第27話 復讐相手
『いいか、セイ。今回はディノ・スチュワートの顔を確認するだけだ。大人しくしてろよ』
クラン総会には僕とセイが参加するということが満場一致で決まった後、エルさんが放った一声に、セイは淡々と答えた。
『なんで? やられっぱなしは性に合わない。少しは痛い目にあってもらう』
『失敗したり、素性がバレたりしたら、私たちは終わりだぞ』
『失敗しないし、バレない』
セイの性格上、想定はしていたが、セイはクラン総会でディノ・スチュワートに一発お見舞いするつもりだったらしい。
確かに、セイのユニークスキルなら、バレないように攻撃することは可能かもしれないけど……。
『セイさん、あなたが強いのは知っていますが、彼が『
『エルさんとネオの言う通りだと思う。それに、ディノ・スチュワートはユニークスキル『
セイ曰く、ディノ・スチュワートのユニークスキルは『
一人の人間が2つのユニークスキルを持つことなどあるのだろうか。それとも、どちらかが嘘?
わからない。魔女に聞いたら、教えてもらえるだろうか。
『……わかった。今回は確認するだけにする。でも、なかなか表に出てこないんでしょ? 次の機会はいつ?』
『今のところ、クラン
クラン
『それって、国内ランク10位までに入らないといけないんだよね? 1年後ってこと?』
僕の疑問にエルさんが答える。
『クラン
『ということは、僕達にもチャンスがあるってことですか?』
『理論上はな』
エルさんの説明に、ネオが付け足す。
『クラン
『じゃあ、結局は来年の国内ランクで上位を狙って、知名度を上げるしかないってこと?』
『そうなるかな……』
場が静まる。
接触するだけでもこんなに難しいなんて……。
『それを待つくらいなら、直接『
セイの呟きに不穏なものを感じて、慌てて言いつのる。
『いやいや、世界一のクランだよ!? ユニークスキル持ちだってわんさかいるだろうし、死にに行くようなもんだよ!』
『もう死んでるし』
確かに……。
『私たちはいいが、ユニークスキルのことがバレたら命を狙われるのはリュウだぞ』
『……』
エルさんの言葉に、セイは考え込むように黙った。
目には目を歯には歯を、のセイが僕なんかのことを考えて……。
『ただでさえ吹けば飛ぶようなナリなんだ。狙われたら一瞬で殺される』
『そうだね』
『そこで納得しないでよ!』
なんだろう、凄く悔しい。
『僕だって……!』
でも返す言葉もない。
『まあまあ、落ち着いて。敵の
『……うん、わかった』
という感じで、話がまとまった(?)のだった。
こうして会場に来てみると、強そうな人や個性的な人ばかりで、僕達がこの中で10位以内に食い込むなんて到底無理な気がしてくる。
「11位、『
では、これから上位10クランの発表と、表彰を行います。本日、公用にてエドワルド国王陛下がご不在のため、代理としてアリエス王女殿下が直々に賞状をお渡しになられます」
司会者の言葉が終わると、会場の奥の扉が開き、その中から豪奢な赤いドレスを纏った婦人が優雅な足取りで歩いてきた。両隣には護衛がついている。口元は白いレース布で覆われていて見えなかったが、目元は柔らかく笑んでいて、さぞかし美しい人なのだろうことはわかった。
王族って初めて見たけど、なんか貫禄あるなあ……。
王女殿下がステージ上の所定の位置に立ったことを確認すると、司会者は発表に移った。
「名前を呼ばれたクランの代表者1名は、ステージの上に移動してください。では、発表します。10位、『
「はい」
茶色のカウボーイハットを被った男性がステージに上がる。
「10位 『
王女殿下の声を聞きながら、会場内を見渡す。
「……まだ来てないよね」
「うん……でも、足音がする」
「えっ……?」
セイの言葉が気になって耳を澄ましてみるが、司会者の声と周囲の人の会話しか聞えなかった。
お面をしていると顔が見えないので、セイがどんな表情をしているのかわからない。
まあ、顔見たってセイが何考えてるのかなんてわからないんだけど。
「9位 『
淡々と進んでいき、次は4位の発表となった時。
コン コン コン
硬い音が、会場内に響いた。
「……やっとお出ましかよ」
「しっ、聞こえたらまずいよ」
もしかして……!
近くにいた人の囁き声に、音のする方向、会場の入り口の方を振り返ると……。
入り口から、コンコンと足音を響かせて、一人の男が悠々と歩いてきていた。
「4位
もうこの場の誰も、ステージになんて注目していない。司会者の声を聞きながら、王妃殿下よりも遅れてきた参加者を目で追う。
白に金の装飾が施されたマントを羽織り、同色のベストにズボンという服装。厚底のブーツが、この足音を演出しているようだった。
長身に、均整の取れた体つき。色素の薄い髪と、まるでどこかの王子様のような甘い顔立ちは、暗い会場内でもよく見て取れる。
圧倒的な存在感。
間違いなく、この人が、ディノ・スチュワート。
「ディノ様よっ!」
「今日もかっこいいわあ」
女性達のうっとりとした声が聞こえてくる。
……うん、間違いないみたい。
世界一のクランのリーダーで、イケメンとか……。
「チッ」
「えっ」
僕じゃないよね?
確かに不公平すぎるとは思ったけど、態度に出してないよね?
「あいつ……!」
隣から、怨念の篭もったような声が聞こえて、恐る恐る視線を向ける。
そこには、ディノ・スチュワートを凝視して、手を震えるほど強く握りしめてるセイがいた。
「セイ、やっぱり」
「間違いない」
今にも飛びつきそうなほど怒りの篭もった声に、セイのマントの裾を掴む。
「それが確認できたんなら……」
今日は一旦退こう、そう続けようとした時。
ディノ・スチュワートがふとこちらに視線を向けた。
まさか、聞こえた……?
いやいや、こんなに離れてるし。仮に聞こえてたとしても、バレるような会話はしてないし。
うん、ただ目が合っただけだ。
そう結論づけて、平静を装うが……。
「えっ……?」
ディノ・スチュワートはそのままこちらへ歩みを進め始めた。
なんで? こっちステージじゃないよ?
さりげなくセイのマントを引っ張って、彼女を後ろに隠す。万が一にでも、セイの素性がバレたらまずい。
ディノ・スチュワートは迷いなくこちらに向かってくる。
どくんどくん、と心臓が荒立つ。
人が道を開けるように捌けていき、ついに、すぐ目の前まで来た。
宝石のような紫色の瞳で、じっと、僕達を見下ろしている。
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