(14)うっぷん晴らし

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 次の獲物を見つけた時までに英気を養うために設けられた模擬戦は、基本的に当人の希望による自由参加となっている。

 そもそもが気晴らしのためにやっていることなので、無理に参加させてしまうと本末転倒な結果になりかねない。

 一口に船乗りといっても全員が全員、腕っぷし自慢ではないことは既にアルフやエルッキでも知っていること。

 そもそも戦闘自体得意ではない船乗りがいるので、強制しても本来の目的からずれてしまうことになる。

 というわけで希望するものだけが参加となっている今回の模擬戦だったが、新人五人組は全員が参加希望をしていた。

 船に乗ってからのこの数日は仕事らしい仕事もさせられずにただ黙って先輩たちがやっていることを見ておけと言われているだけだったので、それなりにうっ憤が溜まっていたということだった。

 中には敢えて弱い自分を見せて戦い方面は駄目だと示すつもりで出ている者もいるのはいたが、基本的にはここで自分の存在感を示そうと気を張っていた。

 もっとも前日にアルフが新人離れした動きをして魔物の討伐をしているため、どこまで効果があるかは疑問だが。

 

 さらに新人たちが張り切っているのには、もう一つの理由がある。

 それは、普段はあまり甲板に姿を見せない船長であるエルモが見学に来ているためだ。

 ここで自分の実力を見せることが出来れば、目をかけてくれるかもしれないという考えがあってのことだった。

 アルフが前日にあれほどの動きを見せているのでどこまで効果があるかは分からないが、それでも何もしないよりはましだという思いがあった。

 

 そういうわけで新人たちの思惑が乗った模擬戦だったが、当然のように開いている側にも思惑はあった。

「――さて。これでいくらか新人たちのうっ憤が晴らせればいいがな」

「そんなことを言いながらしっかりと他の奴らのことを見ながら言うのは策士だぞ、親父」

「何を言っているんだ。そういうお前だってしっかりチェックしているじゃないか。仲間の成長を見るのは、上に立つ者としては当然のことだ」

「はいはい。そんなことを言いながら事務仕事に飽き飽きしているんだろ?」

「そうとも言うがな。何だったら俺が出ても……」

「それは駄目だって、クルトにはっきり言われただろう? 無理に出ようとしたら俺が言いつけるからな」

 息子からの呆れたような視線を受けて、エルモは「ムウ」とうなっていた。

 船長室は広めに出来ているとはいえ、一つの部屋に閉じこもって仕事をして飽き飽きしているのはエルモも同じだったりする。

 

「やれやれ。うちのバカ息子は厳しいな。少しは親父に良い思いをさせようとは思わないのか」

「思わない。仕事はしっかりとやれ。それに、ここに来ているだけで十分リフレッシュできているだろう?」

「放置しっぱなしで島の運営をしているお前に言われるとは思わなかったな」

「優秀な部下たちが揃っていて良かったと思っているぞ。親父も頑張って優秀な部下を増やせばいい」


 ルーカスの部下である魔族が運営をしている中継島は、あまりに特殊過ぎて比較すること自体間違っている。

 そのことを分かった上で言い合っているのは、あくまでもいつものじゃれ合いだとお互いに分かっているからこそできることだ。

 端から聞けば、ルーカスがその立場を利用して言いたい放題言っていると言われかねない。

 あくまでも身内同士だからこそ出来る会話だけに、周りにいたエルモの部下たちはいつものことかと全く気にすることなく模擬戦に注目していた。

 

「おっと。次から新人共が出て来るか。ルーカスはどうなると思う?」

「どうと言われてもなあ……。身体強化有りの模擬戦だから比較すること自体間違っているさ」

「随分とはっきり断言するなあ。ひっそりと鍛えていたとかは考えないのか?」

「それはないな。魔力を使って身体操作していたら自然とそれらしい流れが出来る。あいつらにはそれが見られないからほとんど訓練なんてしたことはないと断言できる」

「そんなもんか。俺には魔力の流れなんて見えないから分からないが」

「親父はそうだろうな。ただ魔力は見えないにしても、今までの経験でなんとなくはわかるだろう?」

「確かにそうだが、そんな感覚に頼っていても間違うときは間違うからな」


 魔力を視る、感じ取るというのは別にルーカスの専売特許というわけではない。

 種族的に生まれた時からその能力を持っている種もいるし、ルーカスやエルモのようなヒューマンにもそれなりの数存在している。

 ヒューマンの場合は子供の時から魔力の扱う訓練をしていれば身につくのではないかと言われているが、全員が当てはまっているわけでもないので証明はされていない。

 さらに魔力視が出来るからといって必ずしも有利に働くとは限らないので、全員が全員欲しがるような能力でもなかったりする。

 今のところ言われているのは、無いよりもあった方がいいだろうという程度の力ということくらいだ。

 ルーカスとしてはそれは大きな間違いだと声を大にして言いたいところだが、あくまでも感覚的に感じていることであって上手く言葉では説明できないので実際に言葉にして言ったことはない。

 

「――まあ、魔力視のことはいいとして。新人Aさんはどうなるかな?」

「いや、お前。新人Aはひどすぎないか?」

「仕方ないじゃないか。きちんと挨拶されていないんだから。俺は名前なんか知らないぞ?」

「そうだったか? てっきり挨拶は済ませたと思っていたが……敢えてこのまま放置しておくか。当人たちがいつ気づくのか、中々興味深くないか?」

「言いたいことは分かるが、ちょっと意地悪過ぎる気もするな。あまり俺たちには近づくなと言われているんだろ?」

「近づくなではなく、変に喧嘩を吹っ掛けるなと言ったと聞いているぞ?」

「なんだ。常識の範囲内じゃないか。もっと脅したのかと思っていた。奴ら俺たちがいるとあからさまに避けるようになっているからな」

「グレイシャークを相手にあれだけの立ち回りを見せたんだから仕方ないんじゃないか? 事務作業をしている時以外は大体一緒にいるんだろう?」

「言われてみれば、確かに。俺は特に何もしていないだがなあ。もう少しはねっ返りが揃っていると思っていたんだがなあ」


 少しばかり残念そうな顔になって言うルーカスを見て、エルモは逆に呆れたような顔になった。

 聞き方を間違えると自ら面倒事を待っているように聞こえるだけに、知らない人が聞けば誤解をしてしまいそうな言い方だ。

 勿論エルモは、ルーカスが本気で突っかかってきて欲しいと願っているわけではないということを知っているので変に煽るようなことは言うことはしなかった。

 ルーカスが新人相手に本気で戦うと、折角の候補者たちがあっという間にいなくなってしまいかねない。

 

 二人がそんなことを話している間にも、新人たちの先輩船乗りへの挑戦は続いていた。

 ただ結果はお察しの通りというべきか、ただの一人も勝てる者はいなかった。

 例の二人はさすがにその言動に見合うような強さだったが、所詮は子供同士の喧嘩の範囲内ではという注釈が付くレベルでしかない。

 逆にいえば身体強化をせずにそれだけの強さがあるということは、センス自体はある……のかもしれない。

 

 そんな二人がこれから先も腐らずに努力をしてくれれば――とルーカスは考えているが、こればかりは当人の性格も絡むことなのでどうなるかは断言はできない。

 この船に乗っている船乗りたちの中には彼らと似たり寄ったりの生い立ちで入っている者もいるはずなので、できる限り上手く育ててほしいと考えていた。




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m(__)m

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