第21話 万病を治す血を持つ鳥
壮年の男性と僕達3人は、ギルドの2階の休憩スペースに座って向かい合っていた。このギルドは驚くほど人が少なくて、2階には僕達しかいない。
「娘が病気になったんです……」
デビット・モーリアと名乗った男性が、落ち込んだ様子で語った内容によると、こうだった。
デビットさんは下級の貴族らしい。年老いてから授かった現在16歳の娘さんがいて、奥さんは娘さんを産んだときに亡くなったのだという。
貴族と言っても、名前だけといった感じで、デビットさんは娘さんと住み込みの使用人1人の3人で、慎ましやかに暮らしていた。
しかし、半年前に娘さんが倒れてしまった。
最初は娘さん自身も「大丈夫、たいしたことない」と言っていたが、それから徐々に病状が進行し、1ヶ月後には寝たきりの状態になってしまった。
主治医に聞いても原因がわからなかったため、デビットさんは国中の医者を頼ったのだという。
その結果、娘さんが寝たきりになってから1ヶ月経った頃、やっと病名がわかった。
「
「はい。魔力の循環に問題が生じて魔力消費が増え、魔力を回復するために眠り続ける病だそうです……娘は、今では一日に1時間も起きていられません。日に日に、魔力消費が大きくなっているようです」
このまま睡眠による魔力回復よりも魔力消費が上回るようになると、魔力が枯渇し、生命エネルギーを魔力回復に回すようになって、いずれ死に至るのだという。
「この病気を直す方法はまだわかっていません。でも、あの、不治の病も治すという薬なら……」
「
エルさんの呟きに、デビットさんは縋るように視線を上げた。
「そうです! もうそれしか娘を救う方法は……」
その血はどんな病をも治し、飲んだ者は永遠の命を得られるのだという。
「でも、それっておとぎ話じゃ……?」
そんなもの本当に存在するのだろうか。
「馬鹿げていると思いますよね……。どこのクランにも断られてしまって」
「えっ、いや、馬鹿げてるなんて……!」
デビットさんの『娘をなんとしてでも助けたい』という気持ちは痛いほど伝わってくる。そんなデビットさんを馬鹿にしたクランがあったのだろうか。
「いいんです。こんな依頼なのに、報酬も十分に用意できなくて。情けない限りです」
話を聞く感じ、もともとそんなに裕福というわけでもなかったようだし、娘さんの医療費も相当かかっているだろう。どうにかならないだろうか……。
「……わかった。その依頼、私たちが受けよう」
「「え……?」」
エルさんの堂々とした言葉に、僕とデビットさんの声が被る。
え? 本気……?
「本当ですか!?」
「ああ。任せておけ」
「エルさん!?」
デビットさんを助けたい気持ちはわかるけど、そんな簡単に受けていい依頼なのだろうか?
僕達は2週間で家を買う資金を集めないといけないわけで、そもそも
「軍人として、見て見ぬふりはできない。それに……」
エルさんはニヤリと笑った。
「鳥は私の専売特許だ」
そういえば、そうでした……。
◇
「エルさん、
「いないといえば、いない。いるといえば、いる」
「どういうことですか」
「よく語られる不死鳥は、炎をまとい、
「……でも僕達は、その鳥がいる場所に向かってるんですよね?」
僕達は今、エルさんを先頭に山道を進んでいる。
デビットさんの依頼を受けた昨日、エルさんはギルドで買ったベリージェの地図としばらく睨めっこをした後、「ここに行くぞ」と北の山を指したのだ。一日かけて万全の準備を整えて、今日ここまで来たのだった。
ちなみに昨日の夜遅くに帰宅したネオによると、ベリージェ都市部の建物つき土地の相場は30~50万エタ。気が遠くなる金額だ。
郊外になるともう少し下がるそうだが、
1ヶ月後のクラン総会に行くためならば場所を選んではいられないが、郊外でも最低15万エタは必要らしく、どちらにしろ今の僕達の貯蓄では到底手が出ない。
ちなみに僕達は、ネオと3人で一時期4万エタまでは貯めたが、ミルドランドからベリージェまでの旅費と2週間分の宿代、装備費などで、残っているのは約3万エタ。全く足りない。
そもそも、2週間でそんなに稼ぐなんて普通に考えて無理……。
さらに言うと、エンブレムと制服の制作に、合わせて1万エタくらいかかるらしい。
つまり、クラン設立のためには今から最低でも13万エタ集めないといけない……。
ちなみに、仮に2週間以内に間に合わなくて、クラン総会を逃してしまった場合、次にディノ・スチュワートと接触できる機会は『クラン
つまり、クランを作った上で、そのクランを国内で10本の指に入る規模に押し上げなきゃいけないらしい。
いやいや、もっと無理。
なにはともあれ、僕達が早急にお金を稼がなきゃいけないのには変わらない。とりあえず、デビットさんの依頼を確実にこなさなくては。
僕はあんまり役に立てなさそうなんですけど……。
「伝説上の
「えっ……」
「名前は
「それ、どうやって捕まえるの」
セイの質問に、エルさんは立ち止まった。
その視線の先を辿ると、岩壁がある。見上げると、岩で出来た山がそびえ立っていた。その頂上はかなり高く、細い。ここからでは詳細が見えないほどだった。
え……もしかして、ここにいるの?
「セイ、お前にも手伝ってもらうぞ」
エルさんの作戦は、『
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