第20話 空神珠と雷神剣

新田組

大手警備会社、新田警備保障を傘下にもつ新田組では、オーナーであり組長の新田義忠がこれからのことについて悩んでいた。

「果たして、誰につくべきか。我が主家である南方財閥の跡取りと確信していた桐人様はあの有様だし、今から勇人様に取り入るにしても、今まで蔑ろにしていた我々を許してくれるだろうか。正人様は彼のことを後継者として認めないだろうし……」

そう思い悩む義忠を、舎弟頭の北畠信康が慰めた。

「まあまあ、おやっさん。過ぎたことをいっても始まりませんぜ。それに、桐人にもしても勇人にしても、どっちもひょろい坊ちゃんだ。あんな奴らに取り入っても、いいことはありませんぜ」

「うむ……では、どうすればいいと思う?」

そう返す義忠に、信康は自信をもって答える。

「幸い、南方家の当主であるジジイは俺たちの手の中だ。ジジイを押さえておけば、南方家なんて何とでもなるだろう」

「そ、そうか。そうだな」

信康に諭されて、義忠もうなずく。

「だ、だが、後継者に取り入ってやがては南方家そのものを乗っ取るといった計画は破綻してしまった。これからどうすれば……」

義忠の悩みを、信康は笑い飛ばした。

「心配いりやせんぜ。桐人の奴はネットで叩かれて後継者の地位を失ったも同然だし、勇人は無能な屑だ。ジジイを押さえているかぎり、正人の野郎だって俺たちに逆らえねえ。こうなったら、屋敷に送り込んでいる達夫たちに命令して、財産を差し押さえてしまおうぜ」

そういって高笑いしたとき、下っ端の組員が慌てて飛び込んできた。

「お、親父。大変です。屋敷に派遣していた執事たちが……」

「何事だ、騒々しい」

「と、とにかく来てください」

組員に連れられた義忠たちが見たものは、血まみれで担ぎ込まれた堂満達夫だった。

「た、達夫、どうしたんだ!何があった!」

仰天した義忠が必死に問いただすが、達夫は何事かぶつぶつつぶやくだけでまともに答えられなかった。

「誰にやられた」

「へ、へえ。実は、勇人の奴をしつけてやろうとしたら、返り討ちにあってしまって……」

信康に聞かれて、怯えた様子の執事たちは屋敷での惨劇を詳しく話した。

「馬鹿な……勇人がそんなことをしたなんて。いったいあいつに何が起こったのだ」

幼いころから知っている勇人の凶行に、義忠は怯えるが、信康はむしろ闘志をもやす。

「面白れぇ。お坊っちゃんが捨てられそうになって追い詰められてから、とうとう本気をだしたってか。叩き潰してやるぜ」

信康はそうつぶやくと、義忠に告げる。

「親父。俺は源人のジジイの警備につく。勇人は必ず取り返そうとするはずだからな。組員をつれていくぞ」

「あ、ああ。だが、くれぐれも気をつけてな」

信康はニヤリと笑うと、組員を引き付けて源人が入院する病院に向かうのだった。



「よし。それじゃ早速爺さんを助けにいくか」

屋敷を制圧した勇人は、正人が海外から戻ってくる前に祖父を救出して財閥の実権を取り戻そうとする。

「ですが……病院は正人に雇われた新田組の組員たちが警護しています。お坊ちゃま一人では……」

心配する正盛を、勇人は笑って宥めた。

「大丈夫だ。この『三種の神宝』が俺の身を守ってくれるだろう。爺は屋敷をしっかり守っていてくれ」

正盛に後のことを任せ、勇人は執事たちに車を運転させて祖父が入院している病院に来る。そこは目つきの悪い黒いスーツを着た男たちがうろついていた。

「あれが正人に従っている新田組か?」

「は、はい。俺たちみたいに屋敷に派遣されたチンピラじゃなくて、武闘派の兄貴たちで構成させた部隊が駐留しています。あの、特に舎弟頭の北畠の兄貴は、族時代に関東を支配した伝説のヤンキーで……」

車を運転していた執事は、びくびくしながら答える。

「ふん。使えねえな。お前は屋敷に戻っていろ」

そういいおいて、勇人は車を降りる。そしてそのまま病院の受付に向かった。

「南方源人の見舞いに来たんだけど、病室はどこだ?」

そう聞かれた受付の事務員は、どこか怯えた表情で答えた。

「南方様は現在面会謝絶です。それに、その……」

「坊っちゃん、何の用だい。爺さんはお前みたいな坊主に会わねえ。さっさと帰るんだな」

黒服の男が寄ってきて、勇人を威嚇した。

「俺は源人の孫だ。見舞いに来て何が悪い?」

「ああ、正人様から話にはきいているぜ。ろくでなしの無能なおぼっちゃんだってな」

ギャハハと笑いながら、集団で勇人を取り囲む。

「どうせ爺さんに泣きつこうって魂胆だろうけど、諦めな。もう奴はすぐにでも死ぬだろうぜ」

「なるほど。親父は爺さんをこのまま死なせて、南方家の実権を握るつもりか。なら、ここは無理やりでも面会といこうか」

そうつぶやくと、勇人は胸元の玉に手をふれる。次の瞬間、八つの枝刃がついた剣が玉の中から現れた。

「な、なんだその剣は、どっから出した」

「ああ。この玉は『空神珠』といって、異空間が封じ込められている。その中に大量の物を入れて持ち運びできるのさ。デーモン星人たちの文明の利器の一つだ」

勇人は剣を振りかざし、黒服たちと対峙する。

「ちっ。変な手品使いやがって。だが、なんだその不格好な剣は。おもちゃかよ」

筋骨たくましい男たちがあざわらう。たしかに勇人が持つ剣は、段違いに4本ずつの枝刃が邪魔して実用的には見えなかった。

「これは『雷神剣』といって、切るための剣じゃない。この枝刃は、天から迸る稲妻を現しているんだ。この剣を『魔人類』である俺が持つと」

剣が輝きだし、八つの枝刃から電が迸る。

「こうやって、俺の力を大幅に引き出してくれるんだ。『地震雷』」

剣を床に突き刺すと、放たれた雷が床を伝って拡散し、病院の廊下を覆いつくす。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ」

黒服を着た男たちは絶叫と共に、まとめて打ち倒された。

「で、爺さんの病室はどこだ?」

男たちをまとめて倒した勇人は、呆然としている受付の職員に聞く。

「ひ、ひいっ。最上階の特別室です」

受付の職員は、震えながら指をさす。

「そうか。面倒かけたな」

そういって勇人は去っていく。後に残された職員は、慌てて連絡をいれた。

「し、侵入者です。南方様の病室に向かっています」

「なんだと!」

連絡を受けた組員たちは、最上階に集まって迎撃態勢をとるのだった。

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