Adl
花楠彾生
1
「今宵、我々は世界に光りをもたらす」
多くの報道陣に囲まれながら、白衣を纏う痩けた男は至って平静に、そう告げた。
男の手には、無色透明の液体が入った小さな瓶が優しく握られていた。
この一角の期待の温度が上がる中、
「私のこの手の中にあるこれは、不老不死の薬である!」
男は高らかにそう宣言した。
パシャパシャと鳴り響くシャッター音と、眼球を鋭く突く白い光。どよめきが走る人の輪。歓喜と緊張が渦巻く中、1人の記者が声を上げた。
「詳しい説明をお願い致します!」
男は小さく息を吸うと、また部屋の熱が少し上昇した。
「先程の言葉の通り、私達XX研究所は、不老不死の薬を開発した。通称A、D、L。アドルだ。研究期間は約60年。私の先代から続く研究である。そして、初の不老不死は私なのだ!」
男は瓶を高く上げ、大きく目を見開いた。
それはさながら、獲物を眼前にした獣の様だった。快楽を求める怪物。言うなればサイコパスの様だ。
それは紛うことなき狂いだった。
男はAdlと称された薬を一息に飲み込んだ。
「これで完成だ!これがAdlの完成の瞬間である!この薬で人類の道を切り拓くのだ!」
あまりの声量と気迫に、辺りは凍り付いた。しかしそれも数瞬。気が付いたら騒めきとシャッターの無機質な音が飽和していた。
狂気と快楽に溺れた男は笑った。
これを切り取ったメディアは、人類の道を切り拓く希望の薬だと報道した。
一部、狂気であると、そう報道する者も居た。
アナウンサーは言った。
「世界は光で満ちるだろう」
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