第5話 未確認人工衛星ブラックナイト
「おーい。南方勇人、生きているー?」
可愛らしい声が響き渡り、勇人はゆっくりと目を覚ます。
いつのまにか、彼は透明なカプセルに入れられていた。
「ここは……?」
「君たちの間で、未確認人工衛星(UAS)ブラックナイトと呼ばれている船の中だよ」
謎の声はそう告げる。気が付くと、透明なカプセルの周囲は見たこともない機械で囲まれた部屋に運ばれていた。
カプセルの横には、白衣を着た眼鏡をかけたロリッ娘が心配そうに勇人をのぞき込んでいる
「き、君は誰だ」
「落ち着いてよ。危害は加えないよ。僕の名前はサタン。地球から数千光年離れたデーモン星からやってきた、宇宙人だよー」
サタンと名乗った少女は、彼らの種族について話し始める。それによると、彼らは地球から数千光年離れたデーモン星の知的生物だったが、彼らの間違った方向に進んだ文明が原因で太陽が超新星爆発を起こして消滅してしまったため、魂を結晶体にインストールして宇宙の放浪者になったそうだ。
そして新たな新天地を地球と定め、刻一刻と地球に近づいているという。
「僕たちは、このブラックナイトにのって先発隊としてやってきたんだ。もう一万三千年も前から、人類の文明を指導するために頑張ってきたんだよ」
スクリーンに、人類の文明を発展させるのに貢献したと呼ばれる人物たちの姿が浮かび上がる。哲学者のプラトンや蒸気機関を発明したジェームズ・ワット、発明王エジソン、電気工学の父二コラ・テスラなどの偉人の姿が浮かび上がり、彼らがデーモン星人から啓示を受けたことが明かされた。
「なんのために、人類の文明を発展させているんだ」
「僕たちの仲間が太陽系にたどり着いた後、快適に過ごすためだよ。移住するにしても、未開の地にテントぐらしというわけにはいかないでしょ。ちゃんと文明というインフラを整備しておかないと」
サタンはそういって笑う。あまりに壮大な話に、勇人は恐怖に震える
「ち、地球を侵略するつもりか」
「侵略じゃないよ。移住だよ。そもそも僕たちの本来の肉体は、間違った方向に文明を進めてしまったせいで、超新星爆発が起きるはるか前に滅んで魂だけになっているんだ。新たな肉体を手に入れるには、地球霊域に同化して人類として生まれ変わるしかないんだよ」
サタンはそういって、寂しそうな顔になった。
「本来の肉体って……その体は?」
「ああ、僕たちが新しく転生するための新たな肉体として、人類を品種改良してつくりだしたんだ。僕のタイプは頭脳に特化した『智人類(ブレイン)』と呼ばれているよ」
ロリ眼鏡白衣のサタンは、自慢そうに自分の身体をみせびらかす。とりあえず侵略ではないと聞いて、勇人は胸をなでおろした。
「文明を発達させるためって、地球はそんなに未開なのか?」
「まあ、僕たちの目からみたら、地球は文明レベル1にも達していないからね。その証拠に、地球上ですら海や地中を充分に開拓できてないじゃん。せいぜい今の文明レベルは0.7といったところかな」
その言い方に勇人はむっとするが、宇宙を旅することができるほどのデーモン星人の文明の高さに、何も言い返せなくなる。
「僕たちデーモン星人の霊体は、77億人分にも及ぶんだ。さらにデーモン星の動植物の霊体まで合わせると、とても現在の地球の限られた部分しか可住領域がない地球では、転生を受け入れるだけの生体キャパシティは足りない。だから君に頼みたいことがあるんだ」
サタンはそう言って、真剣な目で勇人を見た。
「僕たちの仲間が地球に到着するまでに、文明レベルを1以上に引き上げて、太陽系を開拓しておいてもらいたいんだ。それはあのお方の目的にも合致するしね」
「あのお方?」
デーモン星人よりさらに上の存在がいるのかと思い、勇人の背筋が寒くなる。
「うん。偉大なる地球の真の支配者だよ。僕たちはあのお方の許可をもらって、太陽系に移住することになったんだ。感謝して協力しないとね」
サタンの言葉には敬意が表れていた。
「なんで俺に?自分たちですればいいだろ」
「もちろん。最初はそうしようと思っていたさ」
サタンは寂しそうな顔になる。
「魂だけになって地球にやってきた僕たち乗組員は、最初12人いたんだ」
映像が切り替わり、空中に12体の結晶体が浮かび上がる。しかし、それらはすべて光が失われて、黒く濁っていた。
「僕たちは『12使徒』を名乗り、新たな人類を生み出すためにそれぞれ研究を重ねていた。でもそのうち、一人また一人と自分達が産み出した亜人類たちに転生して地上に降りて行ってしまった。その後、デーモン星人としての使命を忘れてしまったのか、誰も帰ってこなくて、とうとうブラックナイトに残ったのは、僕一人だけになったんだ」
サタンの寂しそうな声が、響き渡る。
「なんでお前は地上に降りなかったんた?」
「それが、僕たち『智人類(ブレイン)』の初期タイプは脳に機能を全振りしすぎちゃったから、地上で生活したら脳が酸素不足を起こしてしまったんだよね」
空中にまた別の映像が映る。そこには、頭だけが巨大化した人間の体がカプセルに入れられて保存されていた。
「僕は研究を続け、脳の必要のない情報をブラックナイトの記憶メモリに移すようにして脳の容量を減らしたんだ。そうしておいて、記憶メモリと精神波で繋げることで必要な時に情報を取り出せるように改良した。これでやっとバランスが取れた肉体を作り出したんだけど、今度はそのせいで成長が途中で止まるようになったんだよ。まあ、可愛いからいいけどね」
