第28話
あの日からアリサ様を擁護する人が増えたことで、噂が流れ始めた。
アリサ様がイジメの被害にあっていると。
『物を隠された』
『教科書を破られた』
『噴水に落とされた』
『取り巻きに虐められている』
『すべて公爵令嬢が指示を出している』
これだけゲームのテンプレ通りだと、アリサ様が転生者の可能性がかなり高くなった。
ただ、実際物を隠されたり、教科書を破られた事は本当のようだ。
しかし、彼女に侍っている男性の中には婚約者のいる令息も数人いる。
そりゃあ、面白くない令嬢が何かしてもおかしくは無いだろう。
誰がやっていても、わたくしを悪役令嬢に仕立て上げたいようね。
『アズール様はあんな人が婚約者で可哀想』
これを聞いた時はさすがに傷ついた。
落ち込むわたくしを慰めてくれたユリアとイザベラには感謝してる。
ジークは「愛しているよ」と抱きしめてくれた。
わたくしの周り(クラスメイト)は、ジークとわたくしの仲の良さを知っているから、噂など信じていない。それは正直助かっている。
ただ兄とジークがそろそろ我慢の限界のようだ。
噂の出処は既に掴んでいるが、今は泳がせている状況でカイザー殿下の指示待ちになっている。
今ではアリサ様の周りは令息たちが常に侍っている。
令息たちよ、何故気づかない?
虐められている所を見たの?
噴水に落とされる瞬間を見たの?
ずっと貴方たちが側についていたのに?
あれだけ可愛くて庇護欲を唆る目で見つめられると冷静な判断も奪われてしまうのか、元からその程度の緩い頭だったのか分からないが残念ね。
証拠もない、目撃者もないのに噂を流し公爵令嬢を侮辱し、嘲笑していることにも気づかない愚かな人達だもんね。
アリサ様の言い分だけを信じて事実確認を疎かにした貴方たちの将来はもう決まったようなものね。
賢い人ほど、アリサ様やその取り巻きの令息達には近づていないようだ。
今は冷静に様子を見ているのだろう。
すれ違う人からヒソヒソされるのも気にならなくなった頃。
午後からの授業が始まるのにユリアとイザベラがトイレから帰ってこなかった。
嫌な予感がして授業が終わるなり教室から出た所でアリサ様の取り巻き3人が、「友達が大切なら黙って着いてきて」と言ってきた。
素直に頷き、連れて行かれた先は今は使っていない校舎だった。
さすがに人目のある所ではわたくしを囲んで歩くだけだったが校舎の手前で手をロープで拘束された。
3階にある用具室に使われていたような狭い部屋に連れて行かれ、話せないように猿ぐつわまでされた。
開けられた部屋の隅にはユリアとイザベラが手足を縛られ、口には猿ぐつわをされて震えていた。
わたくしの顔を見るなり泣き出してしまった2人を見てどこかの血管が切れた音がした気がした。
背中を押され2人のそばに転がされた。
「アリサに酷いことしたんだ痛い目見てもらうぜ」
お前らがな!顔は覚えたからな!
「先に楽しんでからにしようぜ、せっかく美人が3人もいるんだしな」
「じゃ他の奴らも呼んでこようぜ」
「面白くなってきたぜ」
なんて言いながら外に出ていった。
外からは鍵をかける音がした、その隙にロープを外した。
前世の兄と最悪の事態を想定してロープ抜けの練習を遊びでしていたが、こんなところで役に立つなんてね!兄さんありがとう!
すぐに猿ぐつわも外して2人に「大丈夫わたくしが絶対に守ってあげる。手足のロープは外すけど口はそのままにしておくわ。」2人は怖いだろうに頷いてくれた。
放課後になれば兄とジークが教室に来てすぐに動いてくれるだろう。
でもそんな猶予はないと思った方がいいね。
彼らはすぐに戻ってくるだろうから。
ここは3階だから窓から出るのは無理だし、武器になる物を探して部屋を見渡した。
部屋の隅には何本か箒が落ちているこれは使えるわね。
手にハンカチを巻いて迎え撃つ準備をする。
2人を巻き込んだこと後悔させてやるわ!
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