第33話 制限距離
「1回、試そう」
「試す?」
「リュウと私たちがどれだけ離れられるのか。それに、私の『
セイの『
もし、魔法自体も蘇らせた者の一部とするなら、セイの魔法発現範囲は制限距離に依存し、『
セイは僕と一緒に行動している時、クランハウスから2㎞以上離れた場所から、魔法でクランハウス周辺の様子を探知することができた。それが、制限距離内だったからなのか、魔法発現範囲に距離制限は関係ないからなのか、わからない。
2㎞以上離れても平気だとわかればできることも増えるし、逆にちゃんと知っておかないと、今後何か支障が出そうだ。
セイの言うとおり、1回調べた方がいいのかもしれない。
「でも、どうやって?」
「まず……」
セイの説明によるとこうだった。
1.エルさんが鳥になってひたすら真っ直ぐ飛んでいく。
2.それをセイが魔法で追跡する。
3.制限距離に達して、何かが起こる。
4.セイがエルさんを救出する。(その際、セイはエルさんより遠い位置で魔法が発現できるのか試す)
説明を聞き終えたエルさんは深くため息をついた。
「お前、私に体張る仕事を任せすぎだぞ」
「仕方ない、適任だから」
「……まあ、いい。必要なことだ」
エルさんは渋々といった感じで了承する。
いつも、すみません……。
「じゃあ、行こう」
「今からか?」
「早い方が良い」
「わかったから、待て。着替えてくる」
セイの言葉に、エルさんが後ろ手に髪をくくりながら部屋を出て行った。
今汚れ落としてきたばっかりなのに、ちょっと可哀想。
◇
というわけで、僕達はさっそく森に来ていた。
セイが探知して、周囲に人がいないことは確認済みである。
『
大きくて眼光が鋭い鳥の姿になったエルさんが飛び立ってから、少し時間が経った。
僕とセイの前には大きな四角い板のようなもの(スクリーンというらしい)があり、そこに鳥の後ろ姿が映し出されていた。これは、セイの見ているものを投影しているらしい。
エルさんの様子が気になってそわそわしていた僕を見て、セイが魔法で出してくれた。
最初見たときはびっくりした。こんな魔法聞いたこともなかったし。
仕組みはよくわからないが、この世界中で『
「鳥ってこんな景色を見ているんだね」
木が小さく見えて、空が近い。
エルさんは止まることなく飛び続けている。気持ちよさそうだ。
僕も1回くらい空を飛んでみ………。
「エルさん!?」
突然、スクリーンの中のエルさんが、消えた。
消えたというか、何かに弾かれたように後ろに跳ねて、画角から外れた。
「セイ!」
「わかってる」
映像の視点が、エルさんを探すようにぐるっと回った。
うっ、酔いそう……。
「見つけた」
スクリーンに映し出されたのは、羽を広げたまま力なく落ちていく
「
地面にぶつかる!といったすれすれで、鳥の体がふわりと浮いた。それからゆっくりと着地する。
どうやらセイが魔法でエルさんを助けたらしい。
ひやひやした……。
ぼんっと鳥の姿が煙で隠れたかと思うと、次の瞬間にはエルさんが胡座で座り込んでいた。
少し疲れた様子だが、無事なようだった。
エルさんは髪を解いて、頭をぶんぶんと振った後、立ち上がる。
それから数歩進んだ後、立ち止まると、こちらを見上げた。
どうやら、僕達がどこから見ているのかはわかっているらしい。
「何か言ってる?」
口をぱくぱくさせているので何か言っているようだが、音は聞こえないので、僕には内容はわからない。
「『どうやら、ここが限界のようだ。見えない壁があるかのように、ここから先は進めない』だって」
「つまり、さっきエルさんはその壁に勢いよくぶつかったってことだね」
「『私は自分で帰れるから、お前はやるべき事をしろ』だって」
「そっか……歩いて帰ってくるとしたら、だいぶ距離あるね。大丈夫かな」
エルさんの『
エルさんによると、鳥化エネルギーというのがエルさんの中にあって、鳥化にはそれを消費するらしい。
鳥の大きさやスペックによって必要なエネルギー量が変わり、エネルギーは時間経過で回復する。エネルギー0の状態からMAXまで溜まるのには丸一日かかる。『
余力を残すためにも、1回鳥化したら、一定時間は空けるようにしているらしい。
「ちょうど10㎞」
制限距離は半径10㎞。僕のスキルで蘇らせた者は、物理的に僕からそれ以上の距離を離れられないらしい。
これがわかったのはかなりの収穫だ。
10㎞もあればかなり自由に行動できるし、『制限距離を超えたら消滅する』というわけでもないからそんなに恐れなくてもいい。
スクリーンの映像が動き出す。制限距離と魔法発現範囲に関係があるのか調べるようだ。
この映像はセイが視力増強の魔法を使って見ている景色。つまり、この映像が10㎞よりも先の視点でも途切れなければ、セイは制限距離外でも魔法を発現させられるということになる。
「……超えた!」
エルさんが『限界』と言ったラインを超えた。
映像はどんどん奥へと進んでいく。何かに阻まれる様子はない。
「魔法は使えるんだね」
「うん、そうみたい」
セイのスキルの強みは『どんなに遠い場所でも』魔法を発現させられること。それが制限されていないのはよかった。
魔力量が多い人でも、魔法を発現できるのは1㎞が限界と聞いたことがあるので、制限距離内でも大きな強みではあるんだけど。
「じゃあ、エルさんが戻ってくるのを待とうか」
「それまで、狩る」
「え、何を?」
「上から食べられそうな動物が見えた」
セイはそう言うと、再び瞳を水色に輝かせた。
スクリーンに映し出されたのは、上から見た僕達の図。
驚いて後ずさった僕もしっかり映し出されていた。
視点と思われる場所を見上げると、一瞬何かがきらりと光った。よく見ると、小さい水色のガラス玉のようなものが浮いている。なるほど、あれが視点らしい。
ガラス玉がスッと動き出す。
スクリーンに目を向けると、ぐるぐると視界が回っていた。獲物を探しているようだが……。
「うっ……」
じっと見てると気持ち悪くなってきた。
「リュウは休んでなよ」
「……うん、ごめん」
木により掛かって座る。
胸がぐるぐるする……。
おかしいな、乗り物酔いとかするタイプじゃないのに。依頼のために早起きしたから、疲れが溜まってたのかも。
目を閉じて気持ち悪さに耐えていると、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます