第2話 獣人の少女リリアと現状把握
目の前にいる少女は小柄で子供のように見えるが、ショートソードを帯剣していることからただの子供ではないようだ。見た目は10歳くらいに見えるけどこの世界、見た目で年齢を判断できるほど甘くない。現に自分も見た目16歳くらいに見えるけど実際うん百歳という歳なのだから。話が逸れたが、少女の頭にはちょこんとケモ耳が生えている。腰くらいのところからは少し大きめなふさふさした尻尾がゆらゆらと揺れていた。髪は耳や尻尾同様、お日様の元で元気に根を張る向日葵のような色をしている。髪は肩口に切り揃えられており、とても活発的なイメージを抱かせるが、先程発した言葉からあまり自信がない子なのかなぁなんて予測が立てられる。
少女は怯えた瞳で私を見ている。私たち吸血鬼がなんて人間たちに伝わっているのかは理解しているが、もしかしたら寝ている間に認識が変わっているのかもしれない。そんな希望を抱きながら私は口を開く。
「えっと、こんにちは。今日はいい天気だね!」
話題に困ったらとりあえず天気の話でもしておけばいい。私はそう思ってる。
少女は頭上に『???』と浮かべながら空を見上げる。今日は日が出ておらず、雲によって太陽が遮られている。
なんていい日なんだろう。
「いい天気、なんですかね?」
少女は苦笑いと一緒に返してくれた。とりあえず、掴みはバッチリだと思う。
「とりあえず私とお話しでもしない?」
少女は少し考えてからコクリと頷いた。
私が言うのもなんだけど、この子絶対変な人に声かけられたらついていっちゃうタイプだ。
そんなことを思いながら少女とゆっくり話すために場所を移した。
★
場所を移したと言ってもそこまで歩いたわけではない。先ほどの地点から少し離れて、元々魔王城の食堂があった場所まで移動した。そこに行けば椅子が置いてあるだろうと思ったからだ。案の定地面に固定された岩の椅子が無造作にあった。ほとんどの椅子が砕けたり歪な形になったりしている中で、かろうじて腰を下ろせそうなものが一つだけあった。
私がそのベンチの背もたれがないバージョンに腰掛けてからチョイチョイッと手招きをして隣に来るように伝える。
少女おずおずと私の隣に拳1個分くらい開けて座った。椅子はまあまあ長いので離れて座ろうと思ったら私5人分くらいは開けて座れるのに相当近くに座った。
少女は俯きながら指をモゾモゾさせて、時折チラチラとこちらの顔を見てくる。
どうやらこちらが話し始めるのを待っているらしい。
私はゴホンッと咳払いをする。すると、隣に座っていた少女は肩をビクッと震わせる。
なんかすみません...。
気を取り直して私は少女に顔を向けてから口を開く。
「とりあえず自己紹介でもしとく?てかしよう!そうしよう!これからお話しするのに自己紹介もなしだとちょっと、いや、だいぶ嫌じゃん?いや、何が嫌かって言われたら答えられないんだけどさぁ。あ、てかごめんね。久しぶりに会話したから喋るのなかなか止まらなくって」
私は少し照れながら少女を見るが、少女はというとなぜかポカーンとした表情をしていた。
「えっと、親からずっと魔族は悪いやつだって言われてきたけど、吸血鬼さんはなんかそうじゃないような...気がする。えっと、だから、なんていうか...」
少女の瞳はぐるぐると忙しなく辺りを見回している。なんとか一生懸命言葉にしようと頑張っているみたいだ。
ていうか、この子いい子すぎでしょ!
「大丈夫、あなたが私を気遣ってくれてるのはわかるよ。ありがとね。それじゃあ早速自己紹介しよっか。私はレミリア・ブラッド。見た通り吸血姫だよ。よろしくね!」
私は少女に手を差し出す。少女は私の手を握る。
「私はリリア、です。よろしくお願いします」
私はそんな自己紹介に笑顔で答える。だが、内心はめっちゃ焦っていた。
あれ?これ会話続かないパターンでは?
