漂う島々の中で生きる道
早秋
第1章
(1)浮遊世界ターフ
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浮遊世界ターフ。
誰がそう呼び始めたのかは分からないが、その世界で暮らす人々は自分たちが住む場所をそう呼んでいた。
大陸はなく大小さまざまな島々が空に浮かび、その上に人々が生活を行っている――そんな世界。
まるで海洋を自由に移動している島のようにも見えるが、この世界の多くの人々にとって海という存在は未知のものでそう例えても誰も理解はできないだろう。
その世界で大きい島を治めている国主たちは、星獣と呼ばれるパートナーから得られる『浮遊珠』を使って、治めている島をある程度自由に移動させることができる。
逆にいえば、星獣から浮遊珠が得られなければこの世界では島を治める主として認められることはない。
主あるいは王と呼ばれる者たちは、浮遊珠を使って島に様々な恩恵を得ることができる。
だからこそ浮遊世界ターフで生きる人々は、浮遊珠を得られる星獣をパートナーにした者を自分たちの主または王として認めているのである。
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雲一つない青い空の中を一隻の帆船が進んでいた。
空中を進むのに飛行機ではなく船。それがこの世界の特徴を示している。
水はなく空に浮かぶ船。当たり前のように一定の高さを維持して進み、皆が当然のことのようにそれを受け入れている。
船が空の中を進むのは当たり前のことで、この世界では生まれたばかりの子供でも知っているような常識なのだ。
ただし件の船の舳先で寝転がっている一人の少年を除いて。
見た目では年の頃が十になるかならないかの子供ではあるが、遮るものが少ない船の上で長期間過ごしていることを証明するかのように見事に日焼けしている。
辛うじて美形の端っこにぶら下がっている程度の顔面偏差値だが、どう頑張ってみても普通面だった地球の日本で暮らしていた前世の記憶がある身としては十分だと考えている。
その前世の記憶があるからこそ、空中を進む船と中空を自由に移動する海に生きているはずの生き物たちに違和感を覚える結果となっているのだが。
少年にとっては当たり前ではない光景に色々な思いが混じったため息を吐くと、船員の一人が呼びかけてきた。
「ぼん。どうした?」
「いんや。何でもない。ちょっと黄昏ていただけだ」
「黄昏って……ぼんはそんな年じゃないだろうに。まあ、いいか。それよりも親分が呼んでいたぞ」
「親父が? 何だろうな」
「さてな。そこまでは聞いていない。船長室にいるはずだ」
「了解。行ってみる。…………ッ!? 物見!! 二時方向、確認!」
のんびりした調子で起き上がり、船員に言われたとおりに船長室へと向かおうとした少年だったが、いきなりマストの上にある物見がいるはずのトップ台に向かって指示を出す。
その少年の様子を見て、のんびりと声をかけて来た船員は少し慌てた様子で自分の持ち場へと駆け出して行く。
少年の言葉によって、のんびりした航海を行っていたように見えた船が騒がしくなった。
そして少年から指示された方向をマストの上から見ていた見張りが、ついに目的のものを見つけることができて仲間たちに向かって報告をした。
「――発見! 進路、そのまま!! 距離は――」
見張りからの指示によって、船員たちの顔に明るいものが浮かんだ。
少年の言葉によってすぐさま行動はしていたが、それでもやはり目できちんと確認されるまでは安心できないと分かっているからだ。
少年もそのことは十分に理解しているので、船員たちの態度にふてくされることはない。
というよりも既に何度か同じことを繰り返しているので、慣れているともいう。
いずれにしても目的のものは発見できたので、今はその目標物が近づいて来るのを待つだけだ。
そうこうしているうちに船長室にいたらしい船長が、知らせを受けて甲板に上がってきた。
操船に関してはベテランの航海士がいるので、少年は勿論のこと船長も口を出すことはない。
その代わりというわけではないだろうが、船長は船の縁で様子を見ていた少年のところに近づいて話しかけた。
「見つけたか」
「おう。今度はしっかりと当たったよ」
「普通は当たらないんだがな。さすが俺の息子といったところだな」