サタンはそういって、自分のロリ体型を指さした。
「こんな小さくてかよわい可愛い女の子が、ひとりで野蛮な地上に降りたらどうなると思う?怖いから、一万年もの間クローン転生を続けてずっと引きこもっていたんだよ」
「引きこもり宇宙人か……それはわかったが、なぜ俺にお前の代わりに地球を開拓してほしいんだ」
勇人の問いかけに、サタンは薄く笑った。
「僕たちは人類社会を常に監視しているんだ。君はある特別な血筋を引いている大財閥の息子で、人類の文明を推進するのに都合がいいんだよ。君の血の権威と南方財閥の財力、それに僕が提供するデーモン星人の技術と『電脳意識(サイバーセンス)』の能力が合わされば、必ず地球を開拓できるだろうね」
スクリーンに二重らせんの構造が表れ、それに細かいウイルスのようなものが侵入していく画像が浮かび上がった。
「電脳意識?」
「さっきいった僕が開発した能力だよ。電気エネルギーを意識的に操作できる能力だ。これを使えばいつでもブラックナイトから知識をダウンロードできるし、すべての電子機器も制御できるようになるよ」
「要はインターネットみたいなものか」
それを聞いて、勇人は納得する。
「他にも、僕たちが新人類用に開発したいろいろな能力を基礎的な能力として付与するから、君には僕が作り出す新しい人類になってほしい」
ウィルスを取り込んだ二重らせんがバラバラになり、人間の体にインストールされていく。やがて、悪魔のような姿に変化していった。
「そして子孫を大量に増やし、僕たちの仲間が地球に到着する数百年後までに、最低でも月のテラフォーミングは終えていてくれ。できれば火星や金星まで開拓してくれていると、ありがたいよ」
その申し出に、勇人は考え込む。
「……もし、断ったら俺はどうなるんだ」
「どうもしないさ。ただ記憶を消して陸地に送り届けるだけ。だけど、今の君では人類社会に戻っても、居場所がないんじゃないかな?無力な人間としてつまらない一生を送るだけだよ」
そういわれて、勇人は今まで虐待されてきたことを思い出す。自分に優しかったのは祖父だけで、桐人が現れてから父も妹も婚約者もクラスメイトも自分を見下し、バカにしてきた。
「……わかった、お前に協力しよう」
その言葉と同時に、勇人の全身に何かが入ってくる。こうして勇人は悪魔(サタン)と契約したのだった。
人工衛星ブラックナイトの内部には、何重層にもおよぶ居住区域がある。
その中の広い運動場のような場所で、すさまじい速さで走っている人影がいた。その表面には、薄い電流が縦横無尽に奔り、ほのかに発光している。
「運動神経を制御する電気信号をマニュアル化した結果、反射速度と力は通常人の五倍ほどになったよ」
広場に弾んだ声が響き渡り、人影は走りを止めて空を見上げる。空中には人体図が浮かび上がり、様々なデータが表示されていた。
「さらに、身を守れるように基本的な格闘技のスキルもダウンロードしておいたよ。特殊な武術は無理だったけどね」
「ああ、ありがとう。俺は本当に生まれ変わったんだな」
その人影ー勇人はしみじみと実感する。サタンの進化プログラムを受け入れて肉体改造した結果、外見すら変わっていた。
全身の筋肉をマニュアル操作することで最適な位置に配置することで、小太りだった体は引き締まって細マッチョとなり、今まで緩んだ顔だったのがイケメンとなっている。
そして、頭頂部からは柔かい二本の突起が生えており、背中には蝙蝠のような翼が生えていたいた。
「この触角は普段は小さくなっているけど、体内の電気エネルギーを与えれば勃起して電磁波を発することができるよ。おまけに空もとべるようにしておいたから」
「それはありがたいが、外見はもうちょっとどうにかならなかったのか?」
自分の姿を確認して、勇人は苦笑する。彼の姿は、物語にでてくる悪魔そのものだった。
「しかたないじゃん。いろいろ考えた結果こうなったんだから、僕のセンスにケチつける気?」
サタンは可愛らしく頬をふくらませる。
「だけど、この姿じゃ人間社会に潜んでいられないぞ」
「仕方ないね。サービスで変身機能もつけるよ」
勇人の身体に新たな機能を持ったウイルスが感染していく。急速に悪魔の肉体が縮んで、元の人間の体に戻っていった。
「これで肉体改造は終了だよ。それじゃ、新たな人類としての名前は何にする?」
そう聞かれて、勇人は考え込む。
「そうだな。デビル〇ンは有名な漫画で使われているから、『魔人類(デモンズ)』にしよう」
勇人は満足げにつぶやくのだった。
「それじゃ、南方家の屋敷に戻そうか?」
そういわれて、勇人は首をふる。
「いや、新しく得た能力の確認を兼ねて、奴らに復讐してみよう」
勇人の思念に反応して、空中に画像が浮かぶ。そこには、太平洋を悠々と航海するエストラント号が映っていた。
「待っていろよ。俺を殺そうとした外道どもめ」
勇人は静かに精神を集中させる。彼の身体から出た電磁波が、エストラント号を包み込むのだった。
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