2話 ルーティ

私はルーティアル・アルジェッテ。

親は数か月前に亡くなりましたが、親代わりの叔父に面倒を見てもらっています。

幸い私の家は有名な対妖武具メーカ―であったため、このご時世でも不自由なく生活することはできていました。

家業には携わらず、学業を優先するように叔父から言われているので私自身が妖に関わったことはありませんでした。 


ことの起こりはそう、父と母が亡くなってから数週間が立ってからのことでした。


~~~~


いつもと同じ風景を黒塗りの車の中から眺める。

「はあ…」

私は形見であるペンダントを握りながらため息をついてしまいました。

父母が亡くなりある程度、時間が経ちようやく立ち直ることができたと思います。

しかし、やはり気分はずっと重いままです。


以前は歩いて登校していたのですが、治安のこともあり車での通学をすることになっていました。

防弾、性能もある分厚い車なのですが、私には見るだけで威圧感を感じてしまいます。

最新のバルドミア社製の最新完全無人操縦車のため、ため息をついて誰にも聞かれないのはありがたいですが。

ええ。世間的に見れば自分は十分に恵まれており、不幸面をするのは申し訳なく思っています。

しかし、理性とは別の部分で気分が落ち込んだまま、学校へついてしまいました。




車のドアを開けると

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

学校の女生徒たちが挨拶を朗らかに交し合う様子がそこら中で見ることができました。


「おはよっルーティ」


私の友達の流堂みる子さんです。


「おはようございます。みる子さん」

「暗いことばっか考えてると沈むだけなんだから笑顔、笑顔」

むにっと私の顔をつまんできます。

「ひょっと~ひゃめてくだひゃい!」

「あはは、そうそうその意気だよ」

まったくもう、みる子さんには困ってしまいます。

……まあこうしていつも明るく、距離の近いみる子さんには救われている部分もあるのですが…

今日もきっとみる子さんなりに気を使ってくださったのでしょう。


そうしてじゃれあっているうちにいつの間にか教室に着いてしまいました。

「とーうちゃく」

「もう少しお淑やかにすべきですよ、みる子さん」


「ええ~それってルーティみたいに?私には無理だよ~。似合わないし」

「元気な所もみる子さんの魅力だと思いますが、先生に聞かれるとお説教されてしまいますよ」

「げっそれは嫌だなあ、まあ学校では気を付けるよ」

「ぜひそうしてください。」


「ご機嫌よう、ルーティ様、みる子様。」

「おはよう、茜」「おはよー」

お嬢様らしいお嬢様代表にして友人、茜・コースグレイは先に教室に着いていたらしい。


「あらあら朝から、やはり廊下から元気な声が聞こえてきたのでみる子さん達が来られたと思っていましたわ。」

上品に笑う。

見ているこちらが思わず安らいでしまうような笑顔だ。

「え~そんなに声だしてないよ~」

「自分では中々気づけないものですよ。」


「ところで2人とも!これを見て!」

みる子が何か長方形のチケットらしきものを3枚見せてきました。


「実はリ―ヤタウンのケーキ屋の無料券が手に入ったんだ!放課後行かない?」

「リーヤタウン?あそこは治安があまりよろしくなかったような…」

「いや、そんなに大通りからは外れていない所だから!それにそんなこと言ってたらこのご時世どこにもいけなくなっちゃうよ」

「それはそうですが…」


キーンコーンカーンコーン

朝礼のチャイムです。

「まだまだお話したいのですが、そろそろ朝礼が始まってしまいますわ。続きは後程お話いたしましょう。」

教室を見渡すと確かにそろそろ席に着いて準備を始めている方がちらほら見られます。


「そうですね。ではまた後程。」

「また、後でね~」


それぞれ分かれて席へつく。




~~~~~


「ふっ!やっ!」

授業で私は手に持った伸縮性のスタンロッドを振り回していた。

いや、実は私が不良で校内で暴れているわけではありません。


護身術の授業です。

うちの学校は選択制のカリキュラムで、希望者は実践的な護身術の稽古を受けられます。

最もこの学校の生徒はボディガードを雇っている子がほとんどなため受講者は少ないですが。


私も暴力的なものは苦手なのですが、家が武具メーカーのため武具の扱いはある程度できるようになろうと思ってこの授業に参加しています。


というわけで今もこちらの打ち込みに対し防御や回避行動をとるロボットに向かって棒を振るっています。

安全に考慮しあちらから攻撃をしかけてくることはありません。そのため少し物足りなさを感じてしまいます。


そうして打ち込みを続けているとチラチラと私を見ている視線を感じます。

みんな、私の動きを見て参考にでもしたいのでしょうか。

「はっあはっあーー、よくルーティは体力が持つよね」

みる子さんは休憩に入ったらしく息を切らしながら私に話を振ってきました。

「そうですか?ある程度練習すれば誰でもできますよ。」

「だーから、そのある程度が難しいんだってー、ルーティはそういいながらこの前は校内でも上位の成績だったでしょ」

「まっまあ、小さいな頃からトレーニングをしてましたし、何とか良い成績を収めれて良かったです。それにみる子さんだって悪くなかったでしょう?」

「へへまあね~、でも私はルーティみたいにおっぱいばるんばるんさせるような動きで注目を集めることはできないけどね」

「もうっ」

みる子の軽口に顔が熱くなってしまいます。


「そこ!お話ばかりしてないで真面目に練習に取り組みなさい!」

「「!はいっ!」」

先生に怒られてしまいました。


その後も私は真剣にロボット相手にロッドを振り続けました。

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