「血は繋がってないけどなー」
「ぬかせ。そこは今、関係ないだろうが」
聞きようによっては重い話になるのだが、船長と少年は笑い飛ばしながら会話をしていて、何度も同じやり取りを繰り返している気安さが感じられた。
その会話からも分かる通り、いわゆる捨て子だった(と思われる)少年がこの船で拾われてからもうすぐ十数年が経つ。
最初はどこかの孤児院にでも預けようかと考えていた船長だったが、すぐに自分自身に懐いてくれた子供に愛情を感じてしまい自分で育てることにした。
孤児院、というよりも孤児という立場があまり良い状態ではないと知っていて預けるのをためらっていたということも理由の一つにあるのかもしれない。
結果的には人生のほとんどを船に揺られながら育てられた少年は、他の船員が一目置くくらいに船に精通した人材に育っている。
血が繋がっていないことをネタにしても笑い飛ばせるくらいの関係がある二人は、他の手すきな船員と同じように近づきつつある小さな『島』をじっと見ていた。
「大きさは大体五キロ四方くらいかな? かなりの当たりだね」
「十分だ。むしろ良く見つけた。さすが俺の息子」
「はいはい。分かったよ。褒美は小遣いアップで」
「む。……この前欲しがっていた魔法書で手を打とうか」
「えー。それはないよ、おやっさん。継続アップのほうがいいなあ」
「駄目だ。それに誰がおやっさんだ。場合によっては二つ買っていいから、それで諦めてくれ」
「ええー。まあ、仕方ないか」
年の割には諦めが早いようにも見えるが、船長と少年にとってはそれが当たり前のことだと言わんばかりに会話を行っている。
船長と少年が親子の会話を続ける中で、空飛ぶ船は目標の島に向かって順調に進んで行った。
船が島に近づいていくことで、その大きさもはっきりとわかってきた。
目測だと大体一辺が一キロほどで、大まかにひし形になっている。
少年が知っている記憶からすれば小島でしかないが、見つけた船員も含めてほとんど全員が大喜びをしていた。
浮遊世界ターフにおいて新たな島の発見は、そのまますべてが重要な資源になる。
植物を育てる土壌は勿論のこと、ありとあらゆる素材が彼らが活動している本島にとっても有用な資源として活用されていくことになる。
そのため少年と共にいる船長や船員たちは、本島から離れた島を見つけることを目的として活動している。
そうした船に乗って活動する船員たちは、総じて探索者又はサーチャーと呼ばれている。
探索者が探し出す島(小さな岩石のようなものも含む)は本島で生きる者たちにとってはお宝そのものなので、時に言葉通りに一攫千金に値するだけのものを発見できる。
そんな夢がある世界ではあるが、やはり博打的要素も強いことから職業としては安定しているとはいいがたい。
ただし何故かこの世界では、どこにあるのか分からない島や資源の塊を見つけ出すことに長けた才能を持っている者が生まれてくることがある。
少年もまたそんな才能の持ち主だと周りからは思われている。
この少年――ルーカスにはターフではない別の世界である日本で生きていた時の記憶がある。
ただその記憶も毎夜のごとく見ている夢のような感じのもので、どことなく他人の視点で見ている映画のような感覚でしかない。
そもそも以前の世界で生きていた時の名前などの
ルーカスにとって日本での記憶は、所詮は夢うつつでの出来事であって今を生きるための糧の一つでしかない。
そんなルーカス少年によって発見された小島は、船員たちの積極的な調査によりかなり有用な資源が多くあることが分かった。
浮遊している島には発見者が領有を主張するための旗などが建てられていることもあるが、今回見つけた島にはそうしたものもなく完全に新発見されたものであった。
あとは本島に連絡を取り新しく島を発見したことを伝えて、国から派遣されてくるはずの採取船団を待ってから本島へと帰還することになった。
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新作の投稿開始です。
今回は、海が無く島々が浮いている世界のお話です。
どうぞよろしくお願いいたします。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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