第36話 怒れる竜に宿敵をぶつけよう作戦
結局有効な手段も思いつかないまま、僕とセイとエルさんの3人は、立派な装備だけを身につけて
双子もついて行くと言い張っていたが、通常の依頼をこなしてもらうために残ってもらった。ネオも、責任者としてクランハウスに残っている。
「大丈夫かな……」
本当に不安しかない。
「リュウのことは私が守る」
「ありがとう、セイ」
その場にいるだけで危険なのでセイは僕についてきてほしくなかったようだが、炎の洞窟は10㎞以上遠方なので、3人で馬車に乗ることになった。
多分、2人が
「着いたらとりあえず、ネオの言ってた通り、山の麓の村に行って話を聞こう」
「そうだな」
景気よく依頼を受けたものの、
長年、
うん、もう、それにかけるしかない……!
◇
それから数時間後。
「裏技? うーん、そんなの知らんなあ」
顎髭を生やした村長は、必死な僕達の前であっさりとそう告げたのだった。
……終わった。
もうこの人が知らないんなら、誰も知らないよ。間違いなく。
「これまで
か、教えてもらえませんか? どんな情報でも欲しいんです」
一応食い下がってみる。いくらセイとエルさんが死人とはいえ、みすみす負けに行くわけにはいかない。
「そうだなあ、前に倒したのはあの変な……ええと、名前は何だっけのう」
「『
「ああ、そうそう。そのディ、なんたらという男じゃった。変わった奴でなあ、服なんか大して着とらんかったわ。でっかい槍だけ持ってのお」
服を大して着てなかった……?
「上裸で挑んだんだって。凄いよね」
村長の孫らしき少年が僕の疑問に答えてくれる。
ていうか、上裸って……。
ディエゴ・デトロイトは異次元過ぎる。
「最後が、ディエゴなんですか? それ以降は」
ディエゴ・デトロイトが
「何組かおったが、誰も帰っては来なかったのう」
「誰も!?」
「あの男に負けたのがよっぽど悔しかったらしくてな。いつにも増して、荒れているんじゃ」
「うわあ……」
上裸の男に負けたとなると、竜も悔しいのかもしれない。
タイミングが悪すぎる。
普通の状態の
「やっぱ、じいちゃんのあれが悪かったんじゃない?」
「あれ?」
「忘れたの? 祠にバンダナ飾ったんでしょ?」
「ああ、そういえばそんなこともあったなあ」
村長曰く、ディエゴ・デトロイトの訃報を聞いた時、竜討伐に人生を捧げていた彼に対する弔いのつもりで、炎の洞窟の前にある祠にディエゴ・デトロイトが置き忘れていったバンダナをくくりつけたのだという。
そのバンダナは、彼が
「あれが
「なるほどなあ。お前は本当に賢い子じゃ」
何が、賢い子じゃ、だよ!
そのせいで、
そりゃあ、
「そのバンダナって、まだその祠にありますか?」
「ん? ああ、誰も動かしてはいないはずじゃが」
……見えたかもしれない、勝ち筋。
◇
「やっぱり私たち2人でいい」
「セイ、この期に及んでまだそんなことを言ってるのか」
僕達3人は、一列に並んで獣道をかき分けていた。先頭はエルさん、次に僕、最後がセイだ。
「もう型も作っただろ」
エルさんが背中に括り付けている木像をトンと叩いた。
「リュウに何かあったら取り替えしがつかない」
「お前は心配しすぎだ。リュウには少し離れた場所にいてもらうし、これが成功すれば100%勝てる」
「……」
セイが不服そうに黙り込む。
この作戦が、1番勝率が高いこともわかっているのだろう。
今回の僕達の作戦は名付けて『怒れる竜に宿敵をぶつけよう作戦』。
この作戦の
僕達は、彼を蘇らせて、
僕が死者を蘇らせる時、必要になるのは、土台と手がかり。
セイの時は、木像の土台に、手がかりとしてセイの形見のブレスレット、エルさんの時は、セイが作った水の土台に、手がかりとしてエルさんが使っていた万年筆を用いた。おそらく、手がかりの条件は、その人の生前に所持していた物であること。
洞窟の祠に飾られているというバンダナは、ディエゴ・デトロイトが村に置き忘れていって、いつかまた来たときに返そうと保管していたものらしい。つまり、彼の生前の持ち物だ。手がかりとして、使えるかもしれない。
土台に必要な条件はまだわかっていないが、一度成功しているので、木像を作ってみた。作ったと言っても、セイの時のように時間をかけて手彫りしたのではなく、ディエゴの写真を見たことがあるというエルさんの指示の下、セイが魔法でスパパッと木を削いでいた。
できあがった木像は今、エルさんが背負って運んでいる。精巧とはいえないが、彼の代名詞である大槍も含めて大枠は掴んでいると思う。
また、僕が蘇らすことができる死者の条件である、『強い未練』。これに関しては、祈るしかない。
ミルドランドでジャックさんから聞いた話の通りだと、ディエゴ・デトロイトもセイと同様の手口で殺害されたらしい。
当時、彼はまだ30歳だった。突然の誰かに殺されたんだから、未練を残さない方がおかしいとは思うけど……。
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