まいにち、晴れて
満奇
第1話辻晴香について、坂本凪より
おはようって言いたい。毎日そう思うけど、声をかけようと思ったって、その声は喉の奥にひっついて、出てこない。結局彼を横目に見ながら、俺はその横を通り過ぎるだけだ。
「おはよう」
彼がほかの誰かにあいさつする声を、羨ましいなんて身勝手に思いながら、俺は今日も彼をただ見つめるだけ。
彼、辻晴香は女性的な名前に反して、女子に人気のある学生だ。うちの大学は結構大きくて、学部が同じでも、顔と名前が一致しないことが普通なのに、彼は同じ学部に限らず、多くの人に知られている所謂人気者。女子に人気がある奴ってのは、だいたい男からは嫌われる傾向にあるはずなのに、辻は男子からも絶大な人気を勝ち得ている。頭がよくて運動神経もいいのに、それを自慢することもないし、女の子に人気だけど、女たらしではない。そういうところで誠実な一面を出しているけど、馬鹿真面目でもなくて、髪色やファッションはカースト上位層にふさわしい洒落たものだ。
俺とは、全然違う。でも、俺はそんな彼に恋をしている。
彼の朝は毎日たくさんの人からあいさつされるところから始まる。当然といえば当然かもしれない。彼は学内中の人に知られているし、彼と少しでも関わりたいと思う人間は多いのだから。でも、そんな思惑が透けて見えるような人にでも、彼は笑顔で対応する。毎日毎日たくさんの人に囲まれて、鬱陶しいときもあるだろうに、彼は決して人を邪険に扱わない。さらに驚くことに、彼はその一人ひとりをきちんと覚えているのだ。顔と名前が一致する程度のレベルではない。レポートのことで話しかけてきたことがある奴には「今期の西山教授の授業とってんの?」と会話を振ることができるし、さっきあいさつして、彼と絡みたそうにしていた女の子には「こないだの金曜日もこんな感じで会ったね~」なんて笑って見せる。それは彼がたまたま覚えていたってことではないのだ。彼は彼に話しかける人全員を覚えている。俺はそう断言できる。自分でもほんとうにキモイと思うけど、彼をずっと観察してきたからわかるのだ。学校中の人気者である辻晴香に覚えていてもらえたら、それだけでみんな彼をもっと好きになる。もちろん、彼を好きな人ばかりではないと思う。みんなに好かれるのは、とても難しいことだ。でも、やっぱり彼は学内一の人気者なのだ。おはようって言いたい。毎日そう思うけど、声をかけようと思ったって、その声は喉の奥にひっついて、出てこない。結局彼を横目に見ながら、俺はその横を通り過ぎるだけだ。
「おはよう」
彼がほかの誰かにあいさつする声を、羨ましいなんて身勝手に思いながら、俺は今日も彼をただ見つめるだけ。
彼、辻晴香は女性的な名前に反して、女子に人気のある学生だ。うちの大学は結構大きくて、学部が同じでも、顔と名前が一致しないことが普通なのに、彼は同じ学部に限らず、多くの人に知られている所謂人気者。女子に人気がある奴ってのは、だいたい男からは嫌われる傾向にあるはずなのに、辻は男子からも絶大な人気を勝ち得ている。頭がよくて運動神経もいいのに、それを自慢することもないし、女の子に人気だけど、女たらしではない。そういうところで誠実な一面を出しているけど、馬鹿真面目でもなくて、髪色やファッションはカースト上位層にふさわしい洒落たものだ。
俺とは、全然違う。でも、俺はそんな彼に恋をしている。
彼の朝は毎日たくさんの人からあいさつされるところから始まる。当然といえば当然かもしれない。彼は学内中の人に知られているし、彼と少しでも関わりたいと思う人間は多いのだから。でも、そんな思惑が透けて見えるような人にでも、彼は笑顔で対応する。毎日毎日たくさんの人に囲まれて、鬱陶しいときもあるだろうに、彼は決して人を邪険に扱わない。さらに驚くことに、彼はその一人ひとりをきちんと覚えているのだ。顔と名前が一致する程度のレベルではない。レポートのことで話しかけてきたことがある奴には「今期の西山教授の授業とってんの?」と会話を振ることができるし、さっきあいさつして、彼と絡みたそうにしていた女の子には「こないだの金曜日もこんな感じで会ったね~」なんて笑って見せる。それは彼がたまたま覚えていたってことではないのだ。彼は彼に話しかける人全員を覚えている。俺はそう断言できる。自分でもほんとうにキモイと思うけど、彼をずっと観察してきたからわかるのだ。学校中の人気者である辻晴香に覚えていてもらえたら、それだけでみんな彼をもっと好きになる。もちろん、彼を好きな人ばかりではないと思う。みんなに好かれるのは、とても難しいことだ。でも、やっぱり彼は学内一の人気者なのだ。
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