私自身も寝起きで久しぶりに人と会話するからまだ馴染めていない。そんな中でこれは非常にまずい気がする。とりあえずなんか話すか。
「えーっと、私久しぶりに起きたから今のこの世界の事情って何も知らないんだよね。とりあえず今
今何年なのか聞いてみる。
私が寝たときは確か人魔歴1352年とかだった気がする。少なく見積もっても今は人魔歴1500年くらいだと思う。
リリアはどう答えようか迷っている感じがある。暦を答えるだけなのに何を迷っているのだろうか?
「リリア、ゆっくりでいいから答えてみて」
リリアはコクリと頷いてからゆっくりと口を開く。
「えっと、今は新代歴323年です」
「ほぇ?」
やばい、びっくりしすぎて私じゃない声が勝手に口から漏れてしまった。恥ずかしい。
「えっと、その新代歴っていうのは?」
「はい、323年前に魔王が討伐されて、新たに呼び名が変わったんです」
「ん?てことは少なくとも323年間も寝てたってことか」
どうやら少し寝ていた期間が長かったらしい。だってしょうがないじゃん。あの部屋だと外の状況とかなんもわからないし、めっちゃ安眠できるし。私は悪くない。全てめっちゃいい環境のせいだ。
私は一人でうんうんと頷いている。
「それで、私の仲間たちってみんな死んだの?」
リリアは少し悩ましげな顔をしてから首を振る。
「私も伝え聞いた話なのではっきりとはわからないんですけど...」
「うん、知ってる範囲でいいから聞かせてほしいな」
私が笑顔でそういうとリリアは一度深呼吸してから話し始める。
「お父さんから聞いた話では魔王が討伐されてから、残った魔王軍は世界に散らばったと言っていました。もちろん戦争の中で魔王軍の人たちにも死者は多数出たって聞きました。でもやっぱり300年前の話ですから本当かどうかはわからないです。
確かに、エルフや天使族は長命な種族だから300年経ったからといって全員が全員死ぬことはないだろう。人魔大戦を経験している若者たちならば今現在も生きていると思う。
「生き残ってる魔王軍の人たちって人里に現れたりする?」
リリアは小さく頷く。
「はい、戦争終了後からいろんな街や村でよく見かけられる方は元魔王軍四天王のライナーさんですかね。あの方は各街を転々としていて、なんでも街や村で困っていることを解決しているみたいです。その甲斐あってなのか、今では元魔王軍の方々の心象も昔よりはひどくはないです。結局魔王が全部悪いみたいな感じで話は終了しました」
それはそれで魔王が可哀想な気がするけど、自業自得な気もする。元々みんな世界に叛逆するとかそんな乗り気じゃなかったし。現に私も戦争バックれたからね。
「となると、これから私どうしようかなぁ」
うーん、人の街で暮らせるならそれでもいいと思うし、でもせっかくならやりたいことやって生きたいなぁ。寿命的にもまだまだくたばるような年齢じゃないし。目標としてはあと1万年は生きるつもりでいる。
私があーしようかな?こーしようかな?なんて考えているとリリアが声をかけてきた。
「その、よければ一緒に村まで行きますか?」
「ん?村?」
「はい、私これでも冒険者なんですけど、その村を中心に活動しているんです」
「リリアの故郷ってわけじゃないんだ」
「そうですね、元々は王都にいたんですけど私、冒険者としてランクは高くないので...。王都だと高ランクの依頼ばかりで受けられるものがなかったんです。なので拠点を移して今活動しているって感じです」
「私元魔王軍だけど大丈夫そう?」
リリアは目を見開いて驚いたが、それから少し考えてから口を開く。
「人魔大戦から相当経過していますし、ライナー様の活躍もあって魔王軍の心象はそれほど悪くないです。なので大丈夫だと思いますよ?」
私は少し悩んでからひとつ頷いてみせる。
「おっけー、とりあえずその話乗った!」
それから私たちはリリアの活動拠点である村へと向かったのだった。
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