第48話 シンクロ

 僕のテーブルにいたのは、ラッキーさんの他に、中間発表9位『海のクランアーク』、8位『狩人のクランハント』、2位『万人のクランオールスター』のメンバーだった。


 主に場を回していたのはラッキーさんだったが、皆全く無口というわけでも無く、食事の間、話は途切れることなく続いていた。意外にも特別変な人はいなくて、メイン料理を食べ終わる頃にはすっかり緊張は解けていた。


 この中で『クラン上会リミテッド』初参加が僕だけということで、ラッキーさんに『追憶のクランメモリアル』についていろいろと聞かれた。ユニークスキルに関わるような話はすべて「秘密です」で返した。


 これは今に始まったことでは無く、巷では僕達は『秘密主義のクラン』と囁かれている。鬼の面で顔も隠しているため、「身元を明かせない犯罪者集団なんじゃないか」とも噂されているらしい。


 うん、仕方ない。実際、正体を知られるわけにもいかないし。


 何はともあれ、ラッキーさんが話題を振ってくれることをいいことに、僕もいろいろと質問をした。

 『勝者のクランウィナー』についてわかったことは、こうだ。


 『勝者のクランウィナー』は、この国の先駆クランパイオニア

 彼らの存在によって、ベリージェのクランは激増した。それまでは、この地ではクランよりもギルドに回る依頼の方が多かったのだという。


 『勝者のクランウィナー』が迅速に圧倒的な力で依頼を達成していき、国民はクランに注目を集めた。そして、『勝者のクランウィナー』は世界1位にまで拡大し、この国に大きな富をもたらした。だからこそ、王族は彼らと専属契約を交わした。そして、人々は彼らを尊敬し、信頼し、誇りに思っている。ちょっとやそっとじゃ揺らぐことのない地位だ。


勝者のクランウィナー』は最初、たった3人のクランだった。それが今や、50人を超える大所帯。さらに精鋭揃い。ユニークスキル持ちも10人近くいると噂されている。

 彼らに憧れてベリージェまで来る冒険者も多く、『勝者のクランウィナー』に加入するための足がかりとしてクランを立ち上げる人すらいるのだという。


 ……すさまじいクランだ。


 この会場内には当人達もいるわけだし、あんまり深く聞きすぎるのも不審がられると思ってこれ以上の情報は得られなかった。


 でも、気になった点もある。『勝者のクランウィナー』が最初、3人だったという事実だ。


 エルさんの話によると、ディノ・スチュワートはクラン立ち上げ時に『無傷の者アンハート』を名乗り始めた。これが仲間の協力あってのことなら、当時からの仲間2人が関わっているのではないか。初期メンバーが誰か知ることができれば、何か手がかりが得られるかもしれない。



「あなた、本当に無口ねえ」

 無口、という言葉が聞こえて、そっと視線を前方の1番テーブルに移す。


 話しかけられているのは、セイだ。


 この食事の間、ずっとセイのテーブルに意識を向けていた。僕達の4番テーブルよりも、1番テーブルの方が話が盛り上がっていたので、よく声が届いていたのだ。意外にも、ディノ・スチュワートも普通に会話に参加していた。ただし、セイは一切話していない。


 やり取りは全て相づちで済ませていたようだ。何を話しかけられても頷くか首を横に振るか、今のようにひたすらじっと黙り込む。

 さすが強靱な心臓の持ち主。誰にでもできる所業じゃない。


 でもそのおかげで、セイの正体はバレていない。不審には思われてるだろうけど。

 心配は杞憂だったようだ。良かった。



 こうして、初めての『クラン上会リミテッド』は終わった。ディーさんも特に目立ったトラブルは起こさなかったようだ。


 5人集まると、ほっと安心する。


 あとは帰って、それぞれが得た情報を共有しよう。


「じゃあ、帰りま……」


「ねえ」


 その時、後ろから話しかけられた。


 声の主に気がついて、体が硬直する。


 セイをはじめとする4人は、後ろの人物を凝視している。仮面越しでも、その緊迫した雰囲気は感じられる。



「また会ったね。『追憶のクランメモリアル』のリーダー」



 『次会ったときは、それ外してね』

 クラン総会で、そう言われたことを思い出す。


 前回は、足がすくむばかりで、ろくに受け答えもできなかった。


 ……でも今回は、そうはいかない。


 そう覚悟を決めて振り返った時。




 ディノ・スチュワートの紫の瞳の奥に、僕はを見た。




 奇妙な光景だった。やけにはっきりと、脳裏にこびりつく。僕と、その後ろの3人。



 ……いや、違う。僕じゃない。

 でも、知ってる。どこで。



 どくん、と痛いほどに心臓が脈打ち、視界がぐにゃりと歪む。


「くっ、はっ……!」


 息が苦しい。胸の奥が熱い。


 体が傾いていくのがわかる。


「おい!」

「リュウ!」

 エルさんとセイの声が聞こえる。でも返事ができない。


 意識が朦朧とする。


「お前、何を!」

 エルさんが咎めるように叫んだ。


 ……違う。この人じゃ、ない。


「さあ、見てたよね? 何もしてない」

「……すみません。緊張してたのでお酒を飲み過ぎたのかもしれません。今日は失礼します」


 ディノ・スチュワートとネオのやりとりを遠くに聞きながら、思い出していた。



 あの瞳に映った光景は、どこで見たのか、と。

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