第19話 会えない!?

 それから5日。長い船旅を経て、僕達はやっとベリージェに到着した。

 そして、しばらく滞在するための宿屋を探し回った末、比較的安価に長期間部屋を借りられる宿屋を見つけた僕達は、やっと落ち着いて腰を下ろすことができた。


 今は今後のことを話し合うために集まっている。ちなみに部屋は2人用を2部屋取っていて、ここは僕とネオの部屋である。


「ディノ・スチュワートに会えない!?」


 エルさんの言葉に驚いて、思わず大きな声を出す。


 近所迷惑……あっ、セイが万が一のために防音の魔法をかけてくれてたんだった。よかった。


「どういうこと?」


 セイの質問に、エルさんが「お前達、そんなことも知らなかったのか」とため息をついた。


「ディノ・スチュワートは滅多に表に出てこない。おそらく、あの本拠地クランハウスにいるのだとは思うが……」


 ベリージェの港に着いたときに、真っ先に目についたのが、高台にある大きなお屋敷だった。小さい国の王城かと思うくらいに、立派な建物だ。実は、それが『勝者のクランウィナー』の本拠地クランハウスだったらしい。


 さすが世界ランク1位……。


 あそこからだったら、この国の大体が見渡せそうだ。敵地に踏み入ってしまったということをまざまざと感じた。


「あのお屋敷に行ってみるというのは」


「危険すぎるし、第一、身元も知れない人間を入れるとも思えない。不審に思われるだけだ」


「そうですよね……」


 なんとなく、ベリージェに行けば、ディノ・スチュワートに一目でも会えると思っていた。そうすれば、セイの仇かどうかははっきりする。まさか、会えもしないなんて……。

 完全に想定外だった。


「ディノ・スチュワートはどういうところになら現れるんですか?」


「主に、『勝者のクランウィナー』のクラン長リーダーとしての仕事や会合がある時だと聞いている」


「なるほど……では、方法はひとつですね」


「「方法?」」


 ネオの言葉に、僕とエルさんの声が被る。


「私達も、んです」


「え?」


 思わぬ言葉に、素っ頓狂な声が出る。


「ディノ・スチュワートがクラン関係の行事にしか顔を出さないのなら、次の機会チャンスは1ヶ月後のクラン総会です」


 クラン総会。なんとなく聞いたことはある。


 国ごとに、すべてのクラン代表者達が集まる会のことだ。確か1年に1回開催されるはず。


「あの会には、例外なくすべてのクランが招待されます。クランを作れば、必ず出席できます。それに、ベリージェのクラン総会には王も出席するらしいので、この国の顔である『勝者のクランウィナー』の長が欠席するとは思えません」


 ネオの説明には説得力がある。

 確かに、僕達が確実にディノ・スチュワートに会える手段はそれくらいしかないのかもしれない。でも……。


「クランってそんなに即席で作れるの? 僕達、4人しかいないけど」


 クランについての知識があまりにもなさ過ぎてわからない。

 そもそも、僕達は4人の内、2人が死者なわけで……。


「クランのメンバーについては、長と副長以外は申請しなくて大丈夫。それ以外については、各クランの自己管理に任せるっていう形になってる」

「そんなに緩いの?」

「クランはそれで一つの組織だから、責任者の所在さえわかればいいんだ」

「そうなんだ。ネオ、詳しいね」

「クランは軍の管轄だからな」


 エルさん曰く、クランがトラブルを起こした場合、仲介するのはその国の軍になるそうだ。仲介と言うより、事実確認をして、懲罰を与えるらしい。ミルドランド軍の中には対クラン取締部というのも存在していたという。


 もともとクランは、自分たちで「クランです」と名乗ればその時点で成立していたが、クラン絡みのトラブルが続出したために、世界中で、『軍に申請したクランのみが活動可』という制度になった。そのため設立の際には、クランが問題を起こした時に、軍がどこのクランなのかを判別し責任の所在を求めるための最低限の条件を満たす必要があるのだという。


 へえ。全然知らなかった。


「具体的には、クラン申請には、長と副長の他に、クラン名、クラン印エンブレム本拠地クランハウス制服ユニフォームが必要です」


 ネオの説明によると、こうだった。

 クラン名はいいとして、クラン印エンブレムとは、見ただけでそのクランだとわかるようなマークのこと。

 本拠地クランハウスとは、依頼者クライエントとやり取りしたり、構成員が待機したりするための建物、または部屋。

 制服ユニフォームとは、クランとして活動する際に構成員が身につける共通、または類似した衣服、または小物。

 本拠地クランハウスにはエンブレムの入った旗を立てないといけない、クランの構成員は制服の他にクラン印エンブレムの入った紋章を右腕のあたりにつけなければいけない、という決まりもあるらしい。


「それを、1ヶ月以内に準備しなきゃいけないってことだよね……」


 この地に来たばかりの僕たちがそんなことできるのかな。


 一番の問題は本拠地クランハウスだ。広さとかにどういう規定があるのかわからないけど、家を買うほどの貯蓄はないのは確かだ。


「審査に1週間、クラン総会に招待されるには最低1週間の活動歴が必要だから、正確にはあと2週間くらいかな」


 ……それ、もう無理じゃない?


「他に方法もないんだ。やれるだけやってみようじゃないか。それでいいか?」


 エルさんの視線が僕とセイに向く。


 確かに、他にディノ・スチュワートに会う方法は思いつかない。


「はい」

「それでいいです」

 それから僕達は、エルさん主導のもと、クラン設立計画(2週間)を練ったのだった。

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