについては何も問題は無いのだし、今の時点で私たちが口を出すようなことでもないでしょう。それよりも例の魔法の話ですよ!」

「これルッカ。お前は少し落ち着け。ルーカス、一応言っておくが魔法は秘匿することが当たり前ですからな。それはこの場でも同じことであるからな。言いたくないことは言わなくてもいい」

「はあ……。ということは、わざわざこの場を用意したのは何か魔法について聞きたいことがあるということでしょうか」

「はっきり言ってしまうとそういうことですな。そなたが入学試験時に使ったという魔法が魔法省でも話題になっておる。あの新入生が使ったという魔法はどんな仕組みなのかと」


 シャドからはっきりとそう説明をされて、ルーカスはようやく『なるほど』と納得が出来た。

 ルーカスが入試で使ったレールガンの魔法は、この世界の技術レベルだと説明が中々難しい。

 そもそもルーカスが勝手にレールガンと呼んでいるだけで、あちらの世界のレールガンとも違っているところはあるはずだ。

 そんな魔法だけに他人に説明をするには、多くの科学的な説明をしなければならないのだがこれが中々難しかった。

 

 ルーカスが難し顔をして考え始めたのを見て、三人は一度顔を見合わせてからさらに話し出した。

「そこまで難しく考える必要は無いんだよ。長も言ったが、魔法使いは秘密の一つや二つは持っておくべきさ」

「そうそう。折角だからこういう時のやり方としては、話せない話せないとはっきり言うのじゃなくて、適当な話題で話を逸らしてしまうのがいいでしょうね」

「うむ。さらにいえば、既に公表されている最新技術の話題など出せればなおよしであろう。そなたは学生なのだから質問をするという形も有りであろうな」


 三人が口々に言いだすのを聞いていたルーカスは、入試の時に使った魔法についてだけではなくむしろこちらを教えたかったのかと納得していた。

 ルーカスが論文を出す以上は、社交で魔法について聞かれる機会も多くなるはず。

 それにはそれこそ今のように、ルーカスが秘密にしていることを根掘り葉掘り聞きだそうとしてくる者もいるはずだ。

 一応社交の講義の時にもある程度は教えてもらっていたが、この三人は魔法使いに特化したより実践的なやり方を教えてくれていた。

 

 三人の気づかいは、ルーカスにとっては非常にありがたいことである。

 ただし貰いっぱなしということもあまり良いことではないということも理解している。

 ということでルーカスが以前から温めていた考え方を披露することに決めた。

 これから話そうとしていることは、ルーカスが知る限りでは魔導書などでは見たことがない考え方になる。

 それをこの場で披露しても良いのかは考えどころではあるが、この三人なら大丈夫だろうと判断した。

 それにいずれは表に出して聞こうと考えていただけに、今よりも最適な場はないだろうとルーカスは考えていた。




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