第14話 元部下との再会
私目がけて2人が飛びかかってきた。
そんな2人に向けて私は両手を広げて待機。
「レミリア様、本当にお久しぶりです。会えて嬉しいです」
「本当だぜ、まったくレミリア様は一回眠ると起きるまで時間がかかるからなぁ」
そう言って豪快に笑いながら私に抱きついているのは姉のアクア。喋り方からも分かる通り、性格はめちゃくちゃ豪快で私の直属の部下の中でも屈指の武闘派だ。ただ、知能面で言えばダントツのワースト一位。頭の中に筋肉が詰め込んであると言われても私なら信じてしまう。
そしてアクアの妹であるシズクは逆に落ち着きがあって、一つ一つの所作が美しい。それはまるで貴族令嬢が洗礼された舞踏を披露するかのようだ。2人は双子なだけあってかなり似ている。だが、髪色は明らかに違いが見て取れるため、間違う人はおそらくいないと思う。
私は2人を抱きしめながら一言「いつも悪いね」と謝る。
「そんな、私たちはレミリア様の部下なのです。上司が部下を使うことなど当たり前です」
「そうだぜ、レミリア様!こんな私でも大切な部下だと言ってくれたことは今でも覚えているぜ。あの言葉には痺れたなぁ」
「ちょ、恥ずかしいからそういうのやめてよ!」
私たちはお互いに笑い合っているが、置いてきぼりにされている人が一名。
「え、えっと、その方達は?」
リリアはキョロキョロと2人を見ながら不安気に私に問いかけてくる。
私は一度2人から離れてから2人をリリアに紹介する。
「この2人は私の部下のアクアとシズク、あ、元部下の方が正しいかな?魔王城無くなっちゃったし」
「いやいや、私たちは一生レミリア様についていくぜ。こんな偉大なお方、生きててそうそう出会えるもんじゃないしな!正直ここだけの話、魔王様よりも尊敬してるぜ!」
「そうです、私たちは望んでまたレミリア様の元に戻ってきたのです。また昔のように私たちを部下としてお使いください。それから、魔王様を卑下するのは良くありませんよ、姉さん。もしかしたら天罰が
アクアは『問題ない!』とガッハッハと豪快に笑っている。対照的にシズクは静かにペコリと一礼する。
「まあ、こんな2人だけど悪い人ではないよ。なんかついてくるっぽいし、リリアは大丈夫かな?」
リリアはコクリと頷いた。
「り、リリアです。レミリアさんとは冒険者として一緒に活動しています。よろしくお願いしまふっ!」
あ、噛んだ。
アクアは「よろしくな!」と一言、シズクは「よろしくお願いします」と綺麗な一礼と共に一言放つ。こんな一言一言の会話ですらこの姉妹の性格が表れている気がする。
「ずっと気になってたんですけど...」
リリアはおずおずと手を挙げる。
「ん?どうかしたの?」
リリアの視線は一瞬私に向けられたが、すぐに2人の背中へと向けられる。
「どうして2人は背中にスコップを背負っているのかなぁと思いまして...」
私は「あぁ、そういうことね」と呟いた。確かに私は見慣れたから今では普通だが、昔は私もなんでスコップなんか背負ってるんだこいつらと思った。
案の定2人はうんうんと頷いてから口を開いた。
「スコップってのは偉大でなぁ、こいつは武器として相当優秀なんだぜ?」
「ぶ、武器?」
リリアは戸惑った表情で私を見る。
「まあ、本当のこと、なのかな?私はよくわからないけど」
「レミリア様、スコップの良さがわからないのですか!?レミリア様にはまたスコップの良さを語らなければなりませんね」
「ちょ!?それだけはマジで勘弁して!あれは、あれだけはもう嫌ぁ...」
私は肩を抱いて震える。
本当にあれだけはもう嫌だ。延々とスコップの良さを語られる。そして気がつけばスコップを渡されているのだ。もはや良さを語るというよりも洗脳に近い。実際私の部下たちは全員それを受けて、一時期部下全員がスコップを帯剣するとかいう本当訳のわからないことが起きていた。結局目が覚めた部下たちはスコップをやめて元の武器を携帯した。そんなことがあったため、私の部隊は一時期『スコップ部隊(笑)』なんてふざけた名前で呼ばれていた。あれだけはマジで勘弁してほしい。魔王城の廊下で人とすれ違うたびに『あ、スコップ部隊のボスが来ましたよ!敬礼!』なんて言われてすごい嫌だった。そして、そんなスコップ愛が強い2人についた二つ名は『スコップ狂姉妹』。まあこの二つ名には私も納得だ。これだけ二つ名が合う人もそうそういないと思う。
そんな『スコップ狂姉妹』とまで呼ばれた2人は現在リリアに対してスコップの凄さについて語っていた。
「スコップってのはなぁ、普通は土を掘り返すのに使うだろ?でもさぁ、スコップの使い方ってのはそれだけじゃないんだぜ?」
いやいや、絶対に掘り返すためだけの道具だろ。
シズクは背中からスコップを抜き取ると、面を軽くトントンと叩く。
「スコップは武器として優秀なのです。面で叩く、先端で突き刺す、スコップの角で殴打する、単純に切り裂く。これだけでもかなりの攻撃パターンがあります。打撃が効かないなら切り裂けばいいし、逆に斬撃が効きにくい相手には打撃を与える。これがスコップの凄さなのです」
リリアは「ほぇー」と気の抜けた声を発している。
「まだまだそれだけじゃない!持ち手の輪っかを引っ掛けて使ったり、その持ち手に鎖を結びつけて鎖鎌のように使うことだってできる。どうだ?これだけでもスコップの凄さがわかってきただろ!?」
リリアは「あ、は、はい?多分、すごい、と思います?」と、頭の上にはてなマークを大量に浮かべていた。
「姉さん、どうやらリリア様はスコップの良さをあまり理解してない様子ですよ」
「そうだなぁ、こればっかりは見てもらわねぇとな。てことで今から魔物の討伐にでも行こうぜ!」
「ええ、賛成です」
それから2人はリリアの両脇に来て片腕ずつガッチリとホールドする。
「それじゃあ適当にレッツゴー!」
「「おー」」
「いやいやいやいや、ちょい待ちぃ!」
私は両手を広げて三人の前に出る。ていうかなんでリリアまで『おー』とか言ってるの?
「今外はもう暗いんだよ?流石に今からは遅いと思うんだけど」
そう言うと姉妹は揃って『こいつ何言ってるんだ?』みたいな表情をした。今の表情は絶対に上司に向けていいものではないと思う。
「レミリア様、あたしら吸血鬼ですぜ?日中は怖くて表なんて歩けやしないって」
「そうですよ、吸血鬼が最も力を振るうことができるのは夜、それも月が高く昇った頃です。それなのに何をおっしゃってるんですか?吸血鬼の姫と呼ばれし者が」
私は言われてから『うっ』と顔を歪める。
言っていることはわかる。わかるよ。たった数日リリアと過ごしただけで夜に寝て朝に起きるという習慣が染み付いてしまった。これには自分でも驚きが隠せない。
私ははぁっとため息を吐いてから『それじゃあ少しだけね』とだけ言う。
私の言葉を聞いた2人はガッツポーズをして再びギルドの扉へとリリアを引き摺っていく。
今夜は長くなりそうだなぁなんて思いながらゆっくりと三人の後を追った。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の更新は3月3日になります。
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