8話 クラブ 接敵
辺りが暗くなり、人通りがまばらになってきている駅前の時計前についた。
待ち合わせ場所に着くと僕はドキドキ緊張していた。
他の待ち合わせが恋人同士ばかりでひょっとして僕たちもそう見られてしまうかも!などと浮かれた理由ではもちろんない。
僕の数多い欠点の一つに人の顔を覚えるのが苦手といったものがある。
美少女だからといって僕の記憶にはあまり、残っていないのだ。わからなかったらどうしようかと不安に思う。
「マガツさんーーこっちこっちです。」
待ち合わせ場所に来たら、そこには手を振る金髪の少女がいた。
向こうから見つけてくれるとは助かる!
「お待たせしました……」
ルーティがあまりに笑顔で迎えてくれるので
僕はなんだか急に照れてきた。目線を下げてしまう。
「どうしたんですか?」
ルーの声にハッとする。
「えっとその、ルーティの今日の服は可愛すぎて眩しいなあって」
(アホか僕は、照れたのが恥ずかしいから。誤魔化すのに別の恥ずかしい言葉を言ったら意味ないだろが)
ちなみに同行する上でわずらわしいので相談所の時と違ってため口で話すよう打ち合わせで決めていた。ルーティは逆にため口に慣れていないため敬語の方が話しやすいらしいのでそのままだが。
僕はルーティの方へ目をやると彼女は顔を赤らめて先ほどの僕のように明らかに照れていた。
(これは…セーフか?)
「っそんなマガツさんも相談所で会った時とはまた違ったカッコよさがありますよ!」
「はははそう言ってくれると嬉しいなあ~ははは」
この手のボキャブラリーが貧弱なので僕は笑って誤魔化す。
そのまま話を変える。
「調べた結果、あの3人組の中の一人がよく行くクラブが判明したんだ。問題はそこが半グレの巣美巣暴威のナワバリだってことさ。」
「そこに乗り込んで悪い人たちを倒すんですね!」
好戦的すぎませんかルーティさん
「いやあくまで半グレと全面的に争うことは避けたいと思う。今回はクラブの客や店員から3人組の居場所、住居を調べ、分かり次第こっそりあいつらの住居に侵入。ペンダントの奪還。そして個別に接触して二度とルーティに関わる気が起こらないよう力を見せてできれば終わらせたいと思っている。」
「そうですか…てっきりこれから悪党相手に大暴れするのかと期待と不安でいっぱいで張り切り過ぎてたみたいです」
「現実の仕事ってのは地味なものだよ。」
半グレと全面戦争なんて御免被る。
~~~~
今回クラブに乗り込むに当たって未成年のルーティに注意がいかないようウィッグや服で変装はしてもらっている。
クラブで男に絡まれないよう、僕と恋人同士という設定だ。
「嫌だとは思うけど今日だけの辛抱だからごめんね」
「そんなことはありません、私はマガツさんと知り合ったばかりですが、私と大きく歳は変わらないはずなのにしっかりとした立派な大人だと思っています。」
僕は毎朝鏡の前で会うそいつにそんなことは思ったことは一度もないが。
「はははありがとう、でも悪い大人に騙されないようにね」
恋人らしく腕を組んでクラブの入り口に向かう。
強面のガードマンがドア前に立っており、止められないか一抹の不安があったが無事に通りすぎることができた。
中は騒がしく、個人の会話は聞き取れないが、これなら盗み聞きされる可能性も低いはずだ。
さっそくバーテンダーに声をかける。
「やあ、マスター、ソルクバーノをもらえる?」
「ええ、少しお待ちを」
そのまま他愛もない世間話を続ける。
「ははねえマスター、ここ巣美巣のナワバリってきいたんだけどさ」
「っあまり大きな声で話さない方が、私も詳しくは知りません」
バーテンダーは周囲を伺う。
「頼むよ、オレ巣美巣のメンバーに入れてもらいたいんだ。どこによく集まってるとか聞いたことない?」
袖から見えづらいよういくらかの紙幣を渡す。
「いやホントに何も」
まだ渋るか。
「頼むよー」
先ほどの倍の紙幣を渡してやる。
「………」
少し黙って下を向き手を動かすと小さなメモをこちらに渡してきた。
そのまま別の客の方へ向かう。
これで次の行先は決まったかな。
他にも構成員や武装についても確認できればしたかったが高望みはできないか。
ルーティに目配せし、クラブから外へでる。
歩きながら会話をする。
「すごい大人って感じでしたねマガツさん、あんなにスムーズに聞き出せるなんて!」
「ハハ、いや普段からこうもうまく行くわけではないよ、バーテンダーが金で動く人で良かった。」
「いやいやきっとマガツさんの交渉術あってのことですよ」
「そーそーマガツさんの交渉術あってのことですよ~」
「!」
「!」
ニヤついた男が目の前に立っていた。
「あっ!」
ルーティが男の一人を指さすが声がでなくなっているようだ。
僕もヒューミリエから顔写真で知っていた。襲撃者の一人だ。
「はっせっかく見逃してやったのにわざわざ、ここまで来るとはな。」
「私のペンダントを返してください」
「返すわけねーだろ、逆に今日は2人分の命を奪ってやるぜ、お前らでてこい。」
男の背後と僕たちの背後から仲間らしき連中がでてくる。これで十人か。
「前はナワバリでなかったし、短時間で終わらせる必要があったからな。今回はたっぷり時間をかけて可愛がってやるぜ」
(これは…戦闘は避けられそうにないな…)
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