第7話坂本凪と友だちとメッセージ
辻晴香との映画鑑賞は、とてもとても楽しかった。ちゃんと映画に集中できるのだろうか、なんて考えていたけど、見た映画が素晴らしすぎて、すぐに画面に吸い込まれた。そして、ふたりで映画を観終わった後は、お互いに興奮気味で、ファミレスで映画について語り合った。
友だちみたいだ。なんてことのない、普通の友だち。
興奮からさめ、自分の部屋に帰ったあと浮かんだ言葉は、俺の心の柔らかい部分を少し傷つけた。
「なんかさー」
映画を見た数日後、久々に野田、斉藤、小西といういつものメンツで昼食を食べていた。するとジュースに突き刺さったストローを咥えていた小西が、唐突に声を上げた。
「最近、坂本、辻と仲いいよな」
小西は何の気なしに言っているようだったが、その言葉は俺の心臓をどくりと嫌な感じに音立てさせた。
「そうか?バイト先でたまに話すくらいだけど」
「だって、辻と接点なんてなかったじゃん。そもそも、俺らみたいな男ばっか理系の工学部と、学校中の人気者辻晴香が話すってだけでもイレギュラーすぎだろ」
「だから、バイトで話すようになったんだって」
小西が俺を責め立てているわけではないのに、俺はちょっとむきになって言い返した。
「坂本、スマホ光ってるぞ」
俺の苛立ちを感じたのか、斉藤がすっと話を変える。自分のほうが悪いことがわかっていた俺は、その方向転換にありがたく乗っかり、「ほんとだ」なんて言いながら、スマホを手に取る。見てみると、メッセージアプリの通知が来ていた。
それはさっきまで話題になっていた、辻からだった。
『この間は、映画付き合ってくれてありがとう』
そのあとにスタンプ
『すっごい楽しくて、また坂本と遊びたいんだけど、空いてる日ないかな?今度はファミレスじゃなくて、なんかうまいもの食べよう』
今度は動物が飯を食ってるスタンプ。
俺はトーク画面を開いてしまってから、軽率に見てしまったことを公開する。このアプリでは、トーク画面を開いて、相手からのメッセージを見ると、既読のマークがついてしまうのだ。つまり辻には俺が辻の提案を見たことがバレてしまう。無視することや気づいてなかったふりはできない。
『ごめん、今友だちといるから後で連絡する』
とりあえず手早くそれだけ打って、送信する。
小西に言われたように、俺と辻は急によく話すようになった。それじゃ忘れられる片思いも忘れられないとわかるから、やめるべきだと思うけど、こんな風に誘われたら無理だ。きっと今日による、俺は自分のスケジュール帳をにらみながら、日程調整をしているに違いない。
辻にメッセージを送って、少し迷ってから、俺もスタンプを押しておいた。